長崎県内SDGs通信簿 「労働」や「貧困」に低評価 読者が達成状況を“採点” ナガサキポストアンケート 218人が協力

長崎県内の達成状況は-。国連が2030年までの達成を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」の17項目について、長崎新聞は今月、情報窓口ナガサキポストのLINE(ライン)登録者に、長崎の現状を5段階で“採点”してもらった。県内外の218人の協力で完成した「長崎SDGs通信簿」を公開する。(三代直矢、六倉大輔)

調査は4日夜から5日間で実施し、10~80代の女性114人、男性104人が参加した。経済や教育、ジェンダーなどのテーマ別に設定された17の目標をそれぞれ「1・達成できていない」「2・あまり達成できていない」「3・どちらとも言えない」「4・おおむね達成している」「5・達成している」の5段階で評価してもらい、目標ごとに平均点と順位を出した。

ナガポス読者が採点した長崎県内のSDGs達成度

■ワースト1~3は経済 「働きがいも 経済成長も」が最低の2点

最も点数が低かった目標は「働きがいも 経済成長も」で2点。次いで「貧困をなくそう」2.21点、「産業と技術革新の基盤をつくろう」2.26点だった。ワースト1~3位はいずれも経済関係。県内の不安定な労働環境や、ひとり親世帯の困窮などに課題を感じる人は多いようだ。

一方、上位は高い順に「安全な水とトイレを世界中に」3.48点、「平和と公正をすべての人に」2.99点、「飢餓をゼロに」2.94点。

全17目標の平均は2.63点で、中間の「3点」を下回った。

■「自分の地域は自分で良く」「形ばかりで中身ない」

採点以外にSDGsに関する疑問や意見も募った。

長崎市の30代男性は「長崎や日本、世界のことを自分ごとと捉え、自分の地域は自分で何とかすると思う人が増えれば、長崎はもっと良くなる」と前向きだ。

五島市の30代女性は「SDGsを意識して生活するのが難しいからこそ、目標を達成できると清々(すがすが)しい気持ちになるのかも」と受け止める。

一方で「現状の長崎では形ばかり。キャッチコピーだけが一人歩きして中身は全く伴っていない」(佐世保市の40代女性)などと厳しい意見も寄せられた。

各目標に寄せられたコメントからは、現状へのさまざまな問題意識が読み取れた。SDGsが目指す世界を表す「五つのP」▽People=人間▽Prosperity=豊かさ▽Planet=地球▽Peace=平和▽Partnership=パートナーシップ―に沿って紹介する。

People=人間(目標1~6)

■ひとり親家庭の貧困「食べていけない」

貧困や人権に関わる「人間」の分野には目標1~6が当てはまる。このうち「貧困をなくそう」の平均点は2.21点で、17目標中で2番目に低かった。「達成できていない」を選んだ人の多くは、ひとり親家庭の苦境を理由に挙げた。

長崎市で大学生と小学生を育てるシングルマザーの40代女性は「無理して稼いでも課税所得になり、児童手当が減額される。大学の学費も免除されず、食べていけない」。他にも「所得が低いと子育て層は相対的に貧困化する」「仕組み自体が経済弱者と強者をつくっている」など格差社会が生み出す相対的貧困を指摘する人が多かった。

■ジェンダー不平等 女性の政治家や管理職少なく

飢餓、福祉、教育、水道設備に関する目標は比較的平均点が高かったが「低所得層は教育にお金が掛けられない」「お金がなくて病院受診を控える人が多い」など貧困、格差の問題と結び付けて達成は不十分と考える人もいた。

「ジェンダー平等を実現しよう」は2.33点で全体で14位。先進国でも最低レベルと指摘される国内のジェンダーギャップ状況を、県内でも感じている人が多いようだ。

理由として、女性の政治家や管理職の少なさ、家庭や職場などでの性役割の固定化が挙がった。五島市の30代女性公務員は「女性の方にも遠慮しているところがある。もっと強く行動していい」と主張した。

Prosperity=豊かさ(目標7~11)

■サービス残業、低賃金、非正規雇用に不満相次ぐ

「豊かさ」には目標7~11が該当。エネルギーやインフラ、産業など主に経済成長に関わるテーマが「持続可能」の枠組みで位置付けられている。

働きがいのある人間らしい仕事を促す「働きがいも 経済成長も」の平均点は2.0点で全17目標中最低だった。サービス残業や休日出勤の常態化、低賃金、非正規などの労働環境に不満が寄せられた。

雇用の悪化や地場産業の衰退が、人口減少や若者の県外流出につながるとの懸念も多い。長崎市の30代男性会社員は「目先の利益ではなく、持続性を優先して目標利益を決めてもいい」と企業側の変化を求めた。

■障害者や外国人の不平等なくして

技術革新やまちづくりに関する他の目標でも同様の問題意識が浮かんだ。東彼東彼杵町の40代女性自営業は「今ある資源を生かすアイデアや新しい視点の産業が必要」と提言した。

障害者雇用に課題があると感じる人も多いようだ。自身も障害者だという西彼時津町の30代女性は「働きたくても無理ができないし、適正な仕事さえ見つけるのも大変」と訴えた。

「人や国の不平等をなくそう」では、障害者だけでなく女性や高齢者、外国人らへの格差是正を求める意見が出た。一方で「異文化共生が他の都市より根付いている」と本県の歴史を踏まえ、多様性社会の実現に期待する声も寄せられた。

Planet=地球(目標12~15)

■気候変動対策「伝わらない」

自然環境との共存や保護に関わる「地球」分野は、「気候変動に具体的な対策を」が2.36点(13位)、「つくる責任 つかう責任」が2.54点(11位)で低い評価となった。

気候変動対策では具体目標で国の対策計画策定や、教育や啓発の充実が求められているが、相次いだ声は「具体策が不明確」「何をしているか伝わらない」。既に計画は公表されているが浸透は不十分のようだ。「いまだに職場は大量の紙紙紙」(長崎40代女性公務員)との嘆きもあった。

■野菜廃棄防ぐため「規格見直すか廃止を」

責任ある生産や消費の観点では「2030年までに店や消費者が捨てる食料を半分に」との具体目標がある。個人レベルではレジ袋の辞退や冷蔵庫の中身を使い切ることで「達成」を選ぶ人がいた一方、規格外の野菜や売れ残った商品の廃棄が続いているとの指摘も目立った。五島の30代女性公務員は、野菜の規格品と規格外品を「食べ比べたが同じ。規格を見直すか廃止を」と提言する。

「海の豊かさを守ろう」は2.92点で4位。海の美しさや水産資源の豊かさといった「海洋県」の魅力を誇る声の半面、低い評価をした人の多くが海岸の漂着ごみ問題を挙げた。

Peace=平和(目標16)

■教育充実も不公正残る

「平和と公正をすべての人に」は2.99点(2位)で、「平和教育は充実。永遠に継続して」(南島原50代女性自営業)、「平和活動は全国トップ」(長崎30代男性会社員)と高評価。被爆地が長年、核兵器廃絶や反戦のメッセージを発信してきたことが高評価につながったようだ。一方、いじめや虐待、新型コロナ禍の差別など、県内の「不公正」を憂う意見もある。

Partnership=パートナーシップ(目標17)

世界が協力関係を築く必要性を説く「パートナーシップで目標を達成しよう」は2.73点(7位)。組織に頼らず市民一人一人が目標に向き合う大切さを指摘する声や、そもそもの人間関係が希薄化していると懸念する声などがあった。

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