【寄稿】やはりウクライナ情勢(WEB版)/POKKA吉田

業界的には異例というか、おそらく過去経験のない金地金賞品の連日の値上げ、という事態になったことは東京都以外のホール関係者もご存じかと思う。1g金地金賞品について、3月8日からは最低提供価格がそれまでの8,960円から9,520円になり、その二日後の3月10日からは9,520円からさらに値上げして10,080円になるという異例の事態であった。なお、8日は1g賞品だけだったが10日は0.3g賞品も値上げしている。

金相場は史上最高値を更新中だ。金相場が高騰する要因としては、現在のものとしてはやはりウクライナの戦況が筆頭、さらには米中対立による国際情勢の緊迫化がウクライナ情勢よりも前の段階で懸念されていた。さらにはこの2年間の世界的コロナ禍で各国の経済状況が悪化していることも高騰の要因となる。

ウクライナへロシアが侵攻したことで第二次世界大戦後としては史上最悪レベルの戦争状態になっていきつつある状況は、安全資産としての金が買われる理由となる。たとえば日米欧の経済制裁でルーブルは暴落中だが、ルーブルで貯蓄している場合と暴落前に金を保有していた場合とで、資産の評価額が激変していることはわかるだろう。また、経済が良い場合は金が買われるよりは不動産などの投資が増えると言われている。これは先進国の場合に限りそうで、たとえば中国やインドといった国においては、経済成長が進むと金が買われるという現象になりやすいという論説もある。

米中の対立ももちろん金相場を高騰させる要因になるし、世界的なコロナ禍で先進国の経済は甚大な打撃を受けていることは確実だからこれも高騰要因になる。さらに言えば、日本は世界における金産出量がとても少ないため、円相場推移によっても金相場は変動しやすい。単純には輸入モノという考え方になるため、円高で下落、円安で高騰の要因となる。本稿を書いているのは3月12日なのだが、この一週間、円相場は$相手に円安が進んでいた。

金地金の賞品の価格について、最低価格は東京都の脱等価のレートにならい、TUCショップの買取額と変更前後で齟齬がないようになっているし、東遊商のレートに東遊商スキームを導入している都内の大多数の店舗は沿うことから、この一週間は賞品提供価格が二度値上がりしたことになる。東京都の場合、金相場の高騰の影響を受けて過去、幾度も値上げを実施してきたことから店舗側も遊技客側も言えば慣れたものには違いないが、連日の値上げとなると店も客も驚いたに違いない。懸念されるのはやはり風営法上の上限に近付いているという点だ。東京都の東遊商スキームは、最低提供価格は枠組みとして民間(卸、ホール側)の取り決めだが、上限価格は風営法施行規則の規定になる。今は上限価格は9,600円+消費税額960円の10,560円であり、もうあと500円ちょっとしか法令上の上限まで余裕がなくなっている。

これについては、実際のところ、3月11日時点での田中貴金属と三菱マテリアルの金地金1gの店頭価格が8,234円となっていて、これは税込みだ。税込みの場合は風営法上の上限は10,560円であり、その差は2,200円以上ある。東京都は過去の値上げのときも梱包側を特殊シールなどの貼付によって変更したことがあり、地金を単独で賞品提供しているわけではない。ならば一応はあと500円ちょっとで上限に達するわけだが、地金そのものの価値としてはまだ少し余裕がある。

が、ウクライナ情勢だったり世界的なコロナ禍の推移、さらには円相場や世界経済の今後の推移などが複雑に関係して金相場が成立しているわけで、それを予想するのは困難である。世界的にはまだまだ高騰するのではないかと目されているようで、それがいくらまで高騰するのかは不明だ。その意味では仮に理論的には2,000円以上上限まで余裕があるとはいえ、懸念は続くことになる。そもそも本紙が発行されている段階で田中貴金属や三菱マテリアルの店頭価格が8,234円からどうなっているかも不明である。

金地金をいわゆる特殊景品に採用するということは、90年代の東京都の暴排の取り組みにおける肝の部分の一つであった。当時の三店方式に対する最新の考え方では、業界側も警視庁側も金地金が最も理想的だと判断したわけだ。賞品としての価値がいきなり棄損される心配はないし、長期間の保存・保管も容易。地金の場合は貴金属ではなく工業製品の原材料でもある。有史以来、世界中で最も信頼されてきた資産価値もある。

金地金を三店方式のスキームで採用するのは、法律的な懸念がほとんどなくなるという利点がある。唯一の欠点は金は世界中で流通するものであり、相場が明確に存在することだ。そして風営法上に賞品提供限度額規定、つまり上限の10,560円が明記されているということである。

東京都が金地金を採用したとき、たしか金相場は1g1,500円から1,800円付近だったと記憶している。そこから現在の8,000円超レベルということは、実に4倍以上だ。日本においては日銀が現在のところインフレ目標2%を掲げている最中であり、それはすなわちインフレが思うほど進んでいなかったことを意味している。30年ほどの期間とはいえ、4倍超えはもちろん警視庁も想定外だったことだろう。警視庁が金地金の賞品提供を容認したあと、警察庁は風営法の解釈運用基準でわざわざ、風営法第23条が禁止する現金・有価証券提供禁止規定について、金地金はこれにあたらないと明記した。警視庁の協力を得て東京は暴排を実現し、それを警察庁が後押しした形になっている。

暴排は1961年に大阪で始まった。たとえば愛知県はそこから2年後の1963年に始まったと記憶している。東京都の場合はそこから30年ほど遅れるわけであり、60年代の大阪と同じようなことができるわけではない。その点、賞品の内容について金地金というものを組合や警視庁が熟考して納得して採用してきたことは、業界の歴史においては大阪方式導入に次ぐくらいのとても重要な行政判断の財産である。

仮に上限額に到達してしまうほどに金が暴騰した場合、1g賞品は提供不可となる。相場だから一日二日くらい超えたところで私の考えではセーフと思っているが、g15,000円などのレベルで推移したらこれは誰がどう見ても風営法違反の状態になってしまう。

この場合、1g賞品をやめるのかどうか。やめた場合、0.3gと0.1g賞品の量は都下のホールの必要量を賄えるほどに存在しているのかどうか。なければ作り直すのか、それは1g賞品を鋳つぶして作るのか、そしてそれは誰がやるのか誰が資金を負担するのか。あるいは風営法施行規則の改正を目指すのか。

ぱちんこ業界全体として見ると、金を採用している割合から考えると、また価格変更の号令が機能していることを考えると、東京都限定の話に見えるかもしれない。しかし、大阪の「暴排と福祉」という業界の金字塔ともいうべき行政判断の財産に次ぐ金地金による暴排は私は重要な財産だと思っている。だから、懸念はあるし問題点も明らかで対応も難しいわけだが、これは必ず乗り越えるべきであり、それは東京都の業界だけではなく業界全体のためにも必要なことだと考えている。

やはり戦争はこのように世の中に甚大な影響を与えるものだった。

■プロフィール
POKKA吉田
本名/岡崎徹
大阪出身。
業界紙に5年在籍後、上京してスロバラ運営など。
2004年3月フリーへ。
各誌連載、講演、TV出演など。
お問い合わせ等は公式HP「POKKA吉田のピー・ドット・ジェイピー(www.y-pokka.jp)」か本誌編集部まで。

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