【高校野球】「魂を受け止めた」花巻東・佐々木麟太郎の幼き日の記憶 涙に隠された“決意”

空振り三振に倒れる花巻東・佐々木麟太郎【写真:共同通信社】

幼き心に響いた戦う男たちの“魂”を受け継ぐ

第94回選抜高校野球大会が23日、阪神甲子園球場で行われ、5日目・第1試合で花巻東(岩手)は4-5で市和歌山に敗れた。高校通算56本塁打の佐々木麟太郎内野手(2年)はプロ注目の最速149キロ右腕・米田天翼投手(3年)の前に4打数無安打。憧れ続けた甲子園の舞台は、麟太郎へ大きな試練を与えた。

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佐々木麟太郎の記憶はおぼろげだ。4歳の思い出なのだから無理もない。ただ、花巻東の野球を初めて目の前で見た13年前に自然と涙がこぼれたことだけは、はっきりと覚えている。

「菊池雄星(現・ブルージェイズ)さんがいた2009年のことです。日本一への強い思いを持って、選手たちがグラウンドで激しくぶつかり合う姿を見て、怖くて泣いてしまったのかもしれません。ただ、小さいながらに心に響いたものがあった。今思えば、その魂を受け止めた涙でもあったような気がします」

父親でもある花巻東高の佐々木洋監督の背中も見つめながら、麟太郎の思いは不変なものになっていった。

花巻東のユニフォームを着て、甲子園で日本一を獲る――。

憧れ続けた甲子園は、16歳になった麟太郎に試練を与えた。ネクストバッターズサークルが小さく見える迫力のある体格。高校生離れしたスイングスピード。一見すれば、いつもの姿だ。だが、センバツ初戦の相手となった市和歌山高の好投手・米田天翼を前に、麟太郎のバットが火を噴くことはなかった。

無死一、二塁で巡ってきた第1打席は、フルカウントから外角高めのボール球に手が出て空振り三振。2打席目も、130キロ台後半のツーシーム系の球で押し切られて空振り三振。3打席目は、明らかにギアチェンジした米田の気迫と直球に押し負けて、最後は145キロの内角直球で三飛に倒れる。その後も快音は響かず、4打数無安打1死球。

昨年12月、中学時代から患っていた胸郭出口症候群で両肩を手術した。リハビリに専念して、スイングを再開したのは今年2月下旬のことだ。センバツに向けて関西入りした後の練習試合では、急ピッチでの調整にもかかわらず6本塁打をマーク。高校通算本塁打を『56』まで伸ばして回復の兆しを見せていたが、“本番”では本来の「柔らかさとスピードがある」打撃が影を潜めた。

試合後の会見で涙を浮かべた麟太郎「甲子園に戻ってきたい」

速球に対する、わずかなスイングの遅れ。もともとは選球眼も長けているが、何度もボール球に反応する姿は、彼の心理状態と決して万全ではない打撃の状態を表していた。

「(手術から)焦りが多い中で、ここまでの状態に持ってくることはできましたが、対応力のなさ、センスのなさを痛感しています。不甲斐ない結果で、チームに貢献できなかった責任を感じています」

涙を浮かべる麟太郎は、自戒を込めて「センスがない」という言葉を6度も並べた。そして、「足りない部分が多い」とも語るのだ。

甲子園のデビューは、痛恨の極み。「打てなかった不甲斐なさ」もそうだが、チームとして勝利を掴めなかったことを悔いる。こぼれた涙は、幼き日に受け止めた魂への想い。そして、未来の自分に対する、強い決意の表れでもある。悔しさが滲む瞳の奥から絞り出した言葉がある限り、彼はまた成長した姿を見せてくれるはずだ。

「人一倍、練習して、人一倍、強い選手になって、甲子園に戻ってきたい」

夢舞台から、リベンジの舞台に変わった特別な場所。幼い頃から思い描く「岩手から日本一」を胸に刻みながら、麟太郎は再び聖地に戻ってくることを強く誓う。(佐々木亨 / Toru Sasaki)

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