有隣荘 ~ 春秋限定公開の特等席から眺める倉敷美観地区

モノトーンの家が並ぶ倉敷美観地区に、緑色の瓦屋根が特徴的な建物があるのを知っていますか?

この美しく立派な建物は、「有隣荘(ゆうりんそう)」という大原家の旧別邸です。

ふだんは外観しか見ることのできない有隣荘ですが、年に春秋の2回だけ特別公開されます。

貴重な特別公開時に内部のようすを、取材しました。

有隣荘内は通常、撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただいています。

有隣荘とは

有隣荘は、倉敷の経済と文化に大きな影響を与えた「大原家」の旧別宅です

1928年(昭和3年)、大原家七代目当主・大原孫三郎(まごさぶろう)が、病弱な妻のために建設しました。

その後迎賓館として使用され、1947年(昭和22年)には昭和天皇の宿泊所としても使用されたそうです。

現在は「大原美術館」の施設として使われています。

ふだんは外観のみが見学可能で、特別公開の時期を除き、内部は一般公開されていません。

有隣荘が見学できるとき

有隣荘は、ふだん外観しか見ることができません。しかし、1997年(平成9年)から年に春と秋に1回ずつ、大原美術館主催の特別展示の際に内部が公開されています

例年、春の公開はゴールデンウィークのころ、秋の公開は10月です。

しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、2020年春〜2022年春の特別展示は中止となりました。

復活したのは2022年秋の特別展示「マティス ― 光と色と」。実に3年振りでした。

過去の特別展示

  • 2018年秋「三瀬夏之介 倣玉堂(ほうぎょくどう)」
  • 2019年春「緑御殿的美緑(みどりごてんてきみりょく)―ミレー、セザンヌ、会田誠、ロスコ色々」
  • 2019年秋「漂泊之碑(ひょうはくのひ)」
  • 2022年秋「マティス ― 光と色と」

有隣荘の見どころ

2階からの倉敷美観地区の眺め

倉敷美観地区メインストリートの端のほうに位置する、有隣荘。

2階の窓からは、倉敷美観地区を見下ろすことができます

この眺めが、もう最高!

かつては大原家と来賓だけしか見ることができなかった、特等席からの眺望です。

倉敷美観地区の美しさに改めて感動しましたし、まるで大地主になったようなとてもリッチな気分になれました。

個人的には、この眺めだけでも特別展示入場料の元が取れる、と感じています。ぜひ見てほしい景色です。

大原美術館も見えましたよ。

緑色の屋根瓦

有隣荘は、緑色の瓦屋根が目立つことで「緑御殿」とも呼ばれています。

この瓦は、画家の児島虎次郎(こじま とらじろう)が、中国で見た孔子廟などにインスピレーションを受けて、有隣荘のために瓦の産地である泉州谷川の窯で特注したものだそうです。

特殊な釉薬(ゆうやく)が使われていて、見る角度によって黄緑のようであったり、深い緑のようであったり。

また釉薬のかかり具合によって、オレンジっぽいところや白っぽいところもあり、均一でない屋根瓦が、なんとも美しく印象的なのです。

この有隣荘の屋根瓦は、現在の価格で1枚3万円ほどだったといわれています。

和洋折衷の建築

有隣荘の設計は、薬師寺主計(やくしじ かずえ)によるものです。

薬師寺主計は、大原美術館本館や、登録有形文化財に指定されている 元 中国銀行倉敷本町出張所(新児島館(仮称))などの建築を手がけました。

和風建築部分は、築地本願寺(東京)・明治神宮(東京)などを建築した伊東忠太(いとう ちゅうた)のアドバイスも受けています。

また、内外装の各所には、児島虎次郎の意匠も取り入れられています。

例えば龍模様の欄間(らんま)は、辰年生まれの大原孫三郎にちなんで児島虎次郎がデザインしたのだとか。

テラスに置かれたテーブルと椅子も、児島虎次郎デザインだそうです。

近代日本庭園の先駆者による庭園

有隣荘には2つの庭があり、それぞれ異なる雰囲気を見せています。1階の和室は開放的なガラス戸なので、屋内から庭を広く眺めることができました。

有隣荘の庭園は、近代日本庭園の先駆者である「七代目 小川治兵衞(おがわ じへい)」によるもの。

明治・大正期の最高の庭師であり、“水と石の魔術師”と呼ばれた作庭家です。

小川治兵衞は、平安神宮神苑(京都)、慶雲館(けいうんかん)庭園(滋賀)、無鄰菴(むりんあん・京都)などの庭を手がけました。

また大原美術館の隣にある、「新渓園」も手がけています。

三瀬夏之介「倣玉堂」について

三瀬夏之介「小盆地宇宙」(2018)部分

2018年10月19日(金)~11月4日(日)の期間中、有隣荘では、三瀬夏之介さんによる「倣玉堂」という特別展示が開催されました

2018年の秋しか見られない、有隣荘だけの展示です。

画家の三瀬夏之介(みせ なつのすけ)さんは、日本の伝統的な素材を用いた絵画作品を手がています

若手作家の登竜門であるVOCA賞・第32回京都府文化賞奨励賞などを数々の受賞歴があり、日本各地で個展が行われてきました。

また、文化庁・金沢21世紀美術館・ドイツのザクセン州立美術館・ベネトン財団などに作品が収められています。

三瀬さんは、江戸期の文人画家で大原家にもゆかりのある浦上玉堂(うらかみぎょくどう)に惹かれていたそうです。

展覧会「倣玉堂」では、浦上玉堂作品にインスピレーションを受けて制作された三瀬さんの新作や、浦上玉堂の作品が公開されます。

展示作品のうちの2つは、有隣荘に滞在して制作されました。

有隣荘で飾るのに最適なサイズで、日々の日差しの入り具合などを感じながら、作られた作品なのです。

大きな窓から自然光の入る部屋での展示は、天候や時間によっても見えかたが変わります。

しっかり見えるようにいつも均一な光を当てている美術館での展示とは異なるので、少し見づらいことがあるかもしれません。

それこそが作品が描かれた環境であり、おもしろいところでもあるんですね。

三瀬さんの作品は、力強くも有隣荘にしっくりと馴染み、昔からそこにあったかのように感じられました。

おわりに

特徴的な外観で目を引く「有隣荘」は、和洋折衷の建築と、豊かな庭園と、リッチな眺めが堪能できる、素晴らしい場所でした。

内部が見られる貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてくださいね。

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