「夜寝られへんかった」異例の退任表明した阪神・矢野監督の開幕までの2か月

阪神・矢野燿大監督【写真:荒川祐史】

3年目の集大成へ…「嘘をつけない性格…選手を裏切りたくなかった」

プロ野球は25日に開幕する。このオフ、野球ファンに最も大きな驚きを生んだのは日本ハム・新庄剛志監督の就任だろう。一方、退任発表で衝撃を与えたのが阪神・矢野燿大監督。球春到来を告げるキャンプイン前日に今シーズン限りの退任を発表した。異例の決断に「後悔はない」と言い切れるわけ。「眠れなかった」と吐露した沖縄キャンプ。最後のシーズンに向けた胸中を明かした。【市川いずみ】

阪神・矢野燿大監督にとって、最後のシーズンが幕を開ける。25日の開幕戦は京セラドームで昨シーズンの覇者・ヤクルトと対戦。キャンプイン前日の1月31日に今シーズン限りでの退任を発表して約2か月。自らの決断に「後悔はない」と言い切る。

「開幕前に退任を伝えたのは、チームのためになると判断したからです。一番良くないのは、自分が今シーズンで監督を辞めると決めていることをシーズン途中に選手が知ることだと考えました。自分自身が嘘をつけない性格なので、選手の立場だったら『最初から言ってくれよ』となります。正直な気持ちを伝えないのは選手を裏切っている気がしました」

春季キャンプ前に監督が退任を発表する異例の判断には、理解を示す人ばかりではなかった。矢野監督は耳に入ってくる批判の声に気持ちが揺れた時もあった。

「退任を発表した直後は賛否で言うと、否の方が多かったですね。チームにとってベストな方法と判断して決めたのですが、否定的な意見を聞くと決断が正しかったのか考える時間が増えて、沖縄キャンプの期間は眠れない日もありました」

シーズン前の退任発表は正解だったのか、矢野監督は自問自答した。批判を耳にしても「後悔はない」と言い切れるのは、3年間チームを指揮して選手の成長を感じているからだった。

阪神・矢野燿大監督【写真:市川いずみ】

湧き出る自信「退任発表がマイナスに働くような選手たちではない」

「後悔する人生を歩んでほしくないと選手にずっと伝えてきて、手本になりたいと思って監督を続けてきました。選手に『辞めると明言してから、さらにやる気になっている』『最後の1年をやり切ろうとしてる』と感じてもらえるような姿勢を示していきたいです。それに、退任発表がマイナスに働くような選手たちではないと自信を持っています。この3年間、選手たちの成長を誰よりも見てきましたから」

矢野監督が口にする選手やチームの成長は、結果にも表れている。就任1年目の2019年は3位、2020年は2位。そして、昨シーズンはリーグ優勝こそ逃したものの、ヤクルトにゲーム差なしの2位で終えた。もし昨シーズン優勝していたら、矢野監督は続投要請を断っていた可能性があった。

「監督の要請を受けた時、どうしようか悩みました。もし、昨シーズン優勝していたら、監督を辞めたかもしれません。優勝を逃して、続投のオファーを受けたのに引き受けないのは、『責任を持て』と選手に言ってきたことと矛盾すると思いました。責任を果たそうと。ただ、監督を2年、3年と続けるのは想像できませんでした。1年と決めたら、責任を全うできると考えました」

続投要請を承諾して、最後の1年を戦うと決めた矢野監督。決断する上で頭に思い浮かんだ選手がいた。原口文仁捕手。2019年に公表した大腸がんを乗り越えて再びプレーする姿を見て、決意を強めた。

「原口は元々、野球への取り組み方がすごい選手でしたが、病気を克服してから進化しています。死を覚悟した人間にしか分からない経験をしたと感じています。多くのプロ野球選手は『まだ現役を続けられる』『まだ生きていける』と無意識に思いながらプレーしています。原口の姿、生き方には覚悟があります。続投要請を引き受けて、あと1年、監督を目いっぱいやり切ることが覚悟であり、責任であると考えています」

○Full-Countでは今シーズン限りで退任する阪神・矢野燿大監督の独占インタビューを全3回で掲載。第2回は3年間の監督生活で生まれた変化や、最後の1年に向けたスローガンについて伝える。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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