新庄野球は「普通の人間には考えられない」 OB驚きの連続…順位予想“上方修正”

日本ハム・新庄剛志監督【写真:荒川祐史】

通算2000安打も記録した田中幸雄氏が新庄野球の行方を占う

キャンプからここまで、球界の話題をひとり占めした感すらあるのが新庄剛志監督が率いる日本ハムだ。“ガラポン”で決めるスタメン、本職を無視したかのような守備位置など驚きの采配を繰り出し、オープン戦では8勝6敗2分という成績で勝ち越した。日本ハム一筋に通算2012安打、引退後は打撃コーチや2軍監督を歴任した田中幸雄氏は、キャンプ視察などで大きな可能性を感じ、順位予想を「上方修正」したという。

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「新庄監督のやり方を見ていなかったら、今季のファイターズはBクラス、最下位もあるくらいだと思っていました。野手を見るとどうしても得点力が足りない。投手はある程度いいんですが……。でも、キャンプやオープン戦を見ていたら『もしかしたら、Aクラスもあるんじゃないか』と思えてきました。他のチームの状況もあるので、優勝は厳しいかもしれませんけどね」

名護キャンプにも足を運んだ。さらに“ビッグボス効果”で逐一報じられる動向から感じたのは、新庄監督の“引き出す力”だ。まず大きく変わったのがチームの雰囲気だという。

「誰も声を出さない、覇気がない。昨季までは練習からそんな感じでしたよね。でも今年は見てる方が気持ちいいくらいですよ。とても大切な部分だと思います。それも『声出せよ』と言われて出している声じゃない。やっていて楽しいから、声が勝手に出るという感じなんです。若いうちは特に、声を出せば体も動く。新庄監督は方向性をつけるのが上手いですね。『声出せよ』と言うんじゃなく、自然と楽しく、元気を出す方に持って行くんです」

新庄監督の意識付けの上手さは、プレー面でも同様だという。例えば、大きく報じられたフラフープを使った練習だ。高さ3メートルほどに固定し、この中を通した上で誰が遠くへ投げられるかをチェックし、選手には60メートルほどを投げられるように求めた。低く、強い送球を意識付けするのが狙いだ。

「肩が弱い選手は、そもそもそういう発想がないんですよ。遠投で距離を出そうとすると、高く投げることになってしまう。だから意識を持つだけで変わってきます。肩が弱くても、思い切って全力で投げるようになる。早いうちから考え方が変われば、肩だって強くなります」

日本ハム一筋で引退後は2軍監督などを歴任した田中幸雄氏【写真:荒川祐史】

ポジション“ぐるぐる”の意味…「必死にやった時どうなるか」

新庄マジックはまだまだある。キャンプ開始から、選手に“本職”ではないポジションを守らせることが多かった。これはオープン戦に入っても続き、捕手の清水が遊撃に、外野手の淺間が二塁に入ったこともある。中田翔(巨人)、西川遥輝(楽天)、大田泰示(DeNA)といった主力が抜け、残った選手でレギュラーと言えるのは近藤健介外野手くらい。だったらこの奇策で選手の“可能性”を広げるのもありだ。

「もしかしたら、このポジションしかやりたくないという選手がいるかもしれない。でも内野手が外野をやることで、守備の動きや足の運びがわかるかもしれない。自分の選手人生にいい影響があるかもしれませんよね。プロに入ってくるような能力の高い選手が、アマチュアのような感覚であちこち守ったときにどうなるか。1軍に残りたい、試合に出たいと必死にやった時、考えられない伸びがあるかもしれない。今のところは、それが勝ち星に繋がっている感じですね」

必死になることでの好影響もあるという。プレッシャーを感じている時間がなくなるのだ。ポジションが突然動き、ガラポンで打順が決まるとなれば、選手は何とか役割をこなそうと集中力を高めることになる。

「精神面って本当に大事で、たとえば(送球難の)イップスが出るのって、プレッシャーのない場面なんですよ。平凡なゴロのほうが出る。考える時間があるとおかしくなるんです。一方、無我夢中で本当に集中していると出ないもので、難しいプレーのほうがパパっとできたりするんです」

セオリーとは異なり、1番に大砲、4番に俊足選手を置いたりする打線の組み方についても、田中氏は「新庄監督のすることは、普通の人間には考えられませんよ」と前置きしたうえでこう解説する。

セオリーと異なる打順の意味「1巡すると1番は1番ではない」

「初回はともかく、1巡すると1番が1番ではなくなるじゃないですか。出塁より、還さなくてはならないことがある。あと『この選手には、なんだかやたらチャンスで回るな』という選手は確かにいるんです。その前に出塁率の高い選手を置いたらどうなるか。4番に足の速い選手を置くのは、内野安打を取れて転がせば1点という形を作りたいのかもしれない。そうなると5番に2番のようなタイプを置くこともあるかもしれない。いろんな考え方があると思います」

現役時代「全打順本塁打」を達成した田中氏ならではの視点だ。長打力のあるスラッガーでありながら、1番を任されたシーズンもあった。「初回に1番打者が満塁本塁打」という珍記録も持っている。打順の意味は決して1つではないという指摘だ。

「でも、くじ引きで打順を決めても、流れが良ければ勝てるんですよ。公式戦でどういう打順になるかは本当に未知数です。1年間出続けて結果を出したことのある選手がほとんどいないので、とにかく結果がいい選手を使っていくでしょう。実績があるのは近藤だけ。野村は怪我なく1年やればレギュラーになれると思います。万波や今川はオープン戦前半の打撃を、どう見せられるかでしょうね」

田中氏を今季の日本ハム「4位」と予想している。優勝候補に推すのはロッテだ。「佐々木朗希がローテーションでしっかり回るようになれば、圧倒的な存在になれる可能性がある」のが理由。昨季優勝のオリックスについては「4番の杉本が昨季と同じように打てるかどうか……今季は他球団もかなり対策してくると思いますよ」。ただいずれにしても、6球団の差は小さいとみる。「日本ハムが優勝したりしたら、大騒ぎでしょうね。それこそ新庄監督にしかできない」。公式戦でのマジック炸裂があるだろうか。

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(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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