障害者を1日23時間閉じ込め、「安全のため」は本当か? 外から鍵掛けた部屋に、常態化する施設も

埼玉県嵐山町にある県立「嵐山郷」で強度の行動障害のある人が入所している居室。奥の棚にはテレビが壊されないよう入れてある=2021年11月

 「一番長時間、居室施錠を行った方 23時間15分」。メールの文面に言葉を失った。都道府県にある公立の知的障害者入所施設を対象に、共同通信が実施した身体拘束に関する調査への回答だ。知的障害と自閉症で激しい行動障害がある人たちをほぼ終日、外側から鍵を掛けた部屋に閉じ込める。「安全のため、やむを得ない」。施設側は口をそろえるが、本当にそうなのだろうか。(共同通信=市川亨)

 ▽15年間続いているケースも

 調査のきっかけは、神奈川県の県立「中井やまゆり園」で一部の入所者を1日20時間以上、施錠した部屋に閉じ込めているという実態が昨年、複数の職員の証言で判明したことだ。2016年に殺傷事件があった相模原市の県立「津久井やまゆり園」でも同様に長時間の居室施錠が行われていたことが分かっている。

 「ほかにも同じような県立施設があるはず」。取材でそんな話を聞き、半信半疑で始めた調査だった。都道府県立や、外郭団体である福祉関係の事業団が運営する知的障害者の入所施設を対象に、主に昨年10~12月の身体拘束の状況を取材や情報公開請求で調べた。

 その結果、埼玉、新潟、広島、兵庫4県の県立や事業団運営の施設でも長時間の居室施錠が常態化していることが分かった。

 埼玉県社会福祉事業団が運営する県立「嵐山郷」(嵐山町)では、約320人の入所者のうち、自閉症で強度の行動障害などがある11人が1日約20時間、居室を施錠されていた。年数が最も長い人では約15年間続いている。このほか1日約10~19時間施錠も約30人いる。

 新潟では県直営の「コロニーにいがた白岩の里」(長岡市)で、約130人の入所者のうち1日20時間以上の施錠が4人。うち2人は10年以上続いている。居室施錠の対象は全体では28人おり、平均で約10時間。

 広島では、県福祉事業団が運営する県立「松陽寮」(東広島市)で約2年前から1人がほぼ終日施錠。昨年11月は1カ月のうち約10日間、24時間施錠されていた。

 ▽全面非開示

 調査は決して順調だったわけではない。兵庫県社会福祉事業団は取材に対し「1日20時間以上の施錠はない」と、詳しい説明を拒否。情報公開請求しても「事業の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがある」として、全面非開示とした。不服申し立てをした結果、ようやく概要を開示した。当初の説明とは異なり、22時間施錠が5人おり、うち2人は10年以上前からだった。

 このほか、東京都社会福祉事業団は10時間以上の施錠の例が複数あることを認めたが、詳細は明らかにしなかった。

 そんな中、現場取材を受け入れたのが埼玉県の嵐山郷だ。林野に囲まれた、東京ドーム4個分の広大な敷地に平屋建ての「寮」が並ぶ大規模施設。強度の行動障害がある人たちの男性寮に入ると、廊下を挟んで両側に約25人の個室が見える。部屋の広さは多くが5畳半ほど。時折、入所者が大きな声を出したり壁をたたいたりする音が聞こえる。

埼玉県嵐山町にある県立「嵐山郷」で強度の行動障害がある人たちが入所する建物=2021年11月

 「他の入所者の部屋に入って物を壊したり、危害を加えたりする人もいる。限られた人員数では、安全のため施錠せざるを得ない」と職員。30分ごとに見回り、出たがっていたら扉を開けるという。

 ▽触れたくない心理

 厚生労働省の基準や手引は、緊急やむを得ない場合を除き、障害者施設での身体拘束や行動制限を禁じている。居室施錠も拘束の一つに位置付けられる。拘束する場合は(1)本人や第三者の生命、身体などが危険にさらされる可能性が著しく高い「切迫性」(2)他に方法がない「非代替性」(3)「一時性」―という3要件を満たす必要がある。

 1日約20時間の施錠はこれらの要件を満たしていると言えるのか。嵐山郷の高橋潤・行動援助部長は「3要件を常に満たしているかと問われれば、そうではない場面もあると思う。改善が必要だということは十分認識している」と率直に話す。

 一方、23時間15分というケースがあった新潟県は「要件の一つである『一時性』とは、単に時間の長さではない。個別性が高く、障害の特性や他利用者への影響などで総合的に判断されるもの」と回答。各県の担当者からは「解決が難しい問題だけに触れたくない」との心理も見え隠れした。

 ▽見違えるように穏やかに

 激しい行動障害は、元々の障害の特性というわけではない。自閉症の人は独特のこだわりがあったり、感覚過敏で音や光が気になったりすることが多い。重度の知的障害を伴う場合は話ができないため、本人は意思を伝えられない。そのストレスで自傷・他害や破壊行為を繰り返す状態が「強度行動障害」と呼ばれる。

 暴れて職員や他の利用者がけがをすることもあれば、本人が施錠を希望する場合もある。だから、部屋に閉じ込めるのは仕方ない―。そんな考えに「それは違う」と言う人たちがいる。

社会福祉法人「北摂杉の子会」が運営する強度行動障害がある人向けのグループホーム=2月4日、大阪府高槻市

 大阪府高槻市郊外の住宅地。強度行動障害の人たちが家庭的な環境で暮らすグループホーム内を案内しながら、管理者の平野貴久さんは「『この地域で一番大変』と言われていた人が、ここに来たら見違えるように穏やかになった」と話した。

 このホームでは入居者の特性に合わせて、防音壁や遮光カーテンを配置。他の入居者が気になってしまう人は部屋のドアではなく、ベランダから出入りできるよう改修した。意思疎通も絵や写真などを使用。時計ではなくテレビ番組の時間に合わせて行動する人には、職員も番組表を意識して声を掛ける。

知的障害のある入居者が意思を伝えられるようグループホームの居室に置いてある絵カード=2月4日、大阪府高槻市

 外側から居室を施錠することはない。ユニット出入り口を施錠している人はいるものの、トイレには自由に行ける。日中は全員が作業所に通い、社会参加の場を持つ。

 以前、自宅で暮らしていた男性は家族への暴力や破壊行為があったが、「ここでは3年間、一度もそういったことはない」と平野さん。週末は自宅に帰り、家族と落ち着いて過ごせるようになった。何より入居者たちが笑顔を見せることが多くなったという。

グループホームの居室。ベランダから直接出入りできるようにしてある。物を壊していた人も行動が落ち着き、家具を置けるようになったという=2月4日、大阪府高槻市

 ▽支援技術高めて

 ホームを運営する社会福祉法人「北摂杉の子会」の松上利男理事長は「自傷や他害行為がなぜ起きるのか要因をきちんと分析し、本人の特性に合った環境と支援を提供すれば、ほとんどの場合は改善する」と話す。

作業所から帰ってきた男性入居者(左)を見守るグループホームの職員。居室は施錠していない=2月4日、大阪府高槻市

 「全日本自閉症支援者協会」の会長でもある松上さんは長年、強度行動障害の人の支援に取り組んできた。「外側から施錠した部屋で1日20時間も過ごさせる状態は『支援』とは言えない。虐待であり人権侵害だ」と断言。「組織のマネジメントや、支援技術を持った職員をいかに育てるかという問題であって、決して『しょうがない』ことではない。好事例を学び、組織全体で職員の専門性を高める取り組みを進めてほしい」と話した。

 ▽取材後記

 取材で出会った、かつて入所施設で働いていた女性福祉職の言葉が印象的だった。地域で暮らす強度行動障害の人たちを支える事業所に移り、「支援方法次第でこんなに変わるのかと、がくぜんとした」と言う。

 「(入所施設という)ビフォーの世界にいると、どこに問題があるのか気付けない。『利用者のためにやっていることを虐待呼ばわりするのか』と、被害者的な感情で職員は疲弊していく。アフターの世界を体験できる仕組みと、職員を精神的にサポートする態勢が必要です」

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