栃木県那須町で2017年3月、登山講習会中に大田原高の生徒7人と教諭1人が死亡した雪崩事故は27日、発生から5年となる。事故原因や引率者の責任を巡る議論は今も続いており、民事・刑事の法廷で審理されることが先月決まった。県教委などによる再発防止に向けた取り組みは少しずつ前進しており、独自に安全な高校登山の在り方を模索する遺族もいる。誰もが癒えない悲しみを胸に抱えながら、5回目の命日を迎える。
「なぜ息子が死ななければならなかったのか」。県教委による第三者検証委の最終報告がまとまった後も、多くの遺族の疑念は残り続けた。冬山登山を禁じた国や県の通達を守っていたら。前日からの雪崩注意報を把握していたら-。「自然災害ではなく、無謀な雪上訓練を強行した人災」。その思いは変わらない。
6遺族が県などに対し謝罪などを求めた民事調停は不調に終わり、5遺族が先月、民事提訴に踏み切った。一方、高校生の安全な登山の在り方を巡っては、県教委や県高校体育連盟、遺族が議論を続けている。山岳部の地域クラブ化を目指す「とちぎモデル」を提唱した遺族もいた。
犠牲者の1人、浅井譲(あさいゆずる)さん=当時(17)=の母道子(みちこ)さん(56)は、愛息の思い出をたどりながら高校生の安全登山を模索している。
昨年7月、大田原高山岳部と日光白根山に登った。譲さんが事故の9カ月前に訪れ、その様子を映像に残した山だった。道子さんは登山中、譲さんの後輩の背中を見詰めながら、「ゆずと一緒に登っている」とうれしくなった。
だが山の厳しさも実感した。予報より大降りとなった雨。遠くで聞こえる雷鳴。雨具を忘れた生徒は、低体温症が心配された。この経験を踏まえ、県教委に安全対策を独自に提言した。
「安全で有意義な登山を続けてほしい」。山と自然を愛した息子を思い、願う。譲さんは「引退したら後輩を教えに行かなくちゃ」とも話していた。息子の意思を受け継ぎ、生徒の背中を見守り続けるつもりだ。