創業70周年を迎える老舗企業の株式会社丸互(新潟県上越市)、ローカル5Gの新規事業に挑む

ローカル5Gラボ、JM-DAWNのコワーキングスペース

株式会社丸互(新潟県上越市)は、機械・木材の製造部のほか、情報技術部、樹脂成形部、商事部など多角化経営を展開している。同社の前川秀樹代表取締役社長は「丸互の互は、互助会の互」と話す。前川社長は、マスコミ業界や芸能人を多く輩出している日本大学芸術学部の出身という、経営者としてはある意味異色とも言える経歴だが、父親が創業家の1人ということから、自身も50歳代で丸互の社長に就任した。その前川社長に、同社の新規事業であるローカル5Gラボ「JM-DAWN」の取り組みについて聞いた。

JM-DAWNの始まりは意外にも補助金申請の失敗からだった。アフターコロナを見据えたイノベーション創出事業という新潟県の補助金事業があり、丸互はシステム事業で介護のシステムとAI(人工知能)を組み合わせた事業を申請したが、金額が高すぎたこともあり、県からの申請が下りずに諦めたという。

その関連で、同じ補助金で別口にて、上越妙高エリアでプロジェクトを企画していたNTT東日本から相談を受けた県議会議員(上越市選出)が、IT系を展開する地元の企業である丸互に話を持ちかけたのが始まりだ。

「ある日突然、NTT東日本の部長と県議が私のところに来た。それが2020年の10月の終わりころ。1週間後に『わかりました。やります』と返事をした」と前川社長は振り返る。

当初は「ゴジー」と呼んでいた

しかし、「正直、5Gの名前は知っていたが、『ファイブジー』を『ゴジー』と言っていたくらいで、それほど理解はなかった。最初は小さくやるつもりだったが、新潟市のローカル5G拠点「NINNO」を見に行ったら、『あまりにも規模が違い過ぎる』と、急遽、2021年の3月くらいに株式会社飛田観光開発に場所を貸してくださいと頼みに行った」(前川社長)

ローカル5Gとは通信事業者ではない企業や自治体が、一部のエリアまたは建物・敷地内に専用の5Gネットワークを構築する方法で、運用するには無線局の免許を取得する必要がある。2019年に申請受付が始まり、2020年から実際に利用されている。

県の補助金はローカル5Gの電波だけが対象で、ほかのスタジオなどは、上越市などとコンソーシアムを組んで、総務省の補助金に申請した。

「屋内外でローカル5Gが使えることと、NTTが地方の民間中小企業と一緒にやっているというところが注目されている。いざ始まってみたら、そこの部分の評価が非常に高い。総務省の総括審議官も視察に来た」と前川社長は話す。

「何か新しいことをやりたいという思いがどこかにあった」

丸互の前川秀樹代表取締役社長

今回、前川社長は即決断したが、その理由を聞くと、「これはうちの会社の歴史もあるのだが」と前置きし、「来年で70周年になるが、それまでに新しい仕事を12個やっており、新しいものをやるという土壌がある。ただ、私が社長になってからは、辞めたものや統合が非常に多かった。だから、何か新しいことをやりたいという思いがどこかにあったのだろう。新しいことに挑戦して、そこから想像していないことが出てくる可能性がある。補助金があるので踏み出せたというのもある」と語る。

ところで、前川社長は高校から東京の私立へ進学し、20年間東京に住んでいた人である。

「私もUターン組だが、戻れなかった理由は勤め先が1つ。もう1つは、結婚相手など都会の人間がこちらに入ってくる感覚が難しく、連れてきづらいこと。子供の教育の問題もある。これを全部解消はできないが、少しは解消できるだろうと考えている」(前川社長)。

その1つが、コロナ禍で働き方が変わったことだ。テレワークになり、業種によって違うが、東京で1時間、満員電車で通勤する必要性がなくなった。実際に、JM-DAWNのコワーキングスペースを1番最初に法人契約したのは、東京のIT会社に勤務する人だった。上越市の出身で同市でテレワークをしている人だが、勤め先には10日に1回、埼玉県大宮市に出勤すればいいとのことで、2時間以内で出勤できる場所ならどこに住んでもいいという条件だという。

前川社長は「ほかにも上越にはこういった人が沢山いることを初めて知った。潜在的な人は都会にも沢山いるだろう。東京は遊んだりするにはいいし、私も東京は魅力があると思うが、遊びや買い物は電車に乗っていけばいい。普段の生活は、同級生がいたり、親がいたりする地元の方がストレスも溜まらないだろうしいい」と話す。

上越妙高駅前をIT系企業の集積場へ

JM-DAWN

また、前川社長は「話は大きくなるが、この上越妙高駅前をIT系企業の集積場にしたい。本社ではなく、2、3人の新潟営業所や北陸営業所でいい。そういう人が集まると、自然とそういう業界が集まると聞く。そこで、都会から戻ってきたり、地元採用をしたりという話も出てくる。若い世代の東京への人口流出は止めることはできないが、少しでも緩和できるし、Uターン組も呼び込みたい」と話す。

JM-DAWNのサテライトオフィスについては、1つはインサイトラボ株式会社(東京都)が入っており、もう1つは、新潟市本社の会社が入ることがほぼ決まっている。さらに、東証1部上場のIT企業が北陸方面の拠点として入居を検討しているという。

また、JM-DAWNのサテライトオフィスが埋まってくると、今後は進出ができなくなるが、隣接するビジネスホテルと交渉し、シングルのワンルームを貸事務所として長期契約するという話もしているという。同ホテルはほかの地域でもそういったケースがあるとのことで乗り気だという。

JM-DAWNの立地について、前川社長は、「新幹線の駅前、インターから車で5分、20分あればゴルフ場に3つ行かれる、海にも山にも近いといった好条件の上に、ローカル5Gが使える場所は日本全国を探してもない。ワーケーションの場所にもいい。これがほかの地方都市と差別化できる点が強みだ」と自信を持つ。

そもそもは、以前から前川社長らと親交のある斎京県議が話を持ち掛けたのが始まりだが、その理由は丸互がIT事業を展開していたためだ。しかも、現在同社の収益の柱に成長したIT事業は、元をたどれば、パソコンが趣味だった男性社員が会社でパソコンをいじっていたのを経営者が見て事業化を発案したのがきっかけだった。丸互は前川社長が言うように新規事業を展開する土壌と言うものが培われているのだろう。

来年創業70周年を迎える上越市直江津地区の老舗企業の新たな挑戦、JM-DAWN。スタートアップの支援や教育などを行う事業について、米国・シリコンバレーをもじって南葉山のふもとにあることから、「ナンバレー構想」と名付けて推進していく方針だ。こうした丸互の今後の動向に要注目である。

丸互本社外観

【関連サイト】

JM-DAWN webサイト

(文・梅川康輝)

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