まるでドラマの世界!?ここまで進んだ胎児治療 国内でも実用化、門戸広げる取り組みも

母親のおなかに超音波検査装置(上)を当てながら、胎児の心臓にカテーテルを入れる手術のイメージ(日本胎児治療グループ提供)

 赤ちゃんがおなかの中にいるうちに病気を突き止め、治療までしてしまう。まるで医療ドラマの世界だが、この「胎児治療」が国内でも実際に始まっており、門戸を広げる取り組みが進んでいる。(共同通信=村川実由紀)

 ▽妊娠25週で手術

 小児や周産期の治療の“最高峰”として知られる国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)は昨年、重い先天性の心臓の病気「重症大動脈弁狭窄症」の胎児の手術を成功させた。胎児は妊娠25週で、国内で初の実施となった。早く治療することで、生まれた後の影響を少なくできる可能性がある。センターの左合治彦副院長は、国内で胎児治療の分野をリードしてきた1人。「治せる病気、治療を受けられる医療機関は限られてはいますが、それぞれ少しずつ増えてきています」と話す。

国立成育医療研究センターの左合治彦副院長(同センター提供)

 重症大動脈弁狭窄症とは、全身に血液を送る心臓の左心室と大動脈の間にある複数の弁の間隔が狭すぎて血液が流れにくくなっている病気だ。心臓に過度に負担がかかってしまい、心不全になって命に危険が及ぶ可能性がある。1万人生まれると3~4人ぐらいのまれな頻度で発症するとされる。

 手術は昨年7月に行い、母親のおなかに超音波エコー検査の機器を当てて、内部を確認しながら赤ちゃんの心臓までカテーテルを届けた。カテーテルの先端にはバルーンが付いていて、風船のように膨らませて狭かった弁の開口部を押し広げて血流を改善させた。その後赤ちゃんは無事に生まれ、経過も良好という。

 ▽さまざまな条件をクリアした親子が対象

 この手術は、欧米では1990年ごろに始まった。当初の成功率は低かったが、その後、米国ボストンの病院で成功例の報告が相次ぐようになり、少しずつ広まっていった。ただ世界全体の手術の実施件数は今でも決して多くはない。

 また、病気が分かった全ての赤ちゃんの手術などを行えるわけではない。成育医療研究センターの例でも週数や胎児の位置、病気の深刻さ、回復の見込みといったさまざまな条件をクリアした親子を対象に臨床試験として行った。

国立成育医療研究センター=東京都世田谷区

 ▽公的保険が使える治療も

 胎児治療には一般的に、手術を伴う外科的なものと薬を投与する内科的なものがある。胎児治療の存在があまり知られていないため、診断を受ける機会はまだ限られている。病気を特定するのは難しく、専門知識や技術を持つ医師も少ないのが現状だ。

 国内では、臨床研究(試験)での実施例も含め10~15種類ぐらいの病気の治療が行われてきた。治療ができる医療機関の数には幅があり、国内では一つの病院だけでしかできないものもあれば、数十もの医療機関で受けられるものもある。

 公的健康保険が使える治療も出てきた。胎児の胸にたまった水を取り除く「胸腔―羊水シャント術」や貧血の治療「胎児輸血」、双子になりきらず心臓がない体が胎内にできた場合にその血流を止める「ラジオ波焼灼術」、双子の血流をレーザーの照射で改善する「胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術」がそうだ。対象を広げようとする動きはあるが、患者の数が少なく、企業の協力がなかなか得られないといった課題もあるという。

 ▽相談窓口「胎児ホットライン」

 胎児治療を受けるにはどうしたらいいだろうか。近くのクリニックや病院などから、妊婦健診の検査の結果によって地域の周産期センターを紹介され、そこからさらに専門の医療機関を紹介されるといったケースが大半だ。妊婦の年齢を問わず赤ちゃんが生まれつき病気を持つ可能性はある。赤ちゃんの病気が見つかるのは超音波検査などが多く、妊婦の血液を調べる新出生前診断を受ければ分かるわけではない。病気が判明しても胎児治療できないことも多い。

NPO法人「親子の未来を支える会」理事長で産婦人科医の林伸彦さん(同会提供)

 検査や治療について考えるだけでパニックになったり、不安に思ったりする妊婦や家族もいる。そうした人たちに対して、情報の提供や気持ちの整理を手伝う相談窓口「胎児ホットライン」をNPO法人「親子の未来を支える会」が設けている。専用のフォームから相談や選択肢を知るための資料が請求できる。

林伸彦さん(NPO法人「親子の未来を支える会」提供)

 同会の理事長で胎児の診療に特化したクリニックを開設した産婦人科医の林伸彦さんは「日本では治療の必要性の判断を目的とした胎児の健康状態のチェックが広く一般に実施されていない現状があります」と指摘している。「赤ちゃんの状態を妊娠中にどこまで知っておきたいか、カップルで話し合い、医療的なことについてはまずはかかりつけの産婦人科医と相談してみてほしい」

 胎児治療の関係者たちは診断や治療の機会がもっと広がり、1人でも多くの子どもが日常の中で不調を感じることなく、健康に育っていくのを祈っている。

「胎児ホットライン」のホームページはこちら

https://fetalhotline.fab-support.org

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