支配下返り咲き呼んだ“足袋型スパイク” 鷹・藤井皓哉の足元支えた地元企業

ソフトバンク・藤井皓哉【写真:藤浦一都】

マウンド上に立つ藤井の足元、目を凝らすと足先が2つに割れたスパイクが…

22日に育成から支配下登録への昇格が発表されたソフトバンクの藤井皓哉投手。2020年オフに広島を戦力外になり、四国ILの高知でのプレーを経て、今季から育成選手としてNPB復帰を果たすと、キャンプ、オープン戦と好投を続け、シーズン開幕前に支配下への切符を掴み取った。

【写真】ソフトバンク・藤井皓哉が愛用する 岡山・岡本製甲製の足袋型スパイク「Lafeet(ラフィート)」

最速150キロを超える真っ直ぐと独特の変化を見せるスライダー、斬れ味鋭いフォークを武器にオープン戦5試合で10個の三振を奪った。支配下昇格に向けてキャンプから猛アピールを続けてきた右腕だが、その足元を地元・岡山の企業が作った珍しい“足袋型スパイク”が支えていた。

マウンド上で右腕を振る藤井の足元。よく目を凝らしてみると、普通のスパイクと何やら形が違うことが分かる。足先が2つに割れ、足袋の形をしている。このスパイクを作ったのは岡山・倉敷市にある「岡本製甲株式会社」。ゴルフシューズ生産会社として創業し、約60年の歴史を持つ同社が開発した足袋型シューズ「Lafeet(ラフィート)」をスパイクにしたものだ。

藤井皓哉が履くラフィートのランニングシューズ【写真:福谷佑介】

四国ILの高知からソフトバンクへの加入が決まっていた12月にあった偶然

藤井がこのスパイクを履くようになったのは、ちょっとした偶然からだった。高知でのプレーが認められ、ソフトバンクとの育成契約が決まった昨年12月のこと。堤尚彦監督のもとに1本の電話がかかってきた。「NPBに戻るにあたって道具の提供がなくて困っていて……」。このとき、堤監督の隣にたまたまいたのが「岡本製甲株式会社」の守安弘樹さんだった。

「堤監督から『スパイクない?』と尋ねられたので『作りましょう』と」と守安さんは当時を回想する。もともと同社は足袋型スパイクの製作を目指していた。守安さんと堤監督は以前から繋がりがあり、たまたま年末の挨拶のために、同校を訪れていたという。12月末に藤井が岡山に帰省した際にスパイクとシューズを手渡し、自主トレ期間で試してもらうことになった。

「足袋型のスパイクは人によって合う、合わないがあるんです。藤井選手に無理に履いていただくのはおかしな話だと思ったので、まずは履いてもらって、感想を聞かせてくださいとお渡ししました」。実際に履いてみた藤井からはすぐに好評をもらった。「すごくいい、これからも使いたい、と言っていただき、作らせていただきました」。今後、市販を目指すスパイクの先駆けとして作られた“武器”を携えてキャンプに臨み、アピールを続けて瞬く間に支配下登録まで駆け上がった。

「履くことで立った時に集中できる、次の動作に繋げられるとおっしゃっていました」

この“足袋型シューズ”にはどんな効果があるのか。「普通のシューズとの違いは形の違いにあります。普通のシューズは先にかけてシュッと細くなっていきますが、足袋型は先が広がる特徴的な形をしています。人間の足は踏ん張った瞬間に足指の間隔が約1センチ広がる事が分かっています。手も力を入れると広がるように、足にも同じことが起こるんです。足に力を入れたいのに、普通のシューズだと先が細くなっていて広がらない。足袋型だと横幅にゆとりがあって広がるスペースがあるので、指が広がり、足全体の力が繋がるんです」。守安さんはこう、足袋型の特徴を明かす。

藤井の場合は左足を上げ、右足1本で立った際に安定感を与えているという。「以前は、1本足で立った時にフラついたり、というのがあったみたいなんです。外側に少し倒れやすかったりという癖があったようですが、これを履くことで立った時に集中できる、次の動作に繋げられるとおっしゃっていました。しっかり右足でマウンドを蹴って投げられたり、出力が上がるというデータもあります」と守安さん。キャンプ、オープン戦はこの“安定した”足元が支えていた。

支配下登録の発表を受け、守安さんは藤井に祝福のLINEを送った。すると、藤井からはすぐにお礼と共に「スパイクをアピールできる活躍ができるように」と返信があったという。支配下登録会見で「嬉しいという気持ちももちろん、これからがスタート。気を引き締めて頑張っていこうという気持ちです」と語った藤井。地元・岡山の企業の支えを受けて掴んだ支配下昇格。1軍での活躍がさらなる恩返しとなる。

【写真】ソフトバンク・藤井皓哉が愛用する 岡山・岡本製甲製の足袋型スパイク「Lafeet(ラフィート)」

ソフトバンク・藤井皓哉が愛用する 岡山・岡本製甲製の足袋型スパイク「Lafeet(ラフィート)」【写真提供:岡本製甲株式会社】 signature

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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