湯河原にカナダ仕込みの醸造所オープン さまざまなクラフトビールを展開

湯河原町で「HUMANS BEER」を立ち上げたエンバリー・ギャリーさん一家=HUMANS BEER提供

 カナダ出身で神奈川県湯河原町に住むエンバリー・ギャリーさん(65)の一家が昨秋、湯河原のクラフトビールを堪能してもらおうと、同町初の小規模醸造所(ブルワリー)をオープンした。2018年の台風で浸水被害を受けた貸別荘を、10年以上も構想を温めてきた夢の醸造所に改装。新型コロナ禍で観光客が減るなど影響を受ける温泉町で、「地ビールで活気を取り戻したい」と奮闘している。

 同町福浦の港や海水浴場の近くに構えた「HUMANS BEER(ヒューマンズビア)」でギャリーさんら家族5人が、丹精込めてクラフトビールを醸造している。

 かわいらしいオバケのような男の子のキャラクターが目印で、軽い飲み口のピルスナーやホップをたくさん使ったダブルホップIPAなど、さまざまなクラフトビールを用意。年間約2万リットルの醸造を予定し、すでに全国各地の酒屋やバーなどへ卸している。

 小田原出身で日本人の妻・ソフィアさん(58)がマネジメントを担い、長女ミコミシェルさん(30)が渉外担当、長男アンディさん(25)が会社代表、次女アリシアさん(23)がデザイナーという家族経営だ。

◆構想10年以上

 ギャリーさんは1987年、友人を訪ねるために来日したことがきっかけとなり都内に移住。人材紹介の仕事や個人投資家として生活する合間を縫って熱を注いでいたのが「クラフトビール」造りだった。カナダの友人のブルワリーなどで技術を磨いた。

 「自国仕込みのクラフトビールをより多くの人に広めたい」と夢を抱いたギャリーさん。都内で出会った妻ソフィアさんや子どもたちと、96年ごろに妻の出身地・小田原へ移住。水が豊富で海と山に囲まれた自然豊かな湯河原に引かれ、2003年ごろに福浦の物件を購入。10年からは貸別荘を経営して生計を立てつつ、クラフトビール醸造の構想を練ってきた。

◆台風を機に決心

 転機は予期せぬタイミングで訪れた。18年7月の台風12号。県西地域で高波が発生し、浸水被害が相次いだ。ギャリーさんの貸別荘にも海水が流れ込み、コンクリートや泥などが堆積するなど被害が出た。

 友人や地域の人たちの手も借り、一家で復旧作業を続けながら、ギャリーさんは「せっかくならやりたかったことを実現させよう」と決心。「人間同士、お互いに助け合い、励まし合い、楽しもう」という思いを「ヒューマンズビア」の名前に込めたという。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中での船出となり、観光客が減って酒類を提供する飲食店も少なくなっている。そんな苦境下でも湯河原唯一のクラフトビールを手に、ギャリーさんは「こだわって造っている分、楽しみにしてくれている地元の方々も多い」と胸を張る。

 ヒューマンズビアのモットー「おいしいビールがあれば、人生に問題なんて起こらない」を胸に、ファミリー5人で「ビールで町を盛り上げたい」と前だけを向いている。

 販売や問い合わせはオンラインショップ(https://humansbeer.com/)から。週末は同醸造所で直売も行う。

© 株式会社神奈川新聞社