主将指名で「しんどかったと思う」 阪神・矢野監督が糸原から学んだ“変わる力”

阪神・矢野燿大監督【写真:荒川祐史】

青柳投手への指導で実感「監督に一番大事なのは選手の背中を押すこと」

プロ野球は、25日にいよいよ開幕する。例年以上に注目されるのが阪神。矢野燿大監督がキャンプイン前日に今シーズン限りでの退任を発表した。開幕直前、指揮官はFull-Countの独占インタビューに応じ、3年間の監督生活で生まれた自身や選手への変化と、集大成のシーズンへの思いを語った。第2回は「頑張れば、人は変われる」と実感した2人の主力の成長について、指揮官の視点を紹介する。【市川いずみ】

就任4年目。矢野監督にとって最後のシーズンが始まる。優勝した巨人に6ゲーム差をつけられて3位に沈んだ1年目。3年目の昨シーズンはヤクルトにゲーム差なしの2位と優勝に手が届くところまで近づいた。チームを指揮する立場となり、矢野監督は変わった。

「選手だった頃は自分の価値観だけで物事を見ていました。今は選手やコーチの考え方や意見を一度受け入れてから、判断するようになりました。シーズン前に退任発表したことについても賛否両論があります。価値観が違えば考え方が異なるのは自然で、価値観が違う人も否定的な意見も受け入れています」

変化できたのは、選手の姿も大きな要因だった。大人になると子どもの頃のように夢や理想を語ることに恥ずかしさや抵抗がある。だが、理想を口にすることで目指す姿に近づけると選手から学んだ。

「大人は『現実的に無理』、『夢みたいなことを言うな』と、行動する前からあきらめてしまいがちです。でも、凡打で一塁に走ったり、三振した後に守備位置まで全力疾走したり、苦しい時こそ自分を変える努力をしようと訴えてきた結果、選手たちは理想に掲げた野球を体現しています。夢や理想を口にする大切さを教わりました」

人は変われる、大人になっても。矢野監督が象徴に挙げたのが糸原健斗内野手。監督に就任した2019年、キャプテンに指名した。

阪神・糸原健斗【写真:荒川祐史】

キャプテン指名の糸原は「いつの間にかキャプテンらしさが特徴になりました」

「本来は黙々と自分の仕事をこなすタイプ。しんどかったと思います。最初は無理をしてキャプテンを演じているように感じましたが、だんだん本物になってきて、いつの間にかキャプテンらしさが特徴になりました。チームが苦しい時に先頭に立って盛り上げたり鼓舞したりする姿に、頑張り次第で人は変われる力があると学びました」

もう1人、矢野監督が名前を出したのは青柳晃洋投手だった。2015年にドラフト5位で指名されて帝京大からプロ入り。最初の3年間は計9勝と伸び悩んだが、矢野監督が就任した2019年に先発ローテーションの一角を担い9勝をマーク。昨シーズンは13勝で最多勝に輝き、昨夏の東京五輪では日の丸を背負って金メダル獲得に貢献した。

「青柳の成長を見ると、人は大きく変われると感じます。それから、監督の仕事で一番大事なのは、あれもこれもダメと決めつけるのではなく、選手の背中を押すことだと実感しました。青柳は投内連係で一塁へワンバウンドで送球する時があります。プロとしてかっこ悪いプレーに見えますが、アウトにできる確率が上がるならやってみるように後押しするのが大切だと思います」

成長する選手に触発されながら歩んできた3年間。最後の1年と決めた矢野監督の4年目のシーズンが開幕する。自身のスローガンには「為」を掲げた。

「自分が信じた道を進めば選手はついてきてくれると自信を深めた姿をファンの皆さんに見てもらうシーズンになると思います。今年のスローガンにした『為』には、為し遂げる、選手やファンの為という思いを込めています。監督として何かを成し遂げるシーズンにするつもりです」

○Full-Countでは今シーズン限りで退任する阪神・矢野燿大監督の独占インタビューを掲載。今回が第2回。全3回の掲載予定で最終回は3年間の監督生活で生まれた変化や、最後の1年に向けたスローガンについて伝える。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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