年金の申請漏れで420万円の損!忘れがちな「加給年金」を知って正しく申請を、繰下げや手続き間違いに要注意

「年金の繰り下げが得」と聞くことも多くなりました。あまりわからないまま、年金を繰下げ受給したら、とんでもない失敗をしてしまった……ということもあります。今回は「加給年金」について、解説します。


何となく年金繰り下げで大失敗

実際に、こんな話がありました。

相談者:「年金を繰り下げると得になると言う話を聞いたので、いま年金を繰り下げているんですよ」
筆者:「なるほど、それはいいですね」
相談者:「12歳年下の妻がいて、全部繰り下げると厳しいので、年金額の多い方だけを繰り下げています」
筆者:「えっ?それって、老齢基礎年金ですが?老齢厚生年金ですか?」
相談者:「もちろん、厚生年金の方ですよ」
筆者:「えっっ!! それって逆ですよ!」
相談者:「えっ?そうなのですか?」
筆者:「じゃあ、加給年金を受け取っていないのですか?」
相談者:「加給年金ってなんでしたっけ?」
筆者:「それだと、400万円以上も損をしますよ!」
相談者:「……そうなのですか?」

加給年金の申請をしていなくて損をしている人は意外と多いです。年下の妻がいる場合には、とくに注意してください。

年間約39万円受け取れる「加給年金」

まず「加給年金」は、何かというと

厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が、65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、その方に生計を維持されている下記の配偶者または子がいるときに加算されます。
65歳到達後(または定額部分支給開始年齢に到達した後)、被保険者期間が20年以上となった場合は、退職改定時(または70歳到達時)に生計を維持されている下記の配偶者または子がいるときに加算されます。
※日本年金機構を参照

ざっくりというと、厚生年金の家族手当てのようなものです。「加給年金」をもらえる人は、

・本人が厚生年金に20年以上加入している
・65歳未満の配偶者、18歳到達年度の末日までの子どもがいる場合

子どもが18歳未満の人、再婚で年の離れた連れ子(養子縁組が条件)がいるなどの場合もそうです。妻の場合は、事実婚も対象になります。妻が65歳になるまでもらえるので、年齢差が大きければ大きいほど有利になります。

ちなみに妻の年収が850万円未満という条件があります。ただし妻が数年以内に退職をして年収が850円以下に減ってしまうのが確実という場合には、例外的に加給年金を受け取ることができます。勤務先より年収が落ちるという書類を揃えて、年金事務所に提出することで、受けられる可能性があります。

加給年金の金額は22万4,900円に特別加算の16万6,000円が付くので、合計約39万円になります(特別加算の金額は夫の年齢によって異なる)。

相談者の例では12歳年下の妻がいるので、12年間受け取ることができます。総額約469万円になります。かなり大きな金額です。この申請を出さないと、知らずに大きな損をしてしまいます。

「加給年金」が終わると「振替加算」に変わる

では、相談者の場合、なぜ申請漏れになったのでしょうか。

夫が特別支給の老齢厚生年金の申請の時には、まだ内縁関係にあり、その1年後に入籍をしたということです。そのため申請時には、関係のない項目と思ってしまったのでしょう。

この加給年金の申請漏れというのは、意外と多いのです。

また、「ねんきん定期便」には、この加給年金の記載はありませんので知らない人も多いのです。

加給年金は、夫の年金に上乗せされて支給されるのですが、妻が65歳になると、今度は振替加算が受け取れます。この振替加算というのは妻の年金に上乗せされます。

振替加算の金額は、妻の年齢により異なりますが、若い人は年約1万5,000円です。1966年4月以降に生まれた人はありません。こちらは金額は少ないのですが、受け取ることができるので、しっかり手続きをしてください。

手続きを忘れて返還請求されないように注意を

加給年金の年間約39万円の額は、夫婦で何度か温泉旅行に行けるくらいの金額ですが、もらいすぎに注意をしてください。後で返還となるとショックが大きいです。

なぜこういうことが起こるかというと、配偶者が65歳になるまで受け取れるのが、加給年金ですが、厚生年金に20年以上加入している場合、65歳未満の特別支給の厚生年金を受け取り始めると停止になります。このときに受給停止の手続きを忘れると過払いになってしまいます。こういった過払いというのは、年に数件起こっているそうです。

基礎年金だけ繰下げ受給をすると「加給年金」は受け取れる

大変重要なことは、夫が繰下げ受給をすると加給年金も停止になります。加給年金は繰下げ受給ができないので、そのまま消えてしまうのです。

しかし加給年金に関係するのは、厚生年金だけです。基礎年金は関係ありませんから、基礎年金だけを繰下げて厚生年金を65歳で受け取ると加給年金も受け取ることができます。

相談者の例では、厚生年金を繰り下げて基礎年金を受け取っています。これでは丸損です。しかし一度年金を受け取ってしまうと変更ができません。この場合は、厚生年金を65歳からの分を一括で受け取ることにすると、加給年金も合わせて受け取ることができます。年金の時効は5年なので、5年以内なら大丈夫です。

年齢差が少ない場合は、年金の繰下げ受給が得になる場合も

では、「加給年金を受け取る人は基礎年金を繰り下げて、厚生年金は繰り下げないのがもっともいい方法になるのか?」というと、一概に正解とは言えません。

配偶者が12歳とか15歳などの年齢差があるときには、加給年金を受け取った方が得になることが多いです。しかし、年齢差が1〜5歳などの場合は、基礎年金、厚生年金の両方を繰り下げた方が得になることもあります。

加給年金の金額は約39万円ですが、厚生年金の受取額によって繰下げ受給をした方が総額が多くなることがあるからです。年金受給額が180万円の場合、基礎年金と厚生年金の両方を繰下げ受給をすると81歳から得になります。

これは年齢差、厚生年金の受給額によって異なりますので、気になる人は計算をしてみてください。

年金の請求の手続きというのはかなり面倒で、筆者も面倒だと思ってしまう内容です。しかし請求漏れをしてしまうと大きな損につながります。しっかり間違えないように請求してください!

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