グーグル流の働き方を実践してきた3人が語る、幸せな企業の創り方!【前編】

ウイングアーク1stのPeople Success部 部長を勤める吉田善幸氏(以下、吉田)は、複数の企業で人事のキャリアを積み、初期のGoogleジャパンの人事トップも務めました。今回はGoogle時代の同僚である藤本あゆみ氏(以下、藤本)「”働き方“を選択できる社会」の実現を目指す一般社団法人at Will Workの代表理事。今年3月にPlug and Play Japanのディレクターにも就任)と、2010年に株式会社Everforthを設立し、「好きなことを見つけ、好きなことができる世界をつくる」というミッションのもと社員の多様な働き方を実現してきた森下将憲氏(以下、森下)を迎え、より良い働き方を実現するためのデータ活用の可能性を模索しました。

前編では、この10年の日本の働き方の変化や目標管理や人事評価とデータの関係について、それぞれの経験を踏まえての議論をお届けします。

INDEX

「オフィスにいなくても仕事ができる」を2000年代から実現していたGoogle

吉田:あゆみさんと僕は、Googleで一緒に働いていた期間があるんですよね。新しい働き方を考えるにあたって、まずは当時のGoogleがどんなだったか、振り返ってみようと思います。あゆみさんがGoogleに入社したのは?

藤本:2007年の3月です。

吉田:僕が2007年の9月頃でした。東京オフィスは100人くらいで、まだ人と人が直接繋がれる規模感でしたよね。

藤本:そうですね。

吉田:もう十年以上前ですけど、あの頃のGoogleの働き方って、どうでした?

藤本:私の一番の衝撃は、実はGmailでした。それ以前はキャリアデザインセンターという会社で転職情報誌を作っていたんですけど、会社のメールというのは会社に行かないと見られないものだったんですよね。営業だったのでいつも外にいて、お客さんからメールが来ているかどう気になるんだけど帰れない、という状況でした。それがGmailだとどこでも見られて、どこでも仕事ができるわけです。今でこそ普通のことですけど、当時は衝撃でしたね。

吉田:確かに、オンラインで仕事をする環境が当時からありましたね。僕も「WFH」というのに衝撃を受けました。Work from Homeのことなんですけど、新卒で入社して数年目の子でも「今日はWFHです」というメールを送ってきて会社に来ない。Google Japanの就業規則にはそんな制度は何も書かれていなかったんですけど、アメリカのやり方がそのまま踏襲されていて、エンジニアとかワーキングマザーなんかは特に、当たり前に家で仕事をしていました。

藤本:朝からひどい雨だったりすると、誰も来ないですよね。

一般社団法人at Will Work 代表理事 藤本あゆみ氏

吉田:そうそう。

森下さんがEverforthを設立したのは2010年ですよね。Googleのやり方なんかも意識されていて、最初からリモートワークも当たり前の働き方をされてきたということですが。

森下:Googleを立ち上げたラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンが言っていたような世界観が好き、というのもありますし、私が一番参考にしたいと考えていたのは、『奇跡の経営』という本に描かれているブラジルのセムコという会社です。組織階層とか役職とかルールというものが何もないんですよ。日本でそういう会社を聞いたことがありませんでしたが、アメリカでは優秀な人たちを集めて自由にやるというGoogleのような会社が出てきていて、これからはそうなっていくんだろうと思っていました。

仕事の成果は時間で測れない。数値だけで測るべきでもない

ウイングアーク1st株式会社 People Success部 部長 吉田善幸氏

吉田:人事の仕事も、2000年代にようやく変わり始めたように思います。それまでは、社員をいかに規律正しく労働させるかという「管理」に意識を集中させてきたわけです。いわゆるホワイトカラーの、時間で縛られない人たちの生産性をどう上げるか……みたいなところをやっと考え始めたのがあの時期だった。法律も裁量労働制が限定的にOKになったりしました。とは言え、悪い会社が酷使しないように労働者を守るという、日本の法律の大前提は未だに変わらないですけどね。

藤本:労働基準法が労働者を守るために制定されたものである、というのはすごく理解できるのですが、今は「時間で管理する」という前提が色々なところで矛盾を引き起こしていますよね。法律を守るために本来は必要ない余計な仕事が発生しているような気がします。
その点、Googleですごく良かったと思うのは成果を自分で決める「OKR」(注)という制度です。これも最初は衝撃を受けたんです。定性的な成果と定量的な成果の両方を定義できない仕事はダメだと言われて。私は営業でしたが、数字を取ってくるだけではダメで、その数字をどうやって達成するのかという手法はもちろん、その数字の意味についても自分で考えて定義するんです。この方法なら、数値で成果を測りづらい職種でも成果を定義できて、「時間の管理ってなんで必要なんだっけ?」という疑問が出てきます。

(編集部注:「OKR」はObjectives and Key Resultsの略で、組織と個人がそれぞれのO(Objective:目標)と、そのOを測定するためのいくつかのKR(Key Results:主な結果)を設定し、その実現状況を確認しながら努力するしくみ)

吉田:森下さんのところもOKRを使っていますか?

森下:OKRを参考に、「VGTA」という独自のしくみを作っています。Vが普遍的なビジョン(Vision)で、Gは3〜5年位での定量的なゴール(Goal)です。その次のTは今年のテーマ(Theme)ですが、ここは定性的な内容にします。短い目標というのはコロコロ変わるので、最初に定量的な目標を決めて1年間それを追うというのも馬鹿らしい。だから「今年はこんなことを重点的にやりましょう」というテーマだけを決めるんです。そしてAがアーティファクト(Artifact)で四半期ごとの成果物。Aは定量的に明確にしますが、これも毎週ディスカッションしながらどんどん変えていい、という前提があります。全体として、あまり定量的にし過ぎないようにしたいと考えているんですよ。

株式会社Everforth 代表取締役CEO 森下将憲氏## データは判断のツール。固執すると目的がおろそかに

吉田:確かに、定量評価というのは「これをやれば、評価がこうなる」ということが事前に握れているという意味ですごく透明性が高いけれど、問題も多い。森下さんが言うとおり、仕事ってどんどん変わるんですよね。仕事のアジリティに従来型の半年一年サイクルの評価制度が追いつけない時代が来ていると思います。そのギャップを埋めるのはコミュニケーションや信頼関係、という話が今更ながら出てきていて、最終的には「これが必要だからやる」と自分で決めたテーマをやるという方向にシフトすべきだ、という話になってきていますね。

藤本:営業なんかは特に、四半期毎の数字というのはそこに至るまでにしていることの積み重ねなので、数字だけ追いかけると続かないんですよね。

吉田:数字というデータだけを見ることが、クリエイティビティとかコラボレーションのようなものを阻害する、そんな経験はありますか?

森下:チームごとの目標を精密に落とし込むほど、実は本質とはズレていく――、そんなことってありますよね。目標設定って本当に難しくて、チームのコラボレーションがなくなるのが一番の問題だと思っています。

藤本:データはあくまで判断のツールのひとつでしかないのですが、「とにかくこれをやらなければいけない」とひとつのデータに固執してしまうのが一番怖いですよね。

吉田:OKRで一番大事なのは実はOで、Rというのはそれをサポートする短期的な積み上げの結果に過ぎないのですが、データを重視するあまりにRばかり見てOをおろそかにするような危険がありますね。

藤本:そうです。データというのは、今どう動いているのかが分かるバロメーターでしかない。

吉田:毎日の血圧を測るようなイメージですね。

藤本:そうそう。血圧とか体重を毎日測るのは、体重が何キロであるかが大事なのではなくて、その上下の幅や変化を見るのが大事なんです。そこを理解せず、数値を見ることに固執して、それが仕事になっているとすると、おかしいですよね。

データと感性の融合、異なるデータの組み合わせから見えてくるものがある

森下:我々はVGTAを人事評価のためではなく、個人やチームが自律的に動くための指針として運用しているんです。だから、データも“評価”ではなく“可視化”のために使いたいですね。例えば、コードのコミット量やチケットの消化量を見えるようにするとか。あとは、チャットでのコミュニケーションをネットワーク図として可視化すると、「このチームを動かしているのはこの人だ」みたいなことが見えてくるはずなんですよね。

藤本:Googleで同僚だった三浦豊史さんのLaboratikという会社のプロダクト、「A;」が正にそういうものです。Slack上のやり取りを全部クローリングしてコミュニケーションを可視化するんです。いろんな企業でどんどん導入が進んでいるそうで、仕事の成果を出す上でのコミュニケーションの重要性が認識されるようになってきているな、と感じます。

森下:定量的なデータを把握することと、人の感性の部分と、融合させて考えることが重要だと思います。

藤本:データの見方も、特定の数値に固執するのではなく、一見関係のないデータをかけ合わせてみるのが大事なんですよね。例えばGoogleでPeople Analyticsをやっている部署は、全世界の社員に色々なテストに答えさせてデータを集めます。そういうテストの結果を含め、一見関係なさそうな様々なデータを掛け合わせてみているんです。

吉田:そこから何か、新しいファクトが見えてくる?

藤本:「何も見えない」というのもひとつの発見なので、必ずしも何か出てくることを前提にしない方が良いでしょうね。

森下:Googleの「プロジェクト・アリストテレス」はとても有名ですよね。研究の結果、チームの成功にとって重要なのは心理的安全性だった――、という。

藤本:世界中のどのチームを見ても、「優秀な人」とか「優秀なチーム」みたいなものを決定づけるものは「ない」という結論なんですよね。

後編に続く)

(テキスト:やつづかえり PHOTO:Inoue Syuhei)

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