“腕立て王子”の愛称は「正直イヤでした」 韓国で戦う元早実・安田権守の現在地

現在は斗山ベアーズでプレーする安田権守【写真:球団提供】

2010年甲子園出場の早実・安田外野手は現在、韓国でプレー

日本から1200キロ離れた異国の地に、プロ3年目のシーズンに挑む“王子”がいる。2006年に早実・斎藤佑樹氏がハンカチで滴る汗を拭う姿から“ハンカチ王子”と呼ばれてから4年後、次なるプリンスとして注目を浴びた安田権守(やすだ・こんす)外野手。現在はKBOリーグ(韓国プロ野球)史上初の7年連続韓国シリーズ出場中である斗山ベアーズに所属している。

2010年の夏、甲子園のネクストバッターズサークルで腕立てを行う姿から“腕立て王子”の愛称でファンに愛された。当時のことを「正直嫌でしたよ(笑)。朝起きると突然『王子』になっていたんです」と、同校へ初めて夏の優勝旗を持ち帰った先輩の名前を挙げて謙遜した。

高校卒業後は早大へ進学したが、硬式野球部を1年夏に退部。その後は大学で学業に励む傍ら、クラブチームの「TOKYO METS」を経て、BCリーグの群馬、武蔵でプレー。2015年の大学卒業後は、社会人野球のカナフレックスへ入部。頭にあったのはNPB入りだった。

しかし、偶然知った一戦が転機になる。2018年に韓国代表が3大会連続優勝をしたアジア競技大会の決勝戦。当時、大阪ガスに所属していた阪神の近本光司外野手ら、アマチュア球界のトップ選手が名を並べた侍ジャパン社会人代表を、韓国代表がわずか1安打に抑え3-0で完封勝利した。

その試合を見た安田は「日本の社会人野球より韓国プロ野球の方がレベルが高い」と衝撃を受け、翌2019年にKBOリーグのトライアウトへ挑戦するため渡韓。同年8月に、3年ぶり6度目となる総合優勝を達成する斗山ベアーズからのドラフト指名を勝ち取った。プロ1年目から開幕1軍スタートを切り、2年目の2021年シーズンは86試合に出場。常勝チームの一員として活躍している。

初の開幕スタメンを目指し、オープン戦でアピール中だ【写真:球団提供】

原点に戻った野球観 プロ野球で重要視されるのは打撃力

在日僑胞3世である安田は、KBOリーグでは「アン・グォンス」の登録名でプレーしている。とはいえ、生まれも育ちも日本だ。渡韓した当時は全く韓国語が喋れず、生活環境の変化に加え、チームでのコミュニケーションにも苦労した。

「アマチュア時代は打撃よりも守備を重視」し、打撃については「アベレージタイプだった」と話すが、プロに必要な要素は本塁打や長打だったという。

かつてはヤクルトスワローズジュニアにも所属。中学生時代は通算0本塁打だったが、「ホームランを打つことへの憧れ」から、元阪急・松永浩美氏の指導の下、アベレージタイプから長打タイプの選手へ転身を遂げたことがある。

「高校時代は、ホームランを打つことにフォーカスを当てた練習をして、守備や走塁は疎かになっていました。でも大学生になるとバッティングが通用しなくなったんです。どうすればベンチ入りできるかを考えた時に、ヒットを打てる、走れる、ホームまで還ってこれることが重要だと感じ、(プレースタイルを)変えました。でも、また今は長打の重要性を感じているんです」

野球を始めた幼い頃に目指したプレースタイルへ、プロ入りを経て、約15年ぶりに“原点回帰”。「(野球)人生において難しい話」だと前置きした上で、目指すステージで求められている選手像に「いつ気が付けるかって重要だと思うんです」と話し、自身も長年目指し続けてきた“プロ野球選手”に必要な要素に「現役中に気が付けてよかったと思う」と安堵の表情を浮かべる。

今年は初の開幕スタメンを目指し、12日からのオープン戦で猛アピール中だ。球団創設40周年の節目でもある2022年シーズンに、海を越え日本まで轟く活躍を期待したい。KBOリーグは4月2日開幕予定だ。(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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