今シーズンのF1を象徴するワードは… レギュレーション大幅変更はどう影響する

今季開幕戦バーレーンGPで3シーズンぶりとなるワンツーフィニッシュを飾り喜ぶフェラーリのチーム関係者(C)フェラーリ

 「ゲームチェンジ」という言葉がある。これまであったビジネスの枠組みなどが崩壊して新たなものに切り替わるという意味で、代表例としては米アップルの「iPhone(アイフォーン)」が挙げられる。

 2007年1月9日に登場したアイフォーンは、従来型の携帯電話にパソコンの機能を付け加えたことで、携帯電話の概念を一変させた。結果、「スマートフォン」という新たな分野を作り出した。同時に、スマートフォンを介した新たなビジネスモデルも次々と誕生している。今では、携帯電話といえばスマートフォンと同義になっていると言って良いまでになっている。

 まさに、アイフォーンは「ゲームチェンジ」を起こしたのだ。

 同様の例は他にもある。05年2月設立の「YouTube」は、動画を共有するというビジネスモデルを世界中に浸透させた。音楽や映画の分野もそうだ。CDやDVDを購入したりレンタルしたりするというビジネスモデルも、スポティファイやアマゾンプライム、ネットフリックスといったインターネット配信へと取って代わられようとしている。

 「ゲームチェンジ」はもともと、「大きな変化が生じる」ことを指すという。その意味では、スポーツの世界でも「ゲームチェンジ」がたびたび起きている。有名なのはノルディックスキー・ジャンプだ。特定の国や体形の選手が上位を占めるようになると、スキー板の長さや着用するスーツの規定を変更することで、定期的な新陳代謝を促している。

 話をモータースポーツに戻そう。F1は、3月20日に開幕戦バーレーングランプリ(GP)の決勝レースを行った。その結果はご存じだろう。過去8年にわたり、圧倒的な強さを誇っていたメルセデス製パワーユニット(PU)を使用するチームが大きく落ち込んだ。昨年の覇者レッドブルもゴールを目前にしてマシントラブルで2台ともにリタイアに追い込まれた。そして、フェラーリが19年第2戦シンガポールGP以来となるワンツーフィニッシュを飾った。

 そう、勢力図が大きく変化=ゲームチェンジしたのだ。

 F1は今季から、レギュレーションと呼ばれるルールを大幅変更した。具体的には、「グラウンドエフェクトカー」を復活させたのだ。これは、車体の下側に空気を高速で流すことでダウンフォースを生み出す仕組みで、F1では1970年から82年シーズンまで採用されていた。

 背景には、メルセデスを中心とする勢力図を変化したいという意図がある。事前の予想ではそこまで大きな変化はないとされていた。しかし、ふたを開けてみると、車体側ではなく、現行ルールで9年目を迎えたPUがまさかの「ゲームチェンジ」を生んだ。

 PUがいかに重要かを具体的に示すデータがある。F1では2014年に排気量2400ccのV8自然吸気エンジンから1600ccのV6ターボエンジンへ切り替わった。V6ターボエンジンには熱エネルギー回生機構が新たに加えられたため、従来型のエンジンと区別するため、PUと呼ばれるようになった。

 昨シーズンをもってF1から撤退したホンダは15年シーズンから参戦した。そこで、(1)V8最後のシーズンである13年(2)PUが導入された14年(3)ホンダが参戦した15年(4)ホンダ製PUがドライバーズチャンピオンシップを獲得した21年(5)22年―の開幕戦決勝で上位10台が使用したPUメーカーの数と勝利したPUを比較した。なお、13年のみエンジンとなる。

 13年 ルノー4台、メルセデス4台、フェラーリ2台

 優勝はロータス(ルノー)

 14年 メルセデス6台、フェラーリ2台、ルノー2台

 優勝はメルセデス(メルセデス)

 15年 メルセデス5台、フェラーリ3台、ルノー2台、ホンダ0台

 優勝はメルセデス(メルセデス)

 21年 メルセデス5台、ホンダ3台、フェラーリ2台、ルノー0台

 優勝はメルセデス(メルセデス)

 22年 フェラーリ5台、メルセデス2台、ルノー2台、レッドブル・パワートレインズ(ホンダ)1台

 優勝はフェラーリ(フェラーリ)

 上記データを補足する。10年以降に年間王者に輝いたドライバーとPU(エンジン)は次の通り。

 10~13年=セバスチャン・ベッテル(レッドブル/ルノー)

 14~15年=ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 16年=ニコ・ロズベルグ(メルセデス)

 17~20年=ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 21年=マックス・フェルスタッペン(レッドブル/ホンダ)

 二つのデータから導き出せるのは、大きなルール変更がある度に「ゲームチェンジ」が発生しているということだ。同時に、シーズンを制するためには車体だけではなくPUの性能が重要なことも良くわかる。

 さて、22年シーズンはどうなるのだろう。開幕戦を終えたばかりだが、分析してみたい。フェラーリとフェラーリ製PUを使用するチームが大きく躍進したのに対し、昨年までの強者であるメルセデス製PUは明らかにパワーが不足している。事実、搭載した4チームを見るとメルセデスの2台を除き予選の上位10台にさえ入れないなど散々な結果に終わった。1チームに提供するルノーは現状維持といえる。

 最後に、ホンダ製PUであるレッドブル・パワートレインズだ。提供するレッドブルとアルファタウリは予選で3台がトップ10入りするなど力強さは発揮した。だが、決勝レースは8位入賞した角田裕毅(アルファタウリ)以外の3台がマシントラブルでリタイアしてしまった。その角田も土曜日のフリー走行でステアリングが利かない油圧トラブルを発生させており、PU周辺の信頼性に不安を感じさせる。早急な原因解明と対策が待たれるところだ。

 今シーズンのレギュレーションではPUのアップグレードが1度だけ認められている。再び「ゲームチェンジ」を生み出す事ができるのか、日本のF1ファンとしては、レッドブル・パワートレインズへPUを供給するホンダ技術陣の底力に期待するともに、車体側の進化も含めた各陣営の開発競争に注目したい。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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