マギー・ギレンホール「演じるより面白い」Netflix『ロスト・ドーター』初監督作でアカデミー賞3部門ノミネートの快挙

メイキング:Netflix映画『ロスト・ドーター』独占配信中

『ロスト・ドーター』記者会見@ヴェネツィア

第94回アカデミー賞で、主演女優賞(オリヴィア・コールマン)、助演女優賞(ジェシー・バックリー)、脚色賞(マギー・ギレンホール)の3部門にノミネートされたのが、マギー・ギレンホールの監督デビュー作『ロスト・ドーター』(Netflixで独占配信中)だ。エレナ・フェッランテの原作に惚れ込んだ彼女が本人に映画化の権利を問い合わせたところ、ギレンホール自身が監督するならと、許可が下りたという。

Netflix映画『ロスト・ドーター』独占配信中 Photo: Noam Galai

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大学教授のレダ(コールマン)は、ギリシアの避暑地をバカンスのために訪れる。ひとり気ままで静かな休息を取っていたのも束の間、ビーチに騒々しい家族がやってきて静寂が破られる。レダはそのなかでも若い女性(ダコタ・ジョンソン)とその幼い娘に視線が吸い寄せられる。しょっちゅうビーチで顔を合わせる彼女たちを観察するうちに、レダの心には、母親としての過去のトラウマが蘇る。

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母としてのタブー、彼女たちに世間が求めるもの、あるいは彼女たち自身の罪の意識などを鋭く見つめた本作は、昨年のヴェネチア国際映画祭でワールドプレミアを迎え、脚本賞を受賞。以来さまざまな賞レースを賑わせ、アカデミー賞でも注目を浴びている。

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ここでは、ヴェネツィア国際映画祭の記者会見におけるギレンホールの言葉を中心に振り返りながら、本作についてご紹介しよう。

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「演じるよりも、こっちの方が面白い」

かつて子育てを放棄しキャリアを優先したヒロインの、痛々しい姿を描くこの物語に惹かれた理由を、ギレンホールはこう語る。

この小説を初めて読んだのは何年も前でした。最初のわたしの反応は、「やれやれ、この母親は完全にイカれている」というものでした。でもそのあとしばらく経ってから、やはり共感を覚えると思ったのです。それは、わたしもイカれているからなのか? でも実際、多くの母親が多かれ少なかれ、レダと同じような気持ちを抱いたことがあるのではないかと思いました。

ただそういうことはふつう、人には話さない。これは隠された真実なのだと。それで、このテーマについて語りたいと思うようになったのです。その気持ちはやがて、自分が母親や夫やあるいは子どもと一緒にいるときも、どんどん大きくなった。それで、挑戦するのは危険もあるけれどエキサイティングだと思い、映画化しようと思ったのです。

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もっとも、監督業については、実はかなり前から考えていたと言う。

わたしはつねに監督をすることに憧れていました。でも若い頃は、すぐに監督という肩書きを自分が請け負う勇気がなかった。それが最近、『DEUCE/ポルノストリート in NY』(2017~2019年)というテレビシリーズで、ポルノ映画を撮る売春婦を演じたとき、自分はこういうことが向いているかもしれないと思えたのです(笑)。実際、演じるよりもこっちの方が面白いと。

もちろん俳優の仕事も十分に面白いけれど、つねに監督とウマが合うというわけではない。自分にたくさんアイディアがあっても、そんなことは求められず、ただ書いてある通りに演じることが良しとされる場合が少なくない。とくに女優の場合は。だからフラストレーションが溜まっていくこともありました。

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そんな経験があったからこそ、本作の現場では誰もが自由に意見を言えるような雰囲気を作ることに心を砕いたという。たとえばダコタ・ジョンソンはギレンホールについて、「彼女にはとても特別な絆を感じました。マギーに会うと、俳優としても人間としても、彼女のプロジェクトに関わりたいと思わせられた。とても安心を覚えて信頼することができた。アーティスティックでクリエイティブなコラボレーションになるだろうということが感じられたのです」と語る。

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罪悪感と傲慢さを併せ持った複雑な母親を演じきったコールマンも、こう添える。「最初にマギーと会って話しをしたとき、とても知的な人だと思いました。わたしはあまりに緊張したため、お酒をたくさん飲んだら、少し気が楽になって話せるようになりました(笑)。彼女はとてもオープンで誠実に話しをしてくれるんです。監督としても女優としても万能で、わたしはマギーのような女優になりたいと思いました!」

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「素晴らしい俳優は、想像を超えるものを与えてくれる」

本作の醍醐味は、決して共感しやすいキャラクターというわけではないにも拘らず、映画が進むうちに観客は次第にレダに引き込まれ、その秘密や暗い側面を理解したいと思わせるところにある。

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とりわけ脚本が高く評価されているのも頷ける、スリリングなストーリーテリングの妙がある。ギレンホール自身は、そんな脚色のプロセスについてこう語る。

自分でも驚いたことは、小説を脚色することは俳優がテキストを読んで、このセリフの真髄は何だろう? と考えることに似ていると思ったこと。この原作のエッセンスは何か、そして、そのなかで自分がもっとも共感できる、繋がりを感じるところ、なぜ映画にしたいのかと思う要素を抽出していく作業でした。それでも最初は、本の構造に忠実に、章から章へと追っていました。でもフェッランテと何度かメールでやり取りをするうちに、彼女はわたしがわたしの世界を構築することを望むと言ってくれた。それで弾みがついたのです。

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本作のさらなる見所としては、豪華なキャストも挙げることができる。コールマン、バックリー、ジョンソンという3大女優もさることながら、エド・ハリス、アルバ・ロルヴァケル、そしてギレンホールの夫でもあるピーター・サースガードらが、小さな脇役を固めている。

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レダが若い頃に不倫をする相手を演じたサースガードについて、ギレンホールは手放しでこう賞賛する。

正直言って、最初は彼に頼むのを迷いました。もしかしたらバッド・アイディアかもと。でもピーターとわたしはもう10年以上一緒に居て、彼がわたしを愛してくれていることを知っていたので、逆に彼ほどわたしが信頼できる人も、この役を演じられる人もいないだろうと、ある時点で確信しました。それにピーターがどんな演技をするのか想像がつかなかった。脚本の段階でも彼はこちらの頭が吹き飛ばされるようなアイディアをもたらしてくれた。素晴らしい俳優がそうであるように、想像を超えるものを与えてくれるのです。

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一方サースガードもそれを聞いて、「自分の才能を感じて生き生きとしている妻を見るのは、この上なく嬉しい。彼女はとても才気溢れる人なんだ」と、のろけて見せた。

このところクロエ・ジャオ、ジュリア・デュクルノー、レベッカ・ホール、オリヴィア・ワイルドなど、女性監督の進出がめざましいなかで、またひとり鮮烈な才能が誕生したことを祝福したい。

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取材・文:佐藤久理子

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