片桐仁が「最新のアート!」と大絶賛…伝統と自由が共存する“現代日本画”の世界

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。12月18日(土)の放送では、「郷さくら美術館」で“現代日本画”の魅力に迫りました。

◆伝統的な画材、そして自由な発想が光る現代日本画

今回の舞台は、東京都・目黒区にある郷さくら美術館。2012年に開館した現代日本画専門の美術館で、昭和以降に生まれた日本画家の作品を中心に、約800点を所蔵しています。

片桐は、そんな郷さくら美術館で開催された"経年変化”がテーマの現代日本画「WABI/SABI」展へ。経年変化とは「時間が経つに連れ、ものが変わっていく」といった意味ですが、絵画においてはどういうことなのか。さらには近代日本画とどこが違うのか、片桐が紐解いていきます。

同館の学芸員・依田恵さんの案内のもと、まず注目したのは佐藤晨の「冬の月」(2007年)。「ここで演劇が始まりそうな、ドラマチックな絵ですね」と見惚れる片桐。この作品に使われているのは、日本画ではよく使われる画材"銀箔”。今でこそ落ち着いた色合いになっているものの、描かれた当時は銀の輝きが強かったそうで、それこそまさに経年変化。片桐も「それを意識して銀箔が使われているんですね」と感心しきり。

そして、「10年後、20年後はどういう色味になっているかわからない……枯れていくのを想像するのは面白い」、「絵のダイナミックさは変わらないけど印象はたぶん変わる。この金属感が弱まってくるかもしれない」と経年変化に思いを馳せます。

そもそも、銀箔は空気に触れないようにコーティングすることも可能で、すごく多彩な表現ができる画材です。

一般的に日本画では鉱石などを砕いて作った岩絵具や金箔・銀箔などを使い、ニカワと呼ばれる動物性のゼラチン質を溶かして接着剤にして描きます。それは経年変化しにくい油絵と違い、あえて変化を楽しむのも日本画の味わいのひとつです。

続いては齋藤満栄の作品で、朝早く、湿り気が残った空気に包まれた菊が幻想的で美しい「管菊」(2006年)。そこには金箔を粉々にし、ニカワと水で溶いた絵具「金泥」が使われており、片桐は「華やかなんだけど、儚げな感じ」とその印象を語ります。

伝統的な画材を使用しながらも自由な発想で独自の世界観を紡ぎ出している現代日本画ですが、最新のものになるとまた新たな魅力が加味。村居正之の「驟雨」(2019年)ではお堂から漏れる光に金泥を使用。片桐も「すごいな~、こういう金の使い方もあるんですね」と舌を巻きます。

この作品に描かれた雨に「版画で(歌川)広重などの雨を見てきましたけど、それを彷彿させる」と片桐。降り続ける雨が音を吸い取り、さも静けさがあたりを支配しているような仕上がりとなっています。ちなみに、このお堂は琵琶湖のほとりに実在するもの。

一方で片桐が「ファンタジー好きの女の子とかが喜びそうな感じ」と話していたのは中川脩の「醍醐寺螢」(2020年)。「この青の色使い、そして蛍が……」と唸っていましたが、モチーフは現代日本の風景ながら、どことなく幻想的。なかでも蛍の輝きは秀逸。日本画材の中には単体で輝きを生む絵具があり、それとは別に「水晶末」や「きら(雲母)」といった輝きを加える絵具も。これには「ニカワさえ混ぜちゃえばなんでも絵具、その辺りの日本画の貪欲さはすごい」と絶賛します。

また、作者の中川は芸大の日本画科卒業後にアートディレクターや油絵でも活躍し、現代日本画へと至ったそうで、その異色の経歴に片桐は「いろいろな経験を経て、日本画に戻った時にこういう絵になった。全てが影響を与え合って、これぞ現代日本画」と感服します。

◆既存の日本画にはない、非現実世界を描く現代日本画

次は関谷理の「櫻花嶺」(2014年)。これは、春風に乗って桜の花びらがヒマラヤ山脈まで届き、舞う姿を描いたもので、完全に想像の世界ですが、その着想に「日本から数千キロ離れたヒマラヤ山脈!?」と唖然とする片桐。

その上で「半分抽象画という感じだけど、山の岩肌の感じとかはものすごく描き込んでいて」と作品を分析し、水面に映るヒマラヤもまた一興で「不思議な世界観ですよね。夢のなかの世界というか」と凝視。関谷は"境界”や"境目”、そしてその先にある世界に興味があり、この作品でもそんな思いが表れています。

現実にはない世界は西洋絵画では古くから描かれていましたが、現代日本画でもそうした世界を描く画家が多くいます。吉川優もその1人で、「夏日」(1992~2015年)では独特な世界観が全開。片桐は「夏日!? どこが?」と目を丸くする一方で、作中には日本画では古くから使われている金箔を貼って硫黄で焼くという技法が施されており、それを知った片桐は「日本画、なめちゃいけないですね」と息を吞みます。

◆現代日本画の奥深い世界を堪能し、片桐のイメージにも変化が

2階へと足を進めると、そこには壁一面にさまざまな桜の作品が。片桐は「すごい……桜が満開ですね」と圧倒された様子。そこは桜の絵画だけの展示室で、1年中お花見ができるよう桜の作品が集められた「桜百景」。

まずは「屏風絵はいっぱい見たことがあるけど、こんなに花びら満開なのは初めて見ましたね」と片桐が語るは中島千波の「石部の桜」(2015年)。そこに描かれる石部の桜は樹齢約650年にもなる実存する名木。また、中島自身"桜の千波”と言われるほどの桜描きの名手で、全国各地の桜を描いています。

通常、桜の花はさまざまな方向を向いて咲きますが、ここに描かれた桜の向きは全て正面。これは琳派を意識したもので、現実とは違いデザイン性を重視。ただ、「全部正面を向いているけど、濃淡で距離感を感じますね」と片桐が言うように、奥行きもあり、その膨大な花の量に「(描くのに)気が遠くなりますね……すごい」と感動。なお、花びらには黄色でめしべとおしべもしっかり描かれており、漏れがないように描くのがとても大変だったそうです。

かたや、日本三代桜に数えられる福島県・三春町の滝桜が描かれているのは栗原幸彦の「春宵瀧桜」(1993年)。

これは樹齢1,000年を超える桜で、栗原がそのスケッチをしていた際、地元のテレビ局がライトアップしていたそう。それをラッキーだとそのまま描いていたものの7割程度描けたところでライトは消えてしまい、そこからは記憶を頼りに描いたとか。

これまで多くの日本画に触れてきた片桐ですが、今回は奥深い現代日本画の世界を堪能し「現代日本画って、日本の伝統的なものを受け継いで描いているイメージが僕もみなさんもあったと思うんですけど、そのイメージが変わりました」と話します。

そして、「現代日本画は日本画の技術で自分の表現したいことを表現した結果、こういう絵になっている最新のアート」と語り、「現代日本画の奥深さを教えてくれた郷さくら美術館、素晴らしい!」と称賛。絶えず新しい挑戦を続ける現代日本画家たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、佐々木裕而の「冬曙松林」

郷さくら美術館の展示作品の中で、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは、佐々木裕而の「冬曙松林」(1992年)。

とりわけあっさりとした作品ですが、「近づいて見ると"うわっ”となるんですよね」と片桐。というのも、細かい枝の一つひとつにオレンジの実が。片桐は「すごくキレイなんですけど、近寄った瞬間に狂気というか、ここを描きたかったんじゃないかなっていう気がする」と思いの丈を語り、「気づいた人は"おぉ~”ってなると思うんですけど、普通にスルーしちゃう人はもったいないですね」とも。

最後はミュージアムショップへ。特殊な形をした絵ハガキに「1枚100円!」と驚いたかと思えば、風呂敷やクリアファイル、収蔵品がプリントされたTシャツなど片桐はさまざまな商品を物色。

そんななか、目に留まったのは「HAQUA」。それは箔から生まれた箔アクセサリーで、タトゥーシールのように水で肌に転写できるシール。これには「へぇ~!」と驚く片桐でした。

※開館状況は、郷さくら美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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