共感を呼ぶ秀逸な歌詞、小泉今日子「優しい雨」が多くの女性の心を打つ理由  小泉今日子 デビュー40周年のアニバーサリー・イヤー!

湿度を感じさせてくれる名曲中の名曲「優しい雨」

“雨” をテーマにした名曲といえば、ASKAの「はじまりはいつも雨」、森高千里の「雨」、中西保志の「最後の雨」… と挙げればキリがない。その中でも、より湿度が高いのが小泉今日子の「優しい雨」(だと勝手に思っている)。まとわりつくような独特な湿度のあるこの曲は、1993年に放送されたTBSドラマ『愛するということ』の主題歌だった。

当時、筆者にはまだこの恋物語が大人の世界に見えて理解できなかったが、この曲聴きたさに毎週ドラマを観ていた。最終回のクライマックスで流れたこの曲は全てを持って行ったし、ドラマの大きな柱だったと思う。

主演ドラマ「愛するということ」主題歌

ドラマの内容はこうだ。一目惚れした “普通のサラリーマン” が、“普通の生活” の中で見かけたOL(婚約者持ちのキョンキョン)に恋をするというお話。

このサラリーマンは「好きだ、好きだー」の勢いでキョンキョンの後を追いかける猪突猛進型。今でいうなら、ほぼストーカー。ただ、それでもこのドラマが視聴者をドン引きさせなかったのは、サラリーマン役を緒形直人が演じたことにあったのではないかと思う。緒形直人といえば、地味に淡々と演技をする役者だ。“普通” を演じさせたら右に出る者はいない。そんなリアリティーがあったからこそ、物語に現実味を与え、ストーカーチックな行動も緩和されていたように推察する。

そして何より、この主題歌「優しい雨」の素晴らしさが、私たちをドラマの世界に没頭させる大きな役割を担っていた。なんとも表現しがたいアンニュイな雰囲気を漂わせる楽曲を、キョンキョンがしっとりと歌い上げていく。その抑えた歌声のクールさが、恋のせつなさをいっそう増幅させる。ためいきや吐息のようにも聴こえてくる歌声と雰囲気は絶妙だ。

歌詞で実感する小泉今日子の高い “アーティスト色”

作詞は小泉今日子、作曲は鈴木祥子、編曲は白井良明が担当したこの曲。どこか厳かな世界観を漂わせる静かで美しいメロディーは鈴木祥子らしい楽曲だ。さらに曲に深みを与えているのが、鈴木のコーラスアレンジであり、白井のアレンジだろう。しとしとと降る雨の情景が目の前に浮かぶようで見事だ。この曲は、1991年の「あなたに会えてよかった」でのミリオンヒットに続き、小泉今日子を代表する曲となった。

この頃のキョンキョンは役者としてもアイドルとしても、その殻を脱ぎ捨て、アーティスト色の強い存在として輝きを放っていた。それは歌詞を見てもよく分かる。

 運命だなんて口にするのなら
 抱きしめて連れ去ってよ
 私のすべてに目を反らさないで
 はじまってしまったから…

 こんなに普通の毎日の中で
 出会ってしまった二人
 雨が止む前に抱きしめ合えたら
 あなたについてゆく

 はじまってしまったから…

ドラマのストーリーが色濃く反映された歌詞だが、誰の物語にもなり得る “共感” を呼ぶこの秀逸な歌詞は、女性たちの心を打ち、今もカラオケで歌う女性が後を絶たない。この歌詞の共感性が “雨” の名曲として、多くの人から愛されてきた所以だと思う。

多くのクリエイターに愛された小泉今日子

小泉今日子が多くのクリエイターたちから愛され、彼らを引きつけてやまないのは、アイドルの中の中に見える “アーティスト性” にあるのだと思う。

彼女の楽曲を辿ると前述の2人に加えて、小室哲哉、細野晴臣、近田春夫、藤原ヒロシ、屋敷豪太、東京スカパラダイスオーケストラ、小林武史、井上陽水、奥田民生など、そうそうたる名前が並ぶ。

その時代ごとに数々のクリエイターと物作りをしながら歩んできた小泉今日子は、何より自身が “小泉今日子” をコントロールしクリエイトしてきた。そんなセルフプロデュース能力の凄さこそが、小泉今日子の絶対的な力であり魅力なのだと改めて思う。

最後に「優しい雨」によって、あまりスポットライトが当たらなかったカップリング曲「永遠の友達」についても触れたい。これもまた「優しい雨」に劣らないほどの名曲だ。シンプルな曲で派手さはないものの、キョンキョンがささやくように歌うウイスパーボイスは秀逸だ。

 あなたは涙を流していたけれど
 私は少しも悲しくなかったの
 さようならと 抱き合った時
 ふたりの真ん中に
 温かくて 信じられる 愛が生まれた
 Forever friends
 会う事はないけれど  Forever friends
 幸せを願ってる

というフレーズに思わず涙が溢れる。“恋愛としては一緒にいられないけれど、いつまでも私たちは友だちよ” と抱き合う2人の姿。恋はソウルメイトという絆へと昇華され終わりを迎える。とても美しい大人の恋だ。

そしてこの曲を手掛けたのが大沢誉志幸であり、アレンジが大村雅朗という、ここにも素晴らしいクリエイターたちがいたことを記しておきたい。

カタリベ: 村上あやの

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