「司法と福祉の懸け橋に」 更生保護施設「雲仙・虹」、前田施設長に吉川英治文化賞

吉川英治文化賞を受けた前田施設長。入所者と談笑し、笑顔を見せる=雲仙市瑞穂町、更生保護施設「雲仙・虹」

 社会福祉法人南高愛隣会(長崎県諫早市)が運営する更生保護施設「雲仙・虹」(雲仙市)の施設長、前田康弘さん(65)=同市=が、国民文化の向上に尽くした個人・団体に贈られる第56回吉川英治文化賞に選ばれた。開設当初から13年にわたり、罪を償った障害者や高齢者らの社会復帰を包み込むような愛情で支えてきた。「司法から福祉へバトンをつなぐ懸け橋に」。後進に思いを引き継ぎ、3月末に勇退する。
 帰り先のない刑務所からの出所者らを一定期間保護し、社会復帰を後押しする更生保護施設。雲仙・虹は全国103施設で唯一、社会福祉法人が運営する。福祉の専門スタッフを配置し、ニーズに応じて法人内の福祉的な資源を提供できるのが特長。これまで約360人を受け入れ、うち8割近くを障害者と高齢者が占めた。
 前田さんは法人設立3年目の1979年から南高愛隣会で勤務。初代理事長の田島良昭さん=昨年8月に76歳で死去=と共に、障害者の就労支援などを全国に先駆けて取り組み、「ハンディのある人の支えになっている」と自負があった。
 だが罪を繰り返す「累犯障害者」の存在を知った田島さんが強いショックを受け、それまでなかった司法と福祉をつなぐ仕組みづくりを2006年に開始。「支えがないために万引や無銭飲食など軽微な犯罪を繰り返す負の連鎖に陥っている人がいる」。前田さんも同じ思いで走りだした。
 南高愛隣会は09年、後に全国に広がった地域生活定着支援センターに続き、雲仙・虹を開設。前田さんが施設長に就いた。一定期間保護するシェルター機能に加え、本人と受け入れ先の双方が見学や体験利用を通じ不安を解消する「緩やかな移行のための中間施設」の役割を果たしている。
 前田さんが強く印象に残る言葉がある。「女性と話したことに感動した」。前科28犯の60代男性が発した。男性は知的障害があり、無銭飲食を繰り返した。「警察に捕まった人」と地域から白い目で見られてきたが、実際に会うと純朴で真面目。女性職員から対等な目線で接してもらい、うれしかったのだろうと前田さんは胸に込み上げるものがあった。
 雲仙・虹では草取りなど、ささいなことでも入所者に表彰状を贈る。「褒められることがなかった人が多い。光るものを見つけ、やり直しに生かしたい」。年末恒例のもちつきには元入所者がスーツ姿で顔を出す。前田さんは「次回も待っている」と声を掛ける。「帰る場所がなかった人たちの第二の古里になれば」。それが罪を繰り返すことを踏みとどまらせる力になると考える。
 退職を前に届いた受賞の吉報。「私たちの活動に共鳴し、育ててくれた皆さんに感謝したい。職員のスキルなど(受け入れの)土俵は整っている。一度きりの人生に寄り添うという視点はこれからも変わらない」。名物施設長はそう語り、いつもの「前田スマイル」を見せた。
 同文化賞は公益財団法人吉川英治国民文化振興会(東京)主催。本県からの受賞は1996年以来。贈呈式は4月11日、東京都内で開かれる。


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