<金口木舌>苦悩を象徴する曲

 ドイツの詩人ゲーテの戯曲「エグモント」は、スペイン統治下で圧政に苦しむ16世紀のネーデルラント(今のオランダなど)が舞台。人々の権利を制限する圧政を批判する貴族エグモント伯爵は逮捕され、処刑が決まる

▼この戯曲のためにベートーベンが作曲した「エグモント」序曲は、沖縄の歴史の節目でも披露された。1972年5月15日、那覇市民会館で行われた復帰記念式典だ。首里高校吹奏楽部の生徒らが演奏した

▼当時、指揮・指導した音楽家の富原守哉さんが6日に他界した。選曲について「沖縄の苦悩を象徴する作品」と捉え「苦難から(復帰後の)将来への喜び」の思いを込めたことを取材で語っていた

▼富原さんが指導した同吹奏楽部は71年の全日本吹奏楽コンクールで金賞に選ばれるなど実績を残した。県外への移動にはパスポートが必要な時代。税関で不当な扱いを受けたこともあったという

▼復帰から半世紀を経た今もなお、不条理は続く。沖縄の未来をどう描くのか。富原さんが選曲に託した思いを受け止めたい。

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