小泉今日子「Bambinater」東京モッズシーンの名曲 “東京ディスコナイト” もカバー  小泉今日子 デビュー40周年のアニバーサリー・イヤー!

収録されたクラブヒットナンバーに注目、小泉今日子「Bambinater」

80年代の初頭、原宿歩行者天国のローラー族を象徴とした空前のフィフティーズブームにあやかり、レコードメーカー各社は倉庫に眠っていた50年代、60年代のアメリカンポップス、ロックンロールをオムニバスとして続々とリリースした。それらはレコードショップの棚に新譜同様に並んでいた。つまり、温故知新型と言おうか、古い、懐かしいという価値観ではなく、今を生きるリスナーにとって、初めて聴く20年前以上の音源であってもリアルタイムのアーティストの新譜同様の説得力を持つ新たな時代が幕開けした。

80年代のこのような状況は国内のみならず、日進月歩で開拓されていった音楽シーンの中で、古き良き時代の名曲が新しい解釈でリメイクされることが、その都度注目されていった。

思いつくままに羅列してみるとヴァン・ヘイレンの「プリティ・ウーマン」(ロイ・オービソン)であったり、フィル・コリンズの「恋はあせらず」(スプリームス)であったり、バナナラマの「ヴィーナス」(ショッキング・ブルー)であったり…。それぞれの楽曲の持つエナジーを時代に即したディティールを施しリメイクすることで、大きな反響を呼び、新たな価値観で時代のメインストリームに君臨していった。

それは、小泉今日子が1992年に “KOIZMIX PRODUCTION” の名義でリリースした『Bambinater』の中にインクルーズされたクラブヒットナンバー「東京ディスコナイト」のリメイクもまた然りである。

収録曲「東京ディスコナイト」オリジナルはスクーターズ

スクーターズは80年代初頭、“東京モータウン・サウンド” というキャッチコピーを掲げ活動を開始。キュートな60’Sガールグループ的なファッションとヴォーカルスタイルを全面に打ち出し、東京モッズシーンで絶大な人気を博す。1983年にリリースされたシングル「東京ディスコナイト」はリリース以降現在に至るまで、クラブシーンで絶大な人気を誇り、今なおフロアを沸かせている。いわゆる “和モノ” のハシリとして、この7インチを含む彼女たちのアナログ盤は度重なり復刻。オリジナル盤は今なお中古市場ではかなりのプレミアムがつき取引されている。

ちなみに、この7インチアナログ盤のアートワークは、当時、漫画誌『ガロ』への寄稿で話題を呼び、ヘタウマ漫画という時代の最先端とされた画風を象徴するテリー湯村(湯村輝彦)氏だった。テリー氏のイラストと同じように、スクーターズの魅力は、キュートな “ヘタウマ感” にもあった。玄人筋の完璧なコーラスではなく、ガレージ感溢れるライブアクトも彼女たちの魅力のひとつであり、現在もその魅力を失わないまま、不定期ながらライブを続行中だ。

古き良きポップミュージックを知り尽くしたアーティストたちが集結

さて、話を『Bambinater』に戻そう。時は1992年、クラブシーンが隆盛を極め、“渋谷系” というレコードカルチャーを中心としたムーブメントの真っ只中に”KOIZMIX PRODUCTION”というヒップなネーミングで12インチのアナログでリリースというのも時代性を物語っていた。

このプロジェクトに参加したのは、前々作『No.17』でタッグを組み、スカ、レゲエ、ハウスといった最先端のクラブサウンドの中に、小泉今日子の飾り気のないナチュラルな個性を見事に落とし込み新境地を切り開いた東京クラブシーンの最重要人物、藤原ヒロシを始め、渋谷系の流れから現在に至るまで、ポップカルチャーの中枢で東京のど真ん中ともいえる音をクリエイトし続けるピチカート・ファイヴの小西康陽、MUTE BEATにも参加、DJ、リミキサーとして活躍の場を広げていた宮崎泉(Dub Master X)、小山田圭吾、朝本浩文、田島貴男、テイ・トウワ、浜崎貴司… といった布陣。つまり時代の最先端にいながら、良質なダンスミュージック、時代を俯瞰出来るポップミュージックを知り尽くしたアーティストたちが、がっちり脇を固めたという印象だった。

つまり、新しいだけじゃない、普遍的な魅力がこの作品には内包され、温故知新型の音楽の楽しみ方も内包されていた。それは、フィラデルフィアソウルを代表する、スリー・ディグリーズの大ヒットナンバー「天使のささやき」のカバーだったりもする。宮崎泉と朝本浩文が手掛けたアレンジは、まさに世紀末へと時代が加速した1992年のダンスミュージックという印象で、高速のブレイクビーツを全面に打ち立てながらも、小泉さんのヴォーカルは極めて優しく温かみを感じさせるオリジナルのイメージを忠実に守っている印象がある。

この温故知新的な魅力こそが、この作品の根底にあるのだ。それは、「東京ディスコナイト」のリメイクにしても顕著だった。この楽曲の全面に打ち出されているスプリームスの「恋はあせらず」を思わせるモータウンビートの躍動感はそのままに、エッジの効いたギターのカッティングやダンサブルなパーカッションの音が特徴的だった小西康陽のアレンジは、日々革新する音楽シーンの最前衛だったと断言できる。つまり、80年代に60年代の面影を時代に即した形で打ち出したのがスクーターズだったが、80年代にメインストリームのひとつであった温故知新型の解釈を90年代に打ち出したのがこのリメイクだったと言えよう。

 ミラーボールも踊りつかれて  角のパーラー通り過ぎたら
 ネオンサインも消えてしまった
 霧の歩道に二人抱き合うの…

こんなコミックスから抜け出したような甘酸っぱいリリックの世界観がスクーターズの魅力でもあった。これを継承し、小泉流にアップデートされ、楽曲の持つ本質を失わず新たな時代へ打ち出すことに見事成功した。

そして、間奏に入る「Hey!」という小泉さんの掛け声がたまらなくいい! このキュートさは日本の至宝だといっても過言ではないくらいだ。まさにキラーチューン! 彼女の魅力はここに集約され、それは「まっ赤な女の子」で「♪まっ赤な まっ赤な女の子ぉ」と語尾が上がる感じに匹敵する大発明だということを最後に付け加えておきたい。

カタリベ: 本田隆

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