「自分が手にしているものを手放したくなかった」梅野がFAを行使しなかった理由
このオフにFA権を行使せず阪神残留を決めた梅野隆太郎捕手。確固たる想いをもって今季も縦じまに袖を通している。生え抜き野手では最年長となった梅野は今何を感じているのか。31歳を迎える9年目のシーズン開幕を前に本音を打ち明けた。Full-Countの単独インタビュー前編では残留決断の真実、能見篤史投手、鳥谷敬氏ら先輩から受け継いだ思いなどを熱く語った。【構成=市川いずみ】
まずはFAにあたって、今までにないようなオフを過ごしました。いちプロ野球選手としてはFA権を取得して考える時間は幸せなことであり光栄なことでもあるし、しっかり考えて決断しました。去年までプロとして8シーズンを経験して、自分が沢山マスクを被ったシーズンのなかでも、143試合目まで優勝争いをしたシーズンもなかった。
毎年「タイガースで優勝したい」と思ってはいましたけど、なおさら優勝したいという想いは強くなりました。今チームは若手から中堅が多く、ベテランは糸井(嘉男)さんだけと少なくなってきた中で自分より年下の選手が多くなってきました。そういう意味ではチームとして発展途上、これからやれるという集団だと思います。
技術的にもそうですが、戦う集団としてチームとしてまだまだレベルアップしていかないといけないし、それができるチームだと思うのでこういった決断をしました。もちろんファンの後押しもすごい力になりました。あとは、自分もキャッチャーとしてやるべきことはもっともっとあるし、もっと新しい自分を見つけられるし、自分が手にしているものを手放したくなかったという想いもありました。
五輪やオールスター…捕手として積み上げてきたもの
(手にしているものは)キャッチャーとして積み上げてきたものです。球団の現役捕手の中でも最多出場で、いいも悪いも一番経験しています。もちろん悔しいことばかりですが優勝して結果が出たときにそれも晴れるんだと思います。昨季は130試合に出場しましたが“正捕手”と言われるまでにもちろん苦労もしてきましたし、すんなりきたわけではありません。
2年目、3年目のファーム生活を経てそこで学こともありました。順調にきたわけじゃないからこそ得たこともあるということを伝えたいという気持ちもあります。スムーズにいかない時期があったからこそ今があり、その中でチャンスを掴んだからこそオールスターやオリンピックといった大きな舞台を経験することもできたと思っています。そういったところにいいプライドをもって戦っていかないといけないなと思っています。
こういう立ち位置になったからこそ、チームのケツを叩くような役割も必要だと思っています。成績が悪いからと落ち込んでいる選手もいるだろうし、そういう時に色々話すことでみんなの力になりたいというのはありますね。自分自身も正直落ち込むこともありますし、それでも戦っている以上はチームの力になりたい。若い選手が多いのでいい意味で自分がケツを叩いていければもっともっとチームは上昇していくんじゃないかなと。
「優勝してなんぼ」生え抜き野手最年長、後輩たちに伝えたいこと
自分のこれまでの経験を経験だけで終わらせないようにしていくことが大事だと思いますし、その経験と同じような失敗をしない努力であったり考え方を持つようなアドバイスをしたいですね。鳥さん(鳥谷敬氏)や能見(篤史・現オリックス)さん、福留(孝介・現中日)さんらは本当にたくさんの引き出しをもっていていろんなことを与えてくれました。
自主トレを一緒にやってもらっていた能見さんにはオリックスへ移籍する前に食事の席で「お前がここまでになってくれてよかった」とか「自信をもってプレーしろ、ドンとしとけ」って言ってもらいました。特に「優勝してなんぼやし、キャリアを積んできたんだからドシっと構えておけ」と言われたのが印象的でした。能見さんはずっと自分のことを見てきてくれて「お前はへぼい」とか能見さんなりの愛情をもっていじられてきましたけど、最後は面と向かってそういうことを言ってくれたので、今はそれを大事にドシっと構えるようにしています。
自分もいつかは後輩たちにこういうことを伝えられるような引き出しをもっていきたいですし、なんでも聞いてきてもらえるようなお互い話せる環境を作っていきたいなと。後輩たちとそういうものを作り上げていきたいなと思っています。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)
市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。NHKワースポ×MLBの土日キャスター。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。