北朝鮮女性20人「集団亡命」か…海外で消息不明、米メディア報道

国連安全保障理事会が採択した対北朝鮮制裁決議2397号は、国連加盟国が自国内にいる北朝鮮労働者を2019年12月22日までに送還することを義務付けている。しかし、制裁の網をかいくぐって、北朝鮮からの労働者の派遣が続けられている。

中国には、就労ビザではなく研修ビザを使うなどの手口で、数多くの北朝鮮労働者が送り込まれている。その数は数万人に達するものと見られている。その多くは東北地方の工場で働いているが、一部は他の地域にも派遣されている。

そんな中、上海の工場に派遣されていた複数の北朝鮮の女性労働者と丹東の支配人が行方をくらます事件が起きた。現地の北朝鮮領事館が捜索に当たっているが、1ヶ月経っても見つかっていないと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

大連在住の情報筋はRFAに対し、上海のアパレル工場に派遣されていた北朝鮮の女性労働者らが先月中旬、集団で姿を消したと伝えた。その数は20人。彼女らの管理監督を任されていた支配人も共に姿を消した。

いずれも、新型コロナウイルスの感染が拡大し、北京冬季オリンピックが行われる中で寮に隔離されていた。中国企業の社長が、支配人に電話をしたものの繋がらず、寮を訪れたところ姿を消していたという。

RFAによると、報告を受けた北京駐在の北朝鮮総領事館は、中国公安当局に協力を要請し、国境に向かう鉄道駅や国境のチェックポイントを中心に捜索を行うなど、全力を挙げて追跡している。しかし、1ヶ月経っても見つからず、領事館は脱北した可能性が高いと見ている。東南アジアに向かったのか、既に韓国に入国しているのかを調査するなど、大騒ぎになっているとのことだ。

なお、韓国政府は一部の例外を除いて、脱北者の入国について公式に確認しない姿勢を取っている。

上海から遠く離れた遼寧省丹東の別の情報筋は、今回の事件について丹東駐在の北朝鮮代表から伝え聞いたとして、丹東の代表部も彼女らの集団脱北を防ぐために、行方を追っていると伝えた。公安当局も協力しているが、今のところ見つかっていない。

上海は人口が2400万に達する巨大都市で、人混みに紛れ込みやすく、市内を抜け出すにあたって有利だ。しかし、中国では長距離の列車、バスを利用するにあたって身分証明書の提示が求められる。そのため、案内人と共に脱北を企図したものと思われる。身分証明書の提示が要らない自家用車などを使って上海を抜け出した可能性が考えられる。

上述の通り、ほとんどの北朝鮮労働者は東北地方で働いているが、実力のある支配人は、北朝鮮政府への外貨稼ぎ計画の上納金を2倍納めることで、上海や北京などの東北地方以外の大都市に進出し、労働者を働かせていると、情報筋は述べている。

集団脱北事件としては2016年4月、上海の南にある浙江省寧波の北朝鮮レストラン「柳京食堂」従業員の事例がある。

一方、2017年には吉林省長春のIT企業に派遣されていた技術者が集団脱北を図ったものの、全員逮捕され、失敗に終わっている。

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