現場の底力 ハウステンボス開業30周年・中 若き料理長 親目線で意見 ファミリープロジェクト 髙森康佑さん(33)

「プロジェクトに参加して、ちょっとずつ成長できている気がする」と話す髙森さん=佐世保市、ハウステンボス

 イタリア・ナポリの古いピザ屋をイメージした店内に入ると、大きな窯が目を引く。有田焼の登り窯の技術を用いた特注品。400度の高温で店自慢のピザを焼き上げる。
 長崎県佐世保市のハウステンボス(HTB)にある園内屈指の人気レストラン「ピノキオ」。髙森康佑さん(33)はこの店で料理長を務める。ピザは多い時、1日に1人で350~400枚を提供。焼き時間は、ピザを置いた場所や同時に焼く枚数、気温、湿度などを考慮する必要があり、絶妙のタイミングで窯から取り出すには経験を積み重ねるほかないという。
 同市出身。料理人を目指していた高校時代、ピノキオでアルバイトをしたことをきっかけにHTBに入社した。同店での勤務は通算8年。「シンプルに『おいしい』の一言をいただけた時が、一番うれしい」とほほ笑む。
 料理一筋だった彼に転機が訪れたのは2020年10月。坂口克彦社長の呼び掛けで、現場の知恵を経営に生かすプロジェクトが始まった。「現場の意見が求められている。自分が調理場の声を届けなければ」。そんな思いに駆られた。
 いくつかのプロジェクトの中で興味を持ったのが、家族連れをターゲットにした「ファミリープロジェクト」。3人の子どもを育てる父親として、親目線で何か役に立てるのではないかと考えた。
 社員6人が参加したプロジェクトの会議では、授乳室や子どもが遊べる施設が少ない、ベビーカーを押して歩きにくいといった意見が出た。自身も調理場を代表し、園内のレストランで幼児向けのメニューが少ないことを指摘した。
 メンバーと園内を歩いて回り、見えてきた課題もある。例えば、子どもに人気の「ふわふわランド」までベビーカーで行くのは大変で、その後近くで食事ができる場所は少ない。「日本一広いテーマパーク」で開放感はあるが、幼い子どもが一緒だと疲れてしまう。「一つのエリアで遊んで、食事や休憩もできれば、家族連れがもっと楽しめるのではないか」。率直な意見を経営陣にぶつけた。
 課題は一つずつ解決されている。ベビーカーを押しにくいとの指摘があった石畳の一部は昨年、でこぼこが少ないれんが敷きに改修。授乳室は新たに可動式を6台導入し、計12カ所に増やした。今年夏ごろには子どもが遊具で遊べる屋内施設がオープンする予定だ。
 プロジェクトに参加して以降、料理のことだけでなく、HTB全体のことを考えるようになったという。「最近上司から『考え方が変わったね』と言われることがあるんです。ちょっとずつですが、成長できている気がします」。若き料理長が、HTBに新しい風を吹き込んでいる。


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