倉敷美観地区のそばにある、国の重要文化財に指定されている町屋建築「大橋家住宅」を知っていますか?
大橋家住宅は、倉敷町屋の典型が見られる格式高い邸宅です。しかし、魅力はそれだけではありません。
時間を忘れくつろいで過ごすことのできる、心地よい空間なんです。
雨の日に露に濡れた庭を眺めたり、暑い時期に風が通る館内で涼んだり。歩きまわって少しゆっくりしたいときに立ち寄るのもおすすめです。
大橋家住宅について、まずはその概要と歴史について説明し、そのあと素敵な空間や見どころについて紹介します。
大橋家住宅について
大橋家住宅は、倉敷市阿知にある町屋建築です。
江戸時代の後期の大地主である大橋家の邸宅で、1978年に主屋・長屋門・米蔵・内倉の4棟が国の重要文化財に指定されました。
大橋家とは
大橋家の先祖は豊臣氏に使えた武士で、江戸時代のはじめに備中(現倉敷市)に移り住んだそうです。
水田・塩田を開発して大地主となり、金融業も営んで大きな財を成しました。
天保の飢饉(てんぽうのききん)の際には金千両(現在の物価に換算すると約1億円)を献上したり、香川県の直島に東京ドーム約3個分の塩田を開発したりと、地域に大きく貢献しています。
江戸時代後期、大橋家は大原家とともに「新禄」と呼ばれる新興勢力を形成していました。
大橋家住宅の建物の歴史と特徴
大橋家住宅は1796年~1799年にかけて主要部分が建築され、1850年ごろまでの間に2度増築をしています。
1978年に国の重要文化財の指定を受けたのち、1991年~1994年に建物の保存修理工事を行い、最も屋敷構えが整っていた1851年の姿に復元されました。
主要な出入り口が長屋を貫くように作られていて、この構造は「長屋門」と呼ばれます。
「長屋門」は、当時通常の町屋には許されていない構造でした。大橋家が、代官所から特別に許可をもらえるほど格の高い存在だったことがわかりますね。
また、「倉敷窓」「倉敷格子」「なまこ壁」といった倉敷独特の建築方式が見られます。
例えば「倉敷格子」は、上部は採光と換気に優れ、下部は外からは見えにくく中からは見えやすくするための構造です。快適に暮らすための「用の美」が感じられます。
主屋とつながっているのが珍しい「内蔵」は、当時は貴重品を置いていたそうです。
大橋家住宅の見どころ
大橋家住宅は、文化的価値が高いだけではありません。魅力的なポイントがたくさんあります。
風格ある建築
大橋家住宅は、通りに主屋が直接面していません。長屋門を抜け、庭を通って主屋に向かいます。庭から見る主屋が、かっこいい! 派手な装飾などがなくても、威厳を感じます。
部屋数は、現在公開されている部屋だけでも14部屋。広々としていますよ。
中にいくつか庭があり、それぞれが美しく、部屋にいるときも開放感があります。
部屋や庭でのんびりできる
大橋家住宅では、建物を眺めるだけでなく、部屋にあがったり庭を歩いたりすることができます。
広く清潔で自然光が差し込む空間は、とても気持ちがいいんです!
大橋家住宅の中は、車の音があまり聞こえず、通りの喧騒が気になりません。そのため、ゆっくり過ごすことができるんです。
あまりの心地よさに、寝転がって過ごすお客様もいるんだとか。
生活の気配を感じる空間
大橋家住宅には、生活の気配が漂っています。
たとえば書斎では本や硯が置いてあり、さっきまで誰かが文字を書いていたかのようです。
床の間などには、お花が飾ってあります。この花々は、スタッフの方々が飾っているとのこと。しかも、お花屋さんで買ってきたものではなく、庭や山に咲いていたお花などを、自己流で生けているそうなんです。
さりげなく、優しく、美しい。そんなお花はお客様からも好評だそうです。
昔の人たちも、こんなお花を飾っていたのかなあと、想像が膨らみますね。
夏は窓からの風と風鈴の音が涼やかだなあとか、冬はひなたがあたたかいなあとか、そんなふうに自然を感じながら過ごすと、自分がこの家で暮らしているかのような気分になれます。
大橋家住宅をもっと楽しもう
大橋家住宅をもっと楽しむ技を紹介します。
スタッフに案内してもらおう
館内を見ていると、「これって何に使うものだったのだろう?」などと疑問が湧くかもしれません。
そんなときは入口でスタッフさんに声をかければ、建物内を案内してもらえます。
案内してもらう場合の所要時間は30分ほどで、予約は必要ありません。
「お気軽にお声がけください」と言われていましたよ。
お気に入りの写真を撮ろう
撮影禁止の場所はありません。外観も庭もお部屋も画になります。
お気に入りの場所を見つけてください。
日本刀(真剣)を持ってみよう
なんと大橋家住宅では、日本刀(真剣)を持たせてもらうことができます。
わたしも持ってみました。ずしっと重みがあるものの、鞘から刀を抜くのは思いのほかスムーズ。刀を構えてみながら、歴史上の人物や、漫画のキャラクターに思いを馳せてみました。
貴重な機会なので、スタッフさんに声をかけて体験してみてください。
後半の記事では、大橋家住宅のスタッフさん藤原道子さんと多田夏美さんに、大橋家住宅のお気に入りスポットやこだわりをインタビューしました。
取材協力
- モデル:アリス
大橋家住宅で働く、藤原道子さんと多田夏美さんにインタビュー
主任の藤原道子(ふじわら みちこ)さんと、多田夏美(ただ なつみ)さんにインタビューを行いました。
インタビューは2019年2月の初回取材時に行った内容を掲載しています。
日本家屋での暮らしを感じ、ゆっくりできる家
──大橋家住宅の良いところはどんなところですか?
藤原──
明治以前の日本家屋での暮らしを感じるところです。建築様式を見るだけじゃなく、ひとが生活しているかのような、生きた家だと思います。
お花を生けたり、食卓を再現したり、お手玉を置いたりしているので、想像を巡らせて楽しんでいただけたら。
多田──
外とは別の空間のようで、時間がゆっくり流れているように感じられて、庭を見ながらぼーっと過ごせます。
お客様から「ゆっくりできた」「落ち着きました」とおっしゃっていただけると、嬉しいですね。
──お客様からは、どういったお声が多いですか?
藤原──
「懐かしい」とおっしゃる方が多いですね。若い方には逆に、新鮮に映るようです。ふだん畳の部屋を見る機会がない方もいらっしゃるので。
多田──
たとえば家族3世代で来られたら、「昔はうちにもこんな窯があって~」といったお話が弾むかもしれません。家族の会話のきっかけになったらいいですね。なにか心に引っかかるものがあればと思います。
博物館ではいけない
──重要文化財に指定されてから今まで、どのように変わってきたのですか?
藤原──
1978年に重要文化財に指定されてからしばらくの間は、土間から部屋を覗き見るくらいのものでした。1994年に修復工事が終わり、中に入れるようになって。
でもそのころは、まだ生活の匂いはありませんでした。今のように暮らしを感じるようになったのは、九代目当主が着任してからです。
多田──
当主は「博物館ではいけない」「見てもらって、使ってもらってこそ価値がある」とよく言っています。
──素敵です。使うといえば、いろいろなイベントも行われていますよね。
藤原──
キャンドルをたくさん灯したこともあります。高梁川マルシェや、倉敷ジャズストリート、インド音楽の演奏も行われました。結婚式でも使われています。
多田──
洋装のウエディングもありました。それがすごく良くて! お客様が新しい使い方を見つけてくださるのも、嬉しいです。
藤原──
「こうでなければならない」はないんですよね。当主もよく「おもしろいから、やってみたら?」と言っています。
──素晴らしいですね。キャンドルとガラスの展示はわたしも行きました。文化財の中で火を灯すのは、なかなかできないことですよね。
藤原──
あのときはお客様から驚かれましたね。好評でしたよ。
平成30年7月豪雨の影響と、文化財の保存について
──平成30年7月豪雨では、土塀が崩れたと聞きました。
藤原──
まずは何よりも、土塀の崩れによる人的被害がなくて良かったです。
今月(2019年2月)から修復工事が始まります。昔と気象が異なるので、元の構造のままでは現在は通用しないこともあるんですよね。古い形のまま残す大変さを感じています。
──保存するために気をつけていることはありますか?
多田──
ふだんから、細かいところをよく見ておくことでしょうか。ひび割れなど、変化に気づけるようにしなくてはと考えています。
お気に入りの場所
──最後に、おふたりのお気に入りの場所を教えてください。
(おふたりとも悩みながら)
藤原──
特に書斎が好きです。また、新座敷や煙抜けの窓から差し込む光もきれいだなあと思います。
多田──
お庭から、下の間・小座敷・庭・書斎と全体が見えるんですよ。このアングルが好きです。Instagramでも、いいなと思うところを伝えています。
インタビューを終えて
お話の端々から、「どうしたら喜んでもらえるか」「どんなおもてなしができるか」と心から考えて、実践されていることが伝わってきました。
そのおもてなしの気持ちが、心地よさの秘訣なのでしょう。
わたしは、これまで何度も大橋家住宅を訪れていますが、毎回「素敵だなあ、心地いいなあ」と感じています。リピーターさんが多いというのも頷けます。
生活の香りがある国指定重要文化財、大橋家住宅。ぜひ足を運んでみてください。