「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」で見えてきたこと(3)教育 トップの広島は育児支援が好評、長時間労働の学校現場で女性登用進まず

 3月8日の国際女性デーに合わせ、上智大の三浦まり教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が試算し、公表した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」。世界各国の男女間格差を測る“本家”のジェンダー・ギャップ指数と同様の手法で統計処理したもので、「政治」「行政」「教育」「経済」という4つの分野ごとに、各都道府県での格差の現状を可視化した。教育分野の分析から詳しく見えてきたものとは。(共同通信=酒井沙知子)

(都道府県版ジェンダー・ギャップ指数のサイトはこちら)

 https://digital.kyodonews.jp/gender2022/

 ▽上位県は女性教員の登用が進んでいる

 教育分野は六つの指標に基づいて分析した。具体的には学校の校長・教頭ら管理職や、都道府県の教育委員における男女比、大学進学率(四年制)の男女比など。教育分野で格差が最も小さく、1位となった広島県は「小中高校の副校長・教頭」の指標でもトップ。2位の神奈川は大学進学率以外の指標全てで10位以内だった。3位の石川は「小学校の校長」と「中学・高校の校長」が最上位に。女性教員の登用が進んでいる自治体は、教育分野全体でも上位に入る傾向にあった。

 

 教員は、以前から女性が進出している職業として知られる。文部科学省の2021年度「学校基本調査」によると、小学校教員に占める女性割合は62・4%。ただ、部活動が盛んになる中学校になると44・0%、教科の専門性が高まる高校では32・9%まで減少する。

 ▽働き方改革が進まない学校現場 

 学習内容の高度化、子どもの多様化などを受け、教員は多忙になっている。

 時間外労働の上限は原則月45時間と定められているが、文科省の「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」(21年度)によると、年度初めで特に忙しいとされる4月にこれを守っていたのは、小学校50・5%、中学校37・4%、高校60・0%に過ぎない。文科省は働き方改革を訴えているが、なかなか進まないのが現状だ。

 長時間労働が常態化している教育現場で、家事や育児も担う女性が昇進するのは難しい。校長ら学校管理職への女性登用は小学校26・8%、中学12・8%、高校10・6%にとどまる。

 ▽政府より目標が高い広島

 広島県は今回の指数の試算で「小中高校の副校長・教頭」は1位、「小学校の校長」は2位、「中学・高校の校長」は8位と、女性教員登用に関する指標三つとも上位に入った。育児休暇からの復帰支援などに力を入れていることが奏功したとみられる。

 

文部科学省=東京・霞が関

 広島県教委が育児休暇中の教員向けに開いている研修では、支援制度の説明の他、子育て経験のある指導主事らが仕事との両立について語ったり、参加者同士が交流したりする。25年度までに管理職の女性の割合を40%にする目標を掲げ、担当者は「政府目標を上回る水準だが、努力したい」と意欲を示す。

 ▽親の意識、大学の有無も影響

 指数の試算のうち、大学進学率は21年度学校基本調査に基づき、都道府県別に男性の進学率を1として、女性の進学率を算出した。すると女性が男性を上回った徳島と沖縄がトップで並び、3位東京、4位高知、5位は熊本と続いた。

 最下位は山梨の0・75。女性は男性に比べ、短大や専門学校に進む割合が高かった。ただ、山梨の大学進学率自体は全国トップレベル。男女格差が小さい県には、進学率が男女とも全国平均より低い県が散見された。

 女子の大学進学率が最も高かったのは、東京で74・1%。最も低い鹿児島は34・6%で、鹿児島を含む10県が30%台だった。男女だけでなく、地域による格差にも注目して改善に取り組む必要がありそうだ。

 

 専門家によると、格差の背景にあるのは(1)近隣の大学に教育や看護・医療系といった女性に人気が高い学部学科があるかどうか(2)性別によって進学に対する期待に違いがあること―などとみられる。子どもは幼い時期から長い時間を学校で過ごす。校長ら指導的な立場の大人に女性が少ないことが成長期の子どもに影響し、男女の進学動向の違いにつながるとの見方もある。

 ▽「女子は進学しなくても」が将来を狭める

 宮崎公立大の寺町晋哉准教授(教育社会学)は「教育現場では、整列や名簿の順番、『君』『さん』呼びなどで子どもを男女に分けて扱いがちだ」と指摘する。こうした扱いによって、子どもは性別を認識し、自分を縛ってしまう可能性があると説明した上で「女子は大人から『四年制大学へ行かなくていい』『わざわざ県外に行かなくても』と聞かされる。ささいなことが一つ一つ積み重なり、将来を狭め、大学進学にも影響を及ぼしているのではないか。学校などで、子どもの個性が性別によって制限されていないか、注視すべきだろう」と語った。

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