<社説>「黒い雨」新基準 長崎被爆体験者も救済を

 広島原爆による「黒い雨」を巡り、被爆者認定の対象を拡大した新たな基準を厚生労働省が自治体に通知した。現行の対象区域外でも、黒い雨に遭ったことが確認できれば認める。 しかし、同じ原爆被害者にもかかわらず、長崎の「被爆体験者」は対象外とした。高齢化が進む体験者に手を差し伸べられる時間は限られている。戦争を引き起こした国家の責任で救済を図るのは当然である。長崎も同様に救済すべきだ。

 区域外の住民ら84人による集団訴訟で、広島高裁が昨年7月、原告全員を被爆者と認めた。当時の菅義偉首相が上告を断念したことを受け、厚労省と広島県・市、長崎県・市は「原告と同じような事情の人」を救済する新基準について協議を始めた。昨年12月に厚労省が骨子案を示した。

 新基準では、黒い雨が降った場所かどうかなどの確認に、訴訟の事実認定で使われた資料を活用する。さらに、戸籍や在学証明書といった当時の居住地や通学先、勤務先に関する書類も用いる。

 しかし、がんなど特定の病気にかかっていることが認定要件として残った。広島側は疾病を考慮しないよう繰り返し求めたが、厚労省は「これまでの援護制度との整合性からも譲れない」(幹部)との立場を崩さなかった。

 被爆者認定要件については広島高裁は(1)被爆者認定は放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りる(2)雨に打たれていなくても、水や野菜の摂取などで内部被ばくした可能性がある―と判断した。「科学的な合理性」が必要だとする被告側の主張を退けた。

 司法が疾病にかかわらず幅広く救済の道を開いたのに、国がそれを狭めることは被爆者援護法の理念に反する。高裁は被爆者援護法の根底には「戦争遂行主体の国が自らの責任で救済を図る一面もあり、国家補償的配慮」があると確認したはずだ。

 早期認定に向け交渉の長期化を避けたかった広島側は骨子案を受け入れた。

 一方、長崎原爆に遭いながら国の指定地域外にいて被爆者と認められていない「被爆体験者」は対象外とし、厚労省は長崎県・市と協議を続ける。国は長崎原爆の指定地域を、爆心地から南北に約12キロ、東西に約7キロと規定している。県・市は過去の証言調査などから「地域外で黒い雨が降った」と主張する。だが厚労省は「客観性がない」と難色を示している。

 なぜ長崎側の調査結果を受け入れないのか。そもそも指定地域は、当時の行政区分に沿って線引きされたいびつな楕円(だえん)形だ。国の主張こそ客観性を疑うし、明らかに高裁判決と矛盾する。

 救済拡大から外れた長崎は「私たちも認めてほしい」と声を上げている。岸田文雄首相は、被爆地広島選出の首相として政治決断すべきだ。

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