これが90年代の空気感!小泉今日子「オトコのコ オンナのコ」菅野よう子プロデュース  小泉今日子 デビュー40周年のアニバーサリー・イヤー!

読売新聞読書委員にも就任した読書家・小泉今日子

キョンキョンは1982年にアイドルとしてデビューをした後、高校を中退しています。キョンキョンいわく “芸能界” という会社に就職をしたという感覚だったそうですが、お父さんの仕事の都合で夜逃げ同然の生活をしていた時期もあったので、経済的にも精神的にも早く自立をしたかったようです。そういう出来事を包み隠さずさらっとエッセイに書いたりするのがキョンキョンの素敵なところ。

キョンキョンは今でこそ姉御肌的なイメージですが、80年代は人見知りでシャイな性格だったそうで、楽屋で他の人たちと話をすることが苦手だったそうです。そんな時に本を読むことを覚えたキョンキョン。本を読んでいれば他の人が話しかけにくいだろうという思惑もあったそうですが(笑)、そこから本の世界へのめり込んでいくことになるわけです。

2005年から約10年間、読売新聞の読書委員に就任し、日曜読書面で書評を執筆することになるわけですから、人生ってどこで転機が訪れるかわからないですよね。

2021年の4月から始まったSpotifyのポッドキャスト番組『ホントのコイズミさん』はタイトルに韻を踏ませていて「ホント」の「ホン」には読む「本」がかかっています。毎回本にまつわるゲスト(本屋さんだったり、作家の方だったり)とキョンキョンが「本」に関するお話をするという、知的好奇心がくすぐられる番組です。まだ聴いたことのない方は是非聴いてみてください。

「パンダのan an」に感じた小泉今日子の文才

僕がキョンキョンに文才を感じたのは、1997年に発売された書籍『パンダのan an』を読んだことがきっかけでした。この本は、雑誌『an・an』に連載していたエッセイを1冊の本にまとめたものですが、物事を見つめる視点が独特で、アイドル時代とは一味違う魅力を感じ、さらに彼女のファンになりました。エッセイには毎回キョンキョンが撮影したポラロイド写真が添えてあり、その写真を見るのも楽しみの一つでした。

今回紹介するアルバム『オトコのコ オンナのコ』は、そんな『an・an』の連載をしていた時期に発売されたアルバムです。タイトルだけ聞いてピンとこない方も「あ! あのキティちゃんのジャケットね!」と思い出すはずです。

キョンキョンの作詞デビューは1985年に発売されたアルバム『Flapper』に収録された「Someday」という曲。ディレクターの田村さんにすすめられて、作詞に挑戦したそうですが、“美夏夜” というペンネームでクレジットされています。憧れていた女の先輩の名前から引用してつけたペンネームだったそうですが、控えめに始めた作詞も90年代に入ると本格的なものになり、自身が作詞を手がけた「あなたに会えてよかった」や「優しい雨」はミリオンセラーを記録しています。

プロデュースは菅野よう子 “渋谷系”の香り漂う「オトコのコ オンナのコ」

今回の本題であるアルバム『オトコのコ オンナのコ』も全曲小泉今日子自身の作詞です。このアルバムが発売された1996年は “小室系”“ビーイング系” と呼ばれたジャンルの音楽がヒットチャートを席巻していましたが、かたや “渋谷系”がブームだったこともあり、このアルバムは渋谷系寄りのサウンド作りがされています。とは言え、渋谷系という言葉が生まれる前から、その周辺アーティストと多くのコラボレーションをしてきたキョンキョンですから、流行のサウンドは取り入れつつ自由に制作した作品だとは思います。もちろん、菅野よう子がサウンドプロデュースを手掛けているのがこのアルバムの最大の特徴ですが。

1999年に発売された「for my life」はこのアルバムからのシングルカットですが、サウンドがもろ渋谷系の香りがしますし、森若香織が作曲を手がけた「サボテン」はスカっぽいレゲエサウンドです。ポエトリー・リ―ディングで展開される「インタビュー」もいかにも渋谷系っぽいですよね。ヴァラエティに富んだサウンドで展開されるこのアルバムですが、キョンキョンの言葉で紡がれた自由な世界が繰り広げられています。聴いた後にキョンキョンしか知らない秘密の場所に辿りつけたような気持ちになるアルバムです。全曲の作詞を手がけたフルアルバムは今のところこれが最後だと思いますが、その後も“言葉”にこだわった活動をしていることには変わりありません。芝居の台詞も“言葉”ですし、エッセイや書評ももちろん“言葉”ですからね。

90年代というのは音楽バブルで制作費が今よりも遥かに多かった時代です。このアルバムを聴くと、当時いかに贅沢なサウンド作りがされていたかが再確認出来ます。サブスク等でも聴けるアルバムですので、改めて90年代の空気感のようなものを体感してみてください。

カタリベ: 長井英治

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