リカレント教育県内でも 働きながら知識、技術習得

「『自分ごと』を起点にした地方創生SDGs」をテーマに研究を続ける瀧伸一さん(写真左)と自動車学校の農業参入について分析した梅田裕樹さん(同右)

 人生100年時代といわれる中、仕事をしながら専門的な知識や技術を身に付けるリカレント教育が県内でも徐々に広がりつつある。一部企業では資格取得にかかった費用を補助。大学では社会人枠の拡大や学び直しの講座を強化する動きが出てきた。

宮大・社会人が多数在籍

 社会人27年目で大学院修士課程に進んだのは宮崎市の瀧伸一さん(51)。宮崎大地域資源創成学研究科の2期生として昨年4月から研究を続けている。

 大手保険会社の代理店運営と、SDGs(持続可能な開発目標)専門のファシリテーター(進行役)という二つの仕事に従事。SDGsのカードゲームで理解を深めた地域資源の有効性を、現実社会で実証したいと思ったのが入学のきっかけだ。コロナ禍で広がったリモート講座も背中を押した。選んだテーマは「『自分ごと』を起点にした地方創生SDGs」。

 働きながらの研究は時間との勝負。出社を1~2時間早め、毎日3時間は机に向かう。週末は朝9時から夕方5時までみっちり講義。両立は「思っていた以上に大変」だが、異なるバックグラウンドを持つ院生との議論は刺激的だという。

 娘と同世代の学生と向き合うことで、SDGsの根底にある「フラットな関係性」の広がりにも気付かされた。残る1年は自治体や企業関係者らにインタビューを重ねていく。「マーケットの声を聞いて地域課題を見つけ出し、顧客に新たな価値を提供できる伴走型のサービスが生み出せれば」。論文執筆はこれからだが、事業領域を増やしたいという目標への手応えは十分だ。

 宮崎梅田学園(宮崎市)副社長の梅田裕樹さん(46)は同研究科1期生として今月の修了を待つばかり。論文にまとめたのは自動車学校の農業参入に関する分析だ。

 新事業として棚田での稲作と千切り大根の生産を始めたのは2019年。背景には、少子化で自動車学校の入学生が減少を免れないことに加え、閑散期の教官らの余力を活用したいという狙いがあった。

 参入1年後にコロナが拡大。販路開拓や収量アップへの課題が見えてきたタイミングも重なり、出張自粛などで生まれた時間が生かせると大学の門をくぐった。2年間を振り返り「学ぶ楽しさを知った」と晴れやかな表情。中でも最大の成果は自身の仕事を客観視できたことだという。

 「会社にいるだけでは進めている事業が正しいか判断できなかった。経営を見直す場にもなった」。研究意欲はさらに高まり、4月からは早稲田大大学院社会科学研究科へ。博士号取得という次の目標に向けて歩き出す。

 2人が所属する地域資源創成学研究科(定員5人)は20年4月に開設。1期生7人のうち6人、2期生6人のうち3人を社会人が占める。「社会課題を地域で解決する時代。九州でもリカレントに対応した大学院は増えており、本県でもニーズがあるという読みは的中した」と話すのは、研究科開設に尽力した根岸裕孝副学部長。

 文理融合の修士課程は県内初といい、学部を横断してカリキュラムを組める「モジュール方式」も特長だ。5歳の娘を持つ2期生の40代女性は「夫の協力に加え、(週末も預かってくれる)保育園さまさまだった」と多忙な日々を振り返る一方、「関心のあった農学部の授業も受講できた。仮設を立て実験・検証するサイエンス論文に触れることができて新鮮だった」と話す。

 桑野斉学部長は「社会人が問題提起してくれることで、多様なニーズに対応した環境づくりにもつながる」と意義を語る。4月からは3期生として社会人5人が入学する見込みだ。

公立大・接客英語講座を開催

 社会人向けの講座も見られるようになった。宮崎公立大は昨年9~12月、初のリカレント教育プログラムを開催。ホテル従業員を対象とした接客英語講座で、宮崎市内で働く6人が英会話や異文化理解など全10回(1回90分)を受講した。

 参加したホテルJALシティ宮崎(宮崎市)の小林久子さんは「表現の微妙なニュアンスの違いなど、日頃の接客業務で疑問に感じていたことが解消できた。講義で学んだことをほかのスタッフと共有したい」と成果を語る。

 費用は全額会社が負担しており、業務グループの酒井正人統括マネージャーは「今回は英語教育を担当する社員に参加してもらった。これを機にリカレント教育に力を入れたい」と話している。

フ社・資格取得の費用補助

 社員の資格取得を積極支援するのはフェニックスリゾート(宮崎市、片桐孝一社長)。毎年、担当課が交渉して予算を確保するシステムで、業務遂行に必要な資格取得にかかる費用を補助している。

 昨年は初の試みとして料飲部の延べ43人がワイン検定(ブロンズ、シルバー)を受検し、全員が合格。技能五輪全国大会でも上位入賞者を出しているほか、親会社のセガサミーの「セガサミーカレッジ」で社会人として求められる能力を向上することもできる。

 人財開発部育成課の田中千鶴課長は「資格取得がサービス力の向上に貢献しているのはもちろん、本人の自信や職場のモチベーションアップ、売上増にもつながっている」と評価。「将来的には大学院でのリスキリング(学び直し)など個人の成長につながる資格も後押しできれば」と展望を語る。

リカレント教育

 義務教育や高等教育を終えた社会人が、新たなスキルを身に付けるために学び直すこと。リカレント(recurrent)は「回帰性の」「循環する」を意味する。自らキャリアを中断して大学に入り直したり、オンライン講座を受講したりして専門知識や技術を身に付ける人が多い。

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