5000円支給案

 〈人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った〉-原田ひ香さんの大ヒット小説「三千円の使いかた」は、主人公の一人のこんな回想から始まる▲えっ、どういう意味? と問い返す中学生の孫娘におばあさんは「言葉どおりの意味だよ。三千円くらいの少額のお金で買うもの、選ぶもの、三千円ですることが結局、人生を形作っていく、ということ」。今にわかるよ-と、物語は動きだす▲ふむふむとうなずきながら“5千円の使い方”を考えた。ハードカバーの新刊小説が3、4冊読めるだろうか。スーパーでのまとめ買いには少し心細い。ちょっとぜいたくな食事だと、お釣りはもらえるかどうか…▲年金支給額の減少に伴う高齢者向けの生活支援策として浮上した政府の5千円支給案が議論を呼んでいる。「参院選前の露骨なばらまきだ」と野党▲金額の重みが人によって違うのはもちろんだが、財布や家計に劇的な変化をもたらすとは言い難い。1千億円超の予算が必要になるらしいが、コストと「1回限り、1人5千円」の効果のバランスは何となく危うい。既に「臨時特別給付金」の支給を受けた住民税非課税層は対象外。「生活支援」の理屈がかすむ▲いくつか浮かんだ疑問符がなかなか消えない。今にわかるよ-とお話は進むだろうか。(智)


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