相鉄・東急直通線開通まであと1年 市営地下鉄ブルーラインは川崎市新百合ヶ丘へ 横浜の鉄道の話題あれこれ【コラム】

平沼橋から横浜駅方向をのぞむ。JR、京急、相鉄は地上を、東急、みなとみらい線、横浜市営地下鉄は地下を走ります(写真:いつか / PIXTA)

人口378万人、東京23区を除き全国の市町村で最大の人口を誇る都市が横浜市です。港湾都市、ビジネス都市、観光都市……多彩な顔を持つ横浜は、鉄道の話題も豊富。2019年11月に相鉄・JR直通線が開業したのに続き、2023年3月(予定)には相鉄・東急直通線の開業を控えます。

横浜市は、市民レベルで鉄道や交通を考える活動が盛ん。2004年に発足したNPO法人の「横浜にLRTを走らせる会」(※)と、2008年に活動を始めた任意団体の「横浜の公共交通活性化をめざす会」は共催で、市民向けのフォーラム(セミナー)を定期的に開催します。2022年2月にオンライン開催された「2022冬公共交通フォーラム」などでの報告から、横浜の鉄道の話題を集めました。

※誕生は2003年12月、NPO法人登録は2004年。

面積は大阪市の2倍以上、市内中心部は鉄道が発達

外航クルーズ船の先に赤レンガ倉庫と高層ビル群が広がる「みなとみらい21地区」は、横浜を象徴する光景です(写真は2022冬公共交通フォーラムでの村田横浜市課長の発表資料から)

最初に横浜市のプロフィール。横浜といえば、多くの方は高層ビルが建ち並ぶ、みなとみらい21地区やグルメスポットの横浜中華街を思い浮かべるかもしれません。確かに横浜を象徴する光景かもしれませんが、それはほんの一部。横浜市の面積は約437平方キロで、大阪市の2倍以上もあります。市内中心部は公共交通が発達していますが、外縁部には一部交通空白地帯も存在します。

横浜の鉄道をはじめ公共交通の全体像を示すのが、 交通マスタープラン「横浜都市交通計画」です。2008年にはじめて策定され、10年を経過した2018年に改定されました。プラン改定後、コロナ禍で訪日外国人観光客が大きく落ち込むなどの変化もありましたが、基本は現在も変わりません。

交通計画に興味深い資料が見つかりました。横浜市内の駅別乗降客数。2017年度データなので相鉄・JR直通線は開業前ですが、市内に複数の拠点駅・交通結節点の駅があることが分かります。それにしても、横浜にはたくさんの鉄道路線がありますね。

北側に東急田園都市線、南側にJR東海道線という基幹鉄道が走る横浜市の2017年度駅別乗降客数(画像は横浜市統計ポータルサイトより横浜市作成)

横浜駅を筆頭に数多くの拠点駅

拠点駅トップはもちろん横浜駅。JR東日本、東京急行電鉄、京浜急行電鉄、相模鉄道、横浜市交通局(市営地下鉄)、横浜高速鉄道(みなとみらい線)の6社(者)が集結します。JRは東海道線、横須賀線、京浜東北線と3線が乗り入れるので、個別にカウントすれば8線になります。

横浜駅以外では、順不同で新横浜、日吉、菊名、あざみ野、長津田、中山、桜木町、関内、戸塚、上大岡、新杉田、金沢文庫の各駅でも複数の鉄道が接続します。余談ですが、大船駅は横浜市と鎌倉市の境界線上にあり、JR駅はカウントされますが、湘南モノレール大船駅は鎌倉市なので、接続駅に含めなかったそう。また、新しく開業した羽沢横浜国大駅では、相鉄とJR東海道線(貨物線)が接続(相互直通運転)します。

10人に4人弱は鉄道を利用

ところで、横浜ではどれくらいの人が鉄道を利用するのか。2月のフォーラムで講師を務めた、横浜市都市整備局都市交通課の村田功課長の資料にデータが見つかりました。2018年調査で、鉄道・地下鉄は37.3%のシェア。徒歩27.3%、自動車(マイカー)20.2%、自転車7.2%、路線バス5.8%、二輪車(バイク)2.2%が続きます。鉄道・地下鉄のシェアは1988年には26.3%でしたから、最近30年間で10ポイント以上もアップした計算。鉄道ネットワークの充実ぶりを物語ります。

駅を核にさまざまなモビリティで地域社会を維持する横浜市の地域交通=イメージ=(画像は横浜市都市整備局資料から)

村田課長の資料には、鉄道会社別シェアもありました(2017年度1日乗車人員)。トップはJRの157万人で、以下東急の81万人、市営地下鉄の68万人、京急の50万人、相鉄の47万人など。JRはJR東日本がほとんどですが、一部JR東海の東海道新幹線新横浜駅の利用客が含まれます。

相鉄・東急直通線で関西方面などへのアクセス改善

横浜の街の変化。2015年に全体の23%だった65歳以上の高齢者は2030年には4ポイント増加して27%になり、なかでも75歳以上は16%を占めます。公共交通は一進一退といった状況で、市バス利用客は減少傾向が続くものの、1日80万人前後の乗客があります。

横浜市は、①市民生活の質向上につながる、②都市の成長を支え魅力を高める、③持続可能で安全安心な都市づくりに貢献する――を3本柱に、鉄道ネットワークの整備促進や輸送力増強に努めます。鉄道新線は、神奈川東部方面線と横浜市高速鉄道3号線(横浜市営地下鉄ブルーライン)で、横浜市西部方面や神奈川県央部から横浜都心部や東京方面へのアクセスを改善します。

あらためて紹介するまでもないでしょうが、神奈川東部方面線は相鉄・JR直通線と相鉄・東急直通線の事業名。相鉄・東急直通線は、開業時には相鉄新横浜線と東急新横浜線を名乗ります。新横浜からは東海道新幹線に接続、関西方面などへのアクセスが大幅に改善されます。

ブルーラインは横浜市域を越えて川崎へ

横浜市営地下鉄ブルーラインは湘南台―あざみ野間を結ぶ40.4キロの路線です。写真は1999年にデビューした3000N形電車(写真:Yuji Shibasaki / PIXTA)

地下鉄ブルーラインは、現在の終点で東急田園都市線と接続するあざみ野から小田急新百合ヶ丘付近までの約6.5キロを延伸します。目的は「鉄道ネットワークの充実による広域移動性の向上と、新駅周辺の街づくりによる沿線エリアの活力向上」。

2019年に横浜市は事業化(地下鉄新線の建設)を判断し、2020年1月に概略のルートや駅位置が公表されました。新線区間は地下トンネルを基本に、あざみ野を除き新駅4駅を整備します。

延伸ルートは、横浜市営地下鉄が川崎市に伸びる話題もあります。横浜、川崎の両市は、延伸に関して相互に連携・協力していくことを柱とする覚書を交わしています。

整備効果では、新百合ヶ丘~あざみ野間が約10分(現在は路線バスで約30分)、新百合ヶ丘―新横浜間が約27分(同じくJR横浜線経由で約35分)に短縮されます。開業は2030年目標。横浜東部方面線や地下鉄ブルーライン延伸線は、人口減少に向かう首都圏では数少ない鉄道の建設計画です。

品川駅利用客は増加、横浜駅利用客は減少

ラストは2022冬公共交通フォーラムで講師を務めた、京急鉄道本部建設部の竹内明男担当部長の発表を要約します。

タイトルは「コロナ禍による影響の現状と感染防止対応、今後に向けた取り組み」。京急沿線は、人口の東京都心回帰の影響を受けます。2016~2020年の5年間では「横浜市金沢区の人口20万人割れ」、「横須賀市の人口40万人割れ」といったトピックスがありました。

京急は東京(品川)、川崎、横浜、横須賀の4都市をつなぎます。横浜市はビジネス都市という性格も持ちますが、やはり人口は東京都心に集中。1991~2019年の29年間の京急の駅別利用客数の変化をみると、横浜駅が3万人減ったのに対し、品川駅は6万人増えています。とはいえ2019年度駅別利用客数は、横浜32万人、品川28万人で、横浜が4万人上回ります。

ダイヤ適正化や駅のリモート化でコロナ禍に対応

そんな京急にも、コロナ禍は容赦なく襲いかかります。2020年度の輸送人員は3億3400万人で前年度比1億4800万人減(31%減)、旅客収入は519億円で285億円減(35%減)でした。

リモートワークの普及で今後も輸送需要の回復には厳しいものがありますが、京急は多くの首都圏鉄道と同じく終電の繰り上げをはじめとするダイヤの適正化とともに、駅のリモート化(遠隔サービス化)で人件費を削減。工事先送りなどで、償却費も抑制します。

モニターホン(写真右端の青いボックス)で利用客とのコミュニケーションを確保した上で無人化された京急の駅リモート化=イメージ=(写真は2022冬公共交通フォーラムでの竹内京急担当部長の発表資料から)

1872年に日本初の鉄道が開通した横浜は、2022年が鉄道150周年の節目。これからもフレッシュな話題を発信し続けてほしいと思いながら本コラムを終えます。

記事:上里夏生

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