1軍の“リング”で「吹っ飛ばされる」危険性も 巨人期待の大勢&山崎らに必要な力

プロ初登板初セーブを記録した巨人・大勢【写真:荒川祐史】

2012年巨人日本一のヘッドコーチ・岡崎郁氏が解説

巨人は25日、中日との開幕戦(東京ドーム)を勝利し、2022年白星スタートとなった。ドラフト1位ルーキーの大勢投手が9回、2死満塁のピンチを招いたが、プロ初登板初セーブの偉業を成し遂げた。開幕第2戦の中日戦(東京ドーム)ではトミー・ジョン手術から復帰した山崎伊織投手が先発。3年目の堀田賢慎投手も含め、期待値の高い巨人の若き投手たちは1軍の戦力になれるのか――。巨人で2軍監督、1軍ヘッドコーチ、スカウト部長を務めてきた岡崎郁氏は「期待はしていても、ずっと使うことはしないと思います」とシーズンを戦う“体力”の重要性を説いた。

リーグVを目指す巨人のポジティブ要素は、チームの将来を担う投手たちが出てきていることだ。しかし、それは反対に計算していた投手たちの調整遅れが浮き彫りにもなっている。それでも、堀田や山崎、大勢は調子を維持し、キャンプ、オープン戦とアピールを続け、未来を明るく照らしてくれている。

岡崎氏は特に大勢のピッチングに目を見張る。映像でしかまだ見てはいないが、最速158キロ右腕について「打者に向かっていく圧といいますか、打者は球速よりも速く打席で感じていると思います」とゆっくりとした腕の振りから投げ込むフォームで打者は困惑すると解説。かつて、巨人で背番号17をつけ、身体能力の高かった台湾人投手、姜建銘(ジャン・チェンミン)の名前をあげるなど、天性のものと称した。

「腕の振りと一緒にボールが出てきたら、バッティングピッチャーのようで打者は打ちやすいと思います。でも、腕がゆっくりと出てきて、球が速かったらなかなか打てません」と大勢には球速以上の武器があるという。だが、このようなタイプの投手は状態が悪くなってくると、力で球を走らせようとするため、腕の振りが速くなる。球速のイメージと腕の振りが同じになる危険性もあるという。

大勢ら若き3投手は開幕から1軍の戦力として計算され、巨人の救世主となるのか――。そう聞くと、岡崎氏は首を立てに振ることはなかった。「あくまでプラスアルファの部分です。3人で5勝~10勝してくれたら“ラッキー”というくらいしか首脳陣は思っていないと思います。期待はしているでしょうけど、そこを計算していたら、シーズンは戦えません」と断言する。その理由はシーズンを戦うための“体力”がまだないからだ。

巨人で強打の内野手として活躍した岡崎郁氏【写真:中戸川知世】

1年目から見ている坂本勇人は戦える体力が「あった」と岡崎氏

「今、名前の挙がっている3人の調子がいいのは、間違いないのでしょうけど、本当に1軍の“リング”に上がる力が備わっているのかどうかという部分はあります。投げて、登録抹消を繰り返したりしていくことになるでしょう。必要なのは戦うための体力。体が丈夫であれば、いくらでも練習ができますし、今の彼らに必要なのは経験ではなく“体験”。その中での力がつけていく必要があります」

岡崎氏が2軍監督や1軍ヘッドコーチを務めていた時は、巨人・原辰徳監督に進言することも多くあった。選手を推薦する上で、選手の体力を見極めながら、1、2軍の入れ替えをしてきた。1軍を“リング”と表現したのも、その舞台で戦う厳しさを知っているからだ。

「戦う体力がないと1軍の“リング”に上がっても、吹っ飛ばされてしまう。それだけは首脳陣がしてはいけないと思っていましたし、見極めていかないといけない。原監督は選手の使い方が上手です。期待をしていても(体力がついていない選手を)ずっと、長く使ったりはしません。入団間も無いのに体力があるなと感じた選手は(坂本)勇人くらいですから」

坂本勇人内野手の入団1年目の2007年、岡崎氏は2軍打撃コーチを務めていた。坂本は同年のシーズン終盤に頭角を現し、翌2008年は松井秀喜氏(巨人、ヤンキースなど)以来の10代開幕スタメンを果たし、その後も全試合に出場した経緯がある。

「(坂本は)シーズンを戦う上での体の使い方がわかっていた。『これ以上無理したら危ない』という感覚を持っていて、自分の身を守れる人。そこがわからず、全力でやって怪我をする選手も見てきました。普段の体力と、試合の体力は別物です。どこかで抜きながらやらないとプロの選手だって、1シーズン、体は持ちません。完封、完投する先発投手が27個のアウトをとる上で、すべて全力で投げているわけではないというのと同じです。100%で行く時もあれば、80%くらいでいくときもないといけませんから」

これから1軍の“リング”で戦い続けるために必要なのは、体力と余力を持つ感覚を身につけること。首脳陣が若き投手に備わってきたその力を見極めることができたときこそ、“プラスアルファ”の存在から、真の戦力となるだろう。(Full-Count編集部)

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