【コラム】ラスベガスとマカオのカジノ売上回復ペース 対コロナ政策の違いで明暗くっきり(WEB版)/勝部悠人

近日、2021年の米国のゲーミング売上(Gross Gaming Revenue=GGR)が急回復したという内外のニュースを目にする機会が多かった。いずれも米国ゲーミング協会(AGA)が2月15日付で発出した同協会の「コマーシャルゲーミング売上トラッカー」をベースにした2021年通期の全米ゲーミング売上報告に関するプレスリリースをソースにしていたようだ。

この資料によれば、2021年の全米のGGRは約529億ドル(約6兆1123億円)で過去最高を記録。前年比では76.7%の大幅増、コロナ前の2019年比でも21.4%増となったとのこと。

また、ラスベガス(ストリップ地区)に限ると約70.5億ドル(約8146億円)で、AGAによる地域別の統計資料「ステイト・オブ・ザ・ステイツ」掲載の数値を使って比較すると、前年比で全米平均を上回る93.1%増、2019年比では7.0%増に。

新型コロナの影響により、2020年はラスベガスのみならず、全米各地のカジノ施設が長期にわたる閉鎖を余儀なくされたが、米国ではワクチン接種の普及に伴い「ウィズコロナ」政策に舵を切っており、2021年に入ってからは訪客数の回復と1人あたり消費額の増大を追い風に売上を伸ばしたとされる。

他方、マカオ政府ゲーミング監察協調局が公表した資料によれば、2021年のマカオのカジノのGGRは前年比43.7%増の868.63億パタカ(約1兆2640億円)となるも、2019年比では約3割(70.3%減)にとどまった。底を脱したとはいえ、依然としてコロナ前水準を大きく下回る状況となっている。さらに、マカオ政府が財政予算編成の根拠とした予測値の1300億パタカ(約1兆8916億円)にも大きく及ばなかった。マカオの場合、カジノ売上に占めるインバウンド旅客の割合が極めて高いとされ、カジノ売上ベースで約97%を占めるとする研究結果が存在する。

中国(香港・マカオ含む)でもワクチン接種は進んでいるが、流行初期から現在に至るまで、「ゼロコロナ」政策を堅持している。マカオにとって影響が大きいのは、水際措置によるインバウンド旅客数の低迷が続いていることだ。平時のマカオの総インバウンド旅客数の約7割を占めるのが中国本土からの旅客となっている。マカオと中国本土との間に限っては、2020年第4四半期までに一定の条件付きで隔離検疫免除での相互往来が再開され、2021年のカジノ売上回復のきっかけとなった。しかしながら、2021年以降も中国本土の各地で再流行が散発するほか、マカオでも市中感染確認例が出現しており、水際措置の調整(一時強化)が図られることもしばしば。インバウンド旅客数の右肩上がりの回復が実現せず、カジノ売上が政府予想未達となった主要因となっている。なお、2022年についても、カジノ売上予想は前年から据え置きとされたが、達成の可否は水際措置の調整がどれほどあるか、中国本土に次ぐ2割のインバウンド旅客シェアを占める香港との隔離検疫免除での相互往来が実現するか次第。ウィズコロナ政策を採用し、かつドメスティック市場を擁するラスベガスとの大きな違いといえる。

マカオのGGRがラスベガスを上回ったのは2007年のことで、以降、マカオ市場の急成長に伴い、その差は大きく広がった。しかし、2021年の両地のGGRの差は約4500億円にまで縮まっている。2022年は始まったばかりだが、場合によってはラスベガスが世界一の座を奪回する可能性もないとはいえない。思い返せば、マカオでは昨年の今頃から新型コロナワクチン接種プログラムがスタートした。一年を経て、ワクチン接種率8割達成が見えてきた状況。さらに、今年第1四半期末までには経口治療薬も入ってくる見通しとなっている。マカオ行政長官は昨年11月中旬の2022年度施政方針演説の中で、年内の渡航制限緩和について言及しており、そのタイミングと規模に注目が集まっている。コロナ禍の長期化でインバウンド依存度の高いマカオ経済はすっかり疲弊しており、現状打破に対する期待は膨らむ一方だ。

日本版IR(統合型リゾート)を考える時、ラスベガスとマカオの状況の違いは参考になるだろう。日本はラスベガスと同じく大きなドメスティック市場が存在するが、そもそもIRは国際観光分野における競争力強化、つまりインバウンド旅客誘致の切り札のひとつ(実はマカオもこのパターン)として持ち上がった話と記憶している。訪問客に占める内外の比率はどのようなものになるのか気がかりだ。インバウンド市場は新型コロナのような感染症のみならず、国際関係の変化といった外的要因の影響を受けやすい。とはいえ、その当初目的からすれば、ドメスティックに寄せてしまうわけにもいくまい。

米国ラスベガスのイメージ=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

© 遊技日本合同会社