エースとの「心中」に見た本気の新庄采配 チームの核に据えた2011年ドラフト組

日本ハム・新庄剛志監督【写真:福谷佑介】

試合前から「9回、いや10回行ってもらいたい」上沢との“心中”を口に

■西武 4ー0 日本ハム(29日・札幌ドーム)

日本ハムは29日、札幌ドームで行われた西武との本拠地開幕戦に0-4で敗れ、開幕からの連敗が4に伸びた。1997年に開幕6連敗を喫して以来、チーム25年ぶりの屈辱。ただその中で見えたのが、新庄剛志監督のエースへの“信頼”だ。選手の可能性を引き出す「とっかえひっかえ」と、軸に据えた選手に「任せる」起用はともに、選手を信じるところから生まれている。

新庄監督は開幕前から、ソフトバンクとの開幕3連戦は「遊ぶ」と予告していた。実際に、選手に経験を与えたり、戦力を見極めるという意味合いの強い選手起用を見せた。開幕投手はドラフト8位ルーキーの北山。さらに先発ローテーション入りが有力視された伊藤をリリーフ起用し、初戦で登板した堀を第2戦に先発させた。1軍登録した投手全員をマウンドに送った。

それがこの日は試合前から、先発の上沢の交代タイミングを問われると「今日は9回、いや10回行ってもらいたい。その間に決着をつけてもらいましょう」と試合を託すと明かしていた。いよいよ本番だとでも言いたげだった。

その上沢は制球に苦しんだ。2回に山川に先制ソロを浴び、さらに1死三塁から栗山の犠飛で2点目を失った。何とかイニングを重ねたものの、ボールが浮く場面も目立った、5回、鈴木の適時打でさらに1点、8回には2死から山川のソロでさらに1点を失った。それでも8回126球を投げ切り被安打6本、4失点でマウンドを降りた。

新庄監督は「上沢君は点を取られたけど、なんか安心感があるんだよね…。(失点は)最初だけでしょ」と絶大な信頼感を口にした。8回までマウンドを任せた理由も「行くと行ってくれたので」。上沢にはこの試合での先発を、1月には伝えていたという。時代がかった物言いをすれば、心中するつもりでいたのだ。

上沢と同期の近藤をほぼ未経験の「中堅手」で起用、野手の中心に

一方で打線はつながらず、スコアボードには9個の0が並んだ。7回には1死二、三塁の好機を作りながら、近藤の一ゴロで三走のアルカンタラが本塁突入を自重、二走の清水が飛び出してしまい併殺を奪われるという、ちぐはぐなプレーもあった。それでも選手を責めることはない。前へ前へという気持ちを、最大限尊重している。

「ああいうミスが増えていくと、勝ち星にはつながらない。ただ次の塁にという気持ちはあったね。また話をして、学んでいこうと思う」

新庄監督は開幕2戦目の26日から、3試合続けて近藤を中堅手として起用している。昨季まではほぼ、経験のなかった守備位置だ。指揮官自身が現役時代に守り、重要性を知り尽くしているポジションに経験の浅い選手を置くのは、チームへの影響力を信じてのこと。上沢と近藤の2011年ドラフト同期を、チームの中心に据えようとしているように見える。

そして、若い選手の打順や守備位置を毎日のように変えるのも、また選手を信じているからこそ。未熟な選手に眠る無限の可能性を、引き出そうとしているのだ。

エースに託した試合も、白星には結びつかなかった。現役時代、壮大なパフォーマンスを敢行した試合はほぼ勝ちに結び付けていた指揮官が、誰より悔しかったはずだ。それでも「選手が懸命にやっての結果だから。まだ始まったばっかりや」と言葉は前向きだった。「結果を出せなければ2軍」と厳しさを突き付ける一方で、ビッグボスには間違いなく、選手を信じぬこうとする“情”もある。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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