【高校野球】待球、単打、機動力で22得点…圧勝発進の広島商が「甲子園決勝で勝ちたい」相手

丹生を破り、駆けだす広島商ナイン【写真:共同通信社】

相手のエースを攻略「左投手を想定して打撃練習してきた」

これが「広商野球」の現在地だ。第94回選抜高校野球大会は23日、阪神甲子園球場で5日目を行い、第3試合では20年ぶり22度目の出場の古豪・広島商が、21世紀枠で春夏通じ初出場の丹生(福井)を22-7の大差で下した。春1度、夏6度の優勝を誇る広島商は、“令和初勝利”を挙げ、大正・昭和・平成と合わせて4元号制覇を達成した。22得点も同校の甲子園最多得点記録となった。

緻密な作戦と機動力。伝統の“広商野球”と言えば、そういったイメージがある。この日も丹生のエース左腕・井上颯太投手(2年)に対し、攻略法を練って臨んだ。初回に打者9人の猛攻で3点を先制したが、ファーストストライクに手を出した選手は皆無。待球戦術で2安打に3四球と1死球を絡めた。

荒谷忠勝監督は「戦術的なこともありますが、甲子園練習がなく、開会式にも出られなかったので、初回はじっくり慌てず、甲子園に慣れることがポイントでした」と説明した。「4番・遊撃」で出場し、初回1死二塁で中前へ先制タイムリーを放った植松幹太主将(3年)は「練習でも左投手を想定しながら打撃練習に取り組んだことが結果につながったと思います」と明かす。カウント0-1から、2球続いたカーブを鮮やかにとらえた。

最終的にのべ6投手から16安打を放ったが、8回に八幡大介外野手(3年)が放った三塁打以外の15本は単打。15四死球をゲットし、八幡が3盗塁、植松が1盗塁を決めた。送りバントもきっちり決め、長打に頼らない機動力野球は伝統校のイメージ通りだ。

“広商野球”は存在しない? 荒谷監督「この子らで勝てる野球を模索」

しかし、荒谷監督は「その年その年に、歴代指導者の方々が勝てる野球をやってきた」と語り、金科玉条のスタイルがあるわけではないという。現在のチームも「初球からガンガン打てる選手、140キロ以上を投げられる投手がいるなら、違う野球を考えてもいいけれど、現時点でそういう選手は育っていない。いまのこの子らで勝てる野球を模索しています」と説明した。

名門・広島商も近年は低迷し、甲子園での白星は2002年春以来、実に20年ぶりだったが、植松も「そういうことは意識せず、自分たちの野球を貫こうとみんなで取り組んできました」と言う。

15点差をつけての勝利だが、2回に4点、9回にも3点を失い、荒谷監督は「7失点は課題。見えないエラーもあった」と手厳しい。植松も「最少失点で防げたはずの試合。序盤は焦り、終盤は集中力が欠けた選手もいた」と反省を強調する。「終盤の7、8、9回を意識しながら、粘り強く守りから攻撃につなげるのが、自分たちのプレースタイル」と再確認した。

今大会には、昨秋の中国大会で0-7と完敗した広島県内の宿命のライバル・広陵も出場しており、既に2日目の初戦で敦賀気比に圧勝している。荒谷監督は「選手たちには、甲子園の決勝で広陵に勝ちたいという思いがある。広陵は明治神宮大会で準優勝していて、全国の基準になるので感謝しています」と述懐した。昨夏の甲子園決勝は智弁和歌山vs奈良・智弁学園の珍しいマッチアップとなったが、今大会の決勝はひょっとすると、初の広島県勢同士の対戦となるのか──。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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