【インタビュー】サイモン・フィリップスが語る、5年ぶり新作と”現在のプロトコル”

TOTO、ホワイトスネイク、マイケル・シェンカー・グループ、ザ・フーをはじめとする名だたるロック・ユニットで活躍してきたカリスマ・ドラマー。ジャズ・ファンには上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトの一員として特になじみ深いであろうサイモン・フィリップスが、自身のユニット“プロトコル”を再始動させた。

5年ぶりの新作『プロトコルV』では長年の相棒であるベース奏者アーネスト・ティブスを除きメンバーを一新、元ジョン・マクラフリン・バンドのキーボード奏者オトマロ・ルイーズ、クリスチャン・スコット等と共演するサックス奏者ジェイコブ・セスニー、スティーヴ・ヴァイも称賛するギター奏者アレックス・シル(なんと60年代にフィル・スペクターと共同でレーベル“フィレス”を設立したレスター・シルの孫であるという)を迎え、コンテンポラリー・ジャズやハード・フュージョンといった言葉の先を見据えたような音作りで圧倒する。これまでプロトコルの諸作を味わってきたけれど、まだこの最新作に耳を通していないという方は、とにかくラストに収録されている「ザ・ロング・ロード・ホーム」を聴いてみてほしい。新たな扉を開くプロトコルの姿が実感できるだろう。

<動画:SIMON PHILLIPS & PROTOCOL V -- "The Long Road Home"

「プロトコルが「ザ・ロング・ロード・ホーム」のような楽想に取り組んだのは今回が初めてだけど、まったくの新曲というわけではなく、モチーフ自体は(上原)ひろみとのツアーに出ている頃に生まれていた。あの時のベーシストはアドリアン・フェローだったかな(2016年)。ライヴが終わってからホテルの部屋で、なんとなくコンピューターで作曲している時にちょっとパット・メセニー風なアコースティック・ギターのラインが浮かんできた。でも、それは当時のプロトコルの音作りとは異なる感じだったので、『プロトコルIV』には入れずにおいた。その後、2020年に(新メンバーの)アレックスとジェイコブと話し合ったときに(「ザ・ロング・ロード・ホーム」を)聴かせたところ、パットの大ファンでもあるアレックスがとても気に入ってくれて、“すごくいいね、ぜひ演奏してみたい”という。それならプロトコルのレパートリーにしようと、メンバーとアイデアを交換しているうちに、3分の曲が10数分の組曲に発展してしまった(笑)。そして『プロトコルV』に入ることになったんだ。以前からぜひ組曲に取り組んでみたかっていたし、結果的にとてもクール(かっこいい)なものになったと思うよ」

サックス奏者が加わったのも、プロトコル史上初めてのこと。サイモンは往年のソロ・アルバム『シンバイオシス』、『アナザー・ライフタイム』(順に95年、97年リリース。サックスはウェンデル・ブルックス)を思い出しつつ、“いま現在のプロトコル”を盤にこめた。

<動画:Another Lifetime

「インストゥルメンタル・ミュージックに限界はない、もっと多彩であるべきだという気持ちがますます強まっている。5年前の私は「ザ・ロング・ロード・ホーム」をプロトコルには似つかないと思っていた。けれど今は、こういう楽曲をプロトコルで演奏しない理由はないという気持ちに変化している。多彩な楽想を表現するにふさわしいメンバーが集まっているんだからね。私が曲を書くときは、誰がギターで誰がキーボードで、といったことを考えながら書くことが多い。彼らの特徴みたいなものが自分の曲作りに反映されて、楽想の助けになることもある。もしそのときバンド・メンバーが決まっていなかったら? そうだな、想像のバンドを作るだろう。たとえば、アンソニー・ジャクソンがこれを弾いてくれたらいいなと思ってベースのフレーズを書いたりね」

アンソニー・ジャクソンとサイモンといえば、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトの構成員としても知られてきた。同ユニットで活動した経験や上原ひろみからの影響も、創作の養分になっているとサイモンは言う。

「彼女(上原ひろみ)は冒険的だから、覚えかけの新曲でも“今夜、これを演奏したい”と言ってプレイすることがある。まだその曲を知り尽くしていないことは承知の上で、ひとまず人前で演ってみましょうという感じだ。その恐れの知らなさを私やアンソニー(・ジャクソン)は好きで、私もそういった精神を自分のバンドに持ち込みたいと考えていた。同じことを繰り返せば不安はなくなっていくけれど、それよりも、その場その場で前向きにやっていくことの面白さを私はとりたい。それは6年間に及ぶ、ひろみとの共演で学んだことだ。『プロトコルII』以降のすべての私のアルバムに、彼女の影響があるといっていいだろう」

<動画:Hiromi - One Minute Portrait “Simon Phillips”

“若手ミュージシャンの恐れを知らないところが魅力的だ”と語り、息子世代にあたるジェイコブやアレックスを迎えた最新版プロトコルを率いているうちに“アート・ブレイキーのような気分になってきた”と笑う。ブレイキーは自身のバンド“ジャズ・メッセンジャーズ”を率いて、5デケイドに渡り次世代ミュージシャンとの共演を重ねてきた伝説的ドラマーだ。

「バンドの中で私が最年長という状態がしばらく続いているけれど、こうした気分もとても良い。自分自身のことを振り返っても、18歳か19歳の頃にジャック・ブルースに誘われた経験が大きかったからね。私は駆け出しの若者だったが、それでも信頼してくれる先輩たちのおかげで、業界の中で少しずつ頭角を現していくことができた。そう考えると、今度は自分が若手に同じことをする番だと思えてくる」

ミキシング・エンジニアも、引き続きサイモン自身が担当。“管楽器がいるのといないのでは、音作りが俄然、変わってくる”と力をこめる。

<動画:SIMON PHILLIPS & PROTOCOL V -- "Jagannath"

「ミキシングをする上では、自分が曲を書いていて、その曲を熟知している点が大きいね。ミキサーとして毎回、考えているのは、“音をいかにビジュアルで描くか”ということだ。要するに音の位置をどこに置くか。ベーシストがセンターに位置し、オーディエンスの視線でそれぞれの奏者を見ることを考えると、『プロトコルII』から『プロトコルIV』までは管楽器なしの4人編成だったので、キーボードはレフト寄り、ギターはライト寄りが基本だった。でも、今回は5人なのでキーボードはレフト寄りやライト寄りに曲ごとの楽器構成によって振り分けて、フロントに関してはアレックスがどちらかというとレフト寄り、ジェイコブをライト寄りにした。円を描くように、空間に音を置いていく感じだね。耳障りなところのないように、心地よく響くように心がけたよ。録音手法に関して言うと、私はオールド・ファッションな人間だから、やっぱり全員が集まって一発で収録するのが好きなんだ。今は自分の部屋で多重録音して完成させる人も多いと思うけど、私の場合はやっぱりみんなで一緒にサウンドもアレンジも含めて、その場で作っていくのがベストだ。シーケンサーを使って、あとから楽器を乗せていくと、やっぱり何かが欠けてしまう印象がある。自分はそういうレコード作りに乗り気ではないし、レコーディングは一つの特別なイベントだと思っているからね。ここを変えたいなと思ったらすぐに話し合って、その場で直していくほうが私にはいい。皆で一斉に演奏することで、間違いなく生まれるグルーヴはあるし、それが私にとってのジャズなんだ」

“入国制限や自主隔離が取り払われたら、コロナ後の初海外公演のひとつを「ブルーノート東京」で行なえたらとも思っている”と語るサイモン。入魂の力作『プロトコルV』を繰り返し聴きながら、来たるべきその日を待とうではないか。

(取材・文:原田和典)

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■リリース情報

サイモン・フィリップス AL『プロトコル V』
2022年3月2日発売 UCCU-1659 SHM-CD ¥2,860(tax in)
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