UKジャズ最前線、ブルー・ラブ・ビーツが語る自身のルーツやUK音楽シーンの現状

【素晴らしきUKジャズの世界 Vol. 1】

トム・ミッシュやシャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアなど名だたるアーティストの台頭で近年更なる盛り上がりを見せるUKジャズ・シーン。2020年に発売された『ブルーノート・リイマジンド』も大きな話題となったが、本シリーズ「素晴らしきUKジャズの世界」ではそんなUKジャズ・シーンで活躍するアーティストにスポットをあて、インタビューやコラム記事を通じて紹介していく。

第1回目は2月25日にブルーノートからニュー・アルバム『マザーランド・ジャーニー』をリリースした、ロンドンの新世代ジャズトロニカ・デュオのブルー・ラブ・ビーツが登場。新作を通じ、自身のルーツやイギリス音楽シーンの現状についてたっぷり語ってくれた模様をお届けする。

(通訳:佐藤空子)

アルバムとても素晴らしかったです。タイトルの『Motherland Journey』の通り、本作ではアフリカが大きなコンセプトの一つになっているのではと思います。こういった方面にフォーカスをあてるきっかけや経緯について教えていただけますか。

NK-OK(以下N):実はガーナでPVを撮影していたんだ。その時にクラビングしていたら本当に向こうのクラブでは色々な音楽をジャンル問わずミックスして組み合わせていたことにものすごくインスピレーションを受けたんだ。僕たちがそれまでにやってきたこと、自分たちのコンセプトそのものがクラブで実際に行われていて、でも自分たち以上にジャンルをミックスしていて。自分たちはまだそこまでできていないな、と言う感じがしたんだ。そして、僕たちが西アフリカ、「マザーランド」に「戻った」っていう中で、その「ジャーニー」がとても感慨深かったんだ。

<動画:Blue Lab Beats - Blow You Away (Delilah) (Official Video)

アフロビートを初めてやったのが「パイナップル」だったんだ。その時、1曲だけだったわけだけど、不思議とファンの受けが本当に良くて、大人気になっていたんだ。そこでもう少しこっち方面で実験してみようって思ったんだけど、その中で素晴らしいアフロビートのアーティストたちとやってみたいなって思うようになって色々やってみたんだ。

<動画:Blue Lab Beats - Pineapple ft. Moses Boyd, Nèrija

お二人の音楽的なルーツはどこにあるのでしょうか?どのようなきっかけで音楽を始めたか、大きな影響を受けたミュージシャンなどあれば教えていただけますか。

Mr DM (以下D): Wac Arts Collegeで学んだんだけど、その時は譜面を見るのではなくて耳で覚えて演奏していく、っていうそういうことをやっていった。その後、ミドルセックス大学でジャズを学んだ。そこでは譜面を学んだり、もっとスタンダードなジャズを学んだり、ホーン・プレイヤーのための楽曲を作曲したり、ビバップを作曲したり、色々なジャズの作曲を学んだ。3歳でドラムスを初めて、そこからエレキ・ベースをやって、大学ではそこからビブラフォンや他の色々な楽器を演奏していくようになった。

<動画:Lockdown sessions: David Mrakpor and Friends Livestream 8PM 22/04/21

N:僕は15歳の時にレコード会社と契約したんだけど、11歳からホームスクールだったんだ。もともと自分の父もミュージシャンでそういう影響もあった。で、HIP HOP EJ5のトライアル版をダウンロードして色々試してみたんだけど、そうこうしているうちに進路をどうするかになって、父親にミュージシャンとしてやっていくんだったらそれを続けられるって証明してみろって言われたんだ。で、とにかく四苦八苦して何とかレコード会社の契約にこぎつけたんだ。

自分がヒップホップに入るきっかけになったのはピート・ロックだった。そのプログラミングは本当に素晴らしいと思う。DJプレミアとかも影響を受けたね。ミッシー・エリオットは、アーティストとしては本当に評価されているけれど、彼女はプロデューサーとして全く認められていないと思うんだ。彼女には本当にものすごいインスピレーションを受けたね。パトリース・ラッシェンもすごいと思う。彼女は他のアーティストにも曲を提供しているしね。クインシー・ジョーンズも本当に好きだし、一回バックステージであったけれど本当にすごい経験だった。

<動画:Pete Rock Boiler Room NYC DJ Set at W Hotel Times Square #WDND

あとはグライムスにとても影響を受けているよ。ヒップホップをやるにあたってグライムスをやりたかったからなんだ。

タイトル曲「Motherland Journey」でフィーチャーされているFela Kutiの声はとても印象的です。このフィーチャリングが実現するに至った経緯を教えていただけますか。

N:ガーナで「ブロウ・ユー・アウェイ」のPVを撮影した後にフェラ・クティの出版社から連絡が来て、僕たちのやっていることがとても気に入ったから、彼のヴォーカルを使って何かやってくれないかっていうオファーが来たんだ。ものすごい機会だな、って思って結局3カ月何も返事ができなかったよ。オファーと一緒にものすごく長い楽曲リストが送られてショック状態だったんだ。で、楽曲を決めてからはダニエル・テイラーという人に頼んでヴォーカルを切り離してもらってアカペラの音源を作ってもらったんだ。

<動画:Blue Lab Beats - Motherland Journey ft. Fela Kuti, KillBeatz, Kaidi Akinnibi, Poppy Daniels

これまでの作品と比べて、今作はアルバム全編にわたって生演奏にも通じるオーガニックなフィーリングをより強く感じました。この辺りは制作過程で意図されていたものでしょうか。

D:確かにそのようなサウンドを目指した。これは結構聞かれることだから明確に言っておきたいんだけど、あの中で僕が演奏したドラムスは全くないんだ。あれはプログラミングされたドラムスで、僕自身のこだわりっていうところなんだ。ドラム・マシーンを僕はサンプラーではなく、楽器にしようとしていて、どれくらいこだわっているかと言うと、スネアだけでも2時間かけてプログラミングしている。本当に一つ一つの打音の強弱を全部調整しているんだ。

あとは、ロックダウンの最中、ロンドンでは結構みんなが機材もって公演でジャムセッションをやっていたんだ、すごい時期だったと思う。それを経験した上でもっとああいうオーガニックなものに近づけたいという気持ちになったんだ。

<動画:Blue Lab Beats - Dat It (Official Video) ft. Kiefer

そういったオーガニックなサウンド・プロダクションや、良い意味での楽曲のキャッチ―さはブルー・ラブ・ビーツの大きな魅力だと思います。そういう点で影響を受けた、または参考にしているプロデューサーやコンポーザーはいるのでしょうか。

N:もちろんそういう音こそ僕たちの特徴だと思うんだけど、スティービー・ワンダーの『キー・オブ・ライフ』に非常に影響を受けている。あのアルバムはとにかく信じられないくらい色々なジャンルで実験しているんだ。あの時代以降ああいうアルバムは聞かないから、あの時代のレーベルの方向性だったのかもしれないけれど、あの時代、みんな色々なジャンルで実験をしていたんだ。僕はそれがとても大切だと思っていて、色々なジャンルをやっていく中でもしっかりやることをやっていれば、自分のサウンドが作れると思っている。

<動画:Sir Duke

D:僕はパトリース・ラッシェンの『ハート泥棒』に非常に影響を受けている。「フォーゲット・ミー・ノッツ」は、MIBでサンプリングされていて、僕が12歳くらいのときみんな聞いていたからそれだけは知っていたんだけど、あとになってパトリース・ラッシェンがオリジナルだと知って本当に驚いた。後はそう、オスカー・ピーターソンの『ナイト・トレイン』に影響を受けているね。

<動画:Night Train

今回の作品を制作するにあたり、特にインスピレーションを受けたミュージシャンやレコード、体験などがもしあれば教えて下さい。

N:Wizkidの『Made in Lagos』は確実に今回のアルバムに影響をうけた。アフロビートのこのドラムスが本当にすごくてみんなに知ってもらいたいものだ。1曲目のプログラミングなんて本当にクレイジーだ。

<動画:WizKid - Made In Lagos (Deluxe) [Short Film]

D:確実に影響を受けたのは『キー・オブ・ライフ』だね。

今回はマスタリングをHerb Powersが担当しています。依頼するにあたり、彼が過去に手掛けた作品の中でイメージしていたものはありますか?

D:彼は本当に天才だよ。最初に「ブロウ・ユー・アウェイ」を渡したんだけど、彼は作品の心と魂を高みにまで持って行ってくれる。レジェンドだよ。エンジニアに対して、僕は基本的にこうして欲しいっていう希望はないんだ。彼らが彼ららしくやっていくことが自分にとってはとても大事で、彼らを型にはめて仕事をしてもらうっていうのはあまり好きじゃないんだ。だから彼には全て委ねたという感じだった。

Social Mediaを通じて制作作業の模様を積極的にシェアしていますね。TikTokでの楽曲のブレイクダウン動画もとても面白かったです。こういった情報のシェアは音楽制作をしている人々にとってとても役に立つものだと思いますが、そういうことを意図してのものでしょうか?

 <動画:BLB song breakdowns EP.1 LABELS!

N:そう、役立てばいいな、とも思っている。でも、僕らとしては同時に、オーディエンスに僕たちの世界に招待したいな、っていう気持ちがあるんだ。僕たちの製品、そしてバンドを見てもらうだけじゃなくて、そこに少し入り込んできて欲しいって思っているところでやっているんだ。

Jacob CollierもよくLogicのブレイクダウン動画をアップしていますが、そういった自分が持っている技術をオープンにするのはUKのアーティストが多いような印象を受けます。お二人が出会ったWac Arts Collegeも慈善教育の施設ですし、勿論Tomorrow’s Warriorsの存在も大きいですし、特にロンドンにはそういったアーティストの育成を積極的に支援し合う文化が深く根付いているように思います。これはシーンの大きな特徴の一つだと思うのですが、これには他の地域とは違う理由が何かあるのでしょうか?

https://youtube.com/shorts/IaXzN6KOhrg?feature=share

N:イギリスではこの5-7年の間、ものすごくクリエイティブなことをやっている人がいるってみんな気づき始めたんだと思う。サウンド・クラウド初期の頃、皆が助け合うようになって、それがどんどん煤で言った気がするんだ。イギリス人ってもともとシャイだからそういうことができなかったんだと思うんだけど、そういう協力精神がじつは本当にもっとすごいものを生み出すっていうことに気づき始めたんじゃないかなって思う。そういう協力の精神についてはパブリック・エネミーのチャックDと話した時に教わったんだ。そもそもパブリック・エネミーも集合体、っていう感じだし、より多くの人が参加する事で、よりエネルギッシュになるし、もっともっといろいろなインプットがあるからそれはとても大事なんだよ。

2021年から名門ブルーノートと契約されましたが、契約に至った経緯などあれば教えていただけますか。また、80年にわたるブルーノートの歴史の中で、お気に入りのアルバムがあれば理由とともに何枚かご紹介いただけますでしょうか。

D:アート・ブレイキーの『モーニン』だね。アルバムのメンツを見ても本当にすごい。リー・モーガンがいたり、ボビー・ティモンズがいたり、本当にすごいアルバムだと思う。

<動画:Moanin' (Remastered)

N:グラント・グリーンの『アイドル・モーメンツ』。

<動画:Idle Moments (Rudy Van Gelder Edition / Remastered 1999)

■ブルー・ラブ・ビーツ (Blue Lab Beats) プロフィール
D・インフルエンスのクワメ・クワテンの息子でありプロデューサー/ビートメイカーのNK-OKことナマリ・クワテンと、マルチ奏者のMr DMことデヴィッド・ムラクポルによるユニット。2013年に北ロンドンを拠点として結成され、2016年に初の作品「Blue Skies」をリリース。

2017年には2nd EP「Freedom」をリリースし、2018年に待望の1stアルバム『Xover』を発表。モーゼス・ボイドやヌバイア・ガルシアなど気鋭のミュージシャンが参加し、ジャズとソウルなどあらゆるジャンルを独自のビートに昇華させたサウンドは大きな話題を呼んだ。2019年には2ndアルバム『Voyage』をリリース。サンパ・ザ・グレイトなどがゲストで参加し、ジャズとクラブ・サウンドを融合させた音楽性を更に進化させた。2020年にはブルーノートの名曲たちを現在のUKジャズ最高峰のミュージシャンが再解釈したアルバム『ブルーノート・リイマジンド』への参加でも話題となった。
2021年には名門ブルーノートと契約を果たし、5月にEP「We Will Rise」をリリース。

トム・ミッシュ、ジョルジャ・スミス、エズラ・コレクティヴ、シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアなど多くのアーティストが世界的に活躍し隆盛を極める現在のUKジャズ・シーンの中でも最注目の存在。

■リリース情報

ブルー・ラブ・ビーツ AL『マザーランド・ジャーニー』
2022年2月25日発売 UCCQ-1554 SHM-CD ¥2,860(tax in)
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