【高校野球】恐れ多い「イチローバット」振りまくった強心臓 2年生ホープが最後に見せた“一矢”

監督も「成長して一緒に甲子園へ帰って来たい」と期待

“イチロー・バットを振る男”が、存在感を発揮した。第94回選抜高校野球大会は30日、阪神甲子園球場で準決勝が行われ、第2試合で国学院久我山(東京)が大阪桐蔭に4-13で敗れた。1回戦で同校史上選抜初勝利を挙げると、ベスト4まで駆け上がった快進撃。惜しくも決勝の舞台は逃したが、2年生のホープ・鈴木勇司が思わぬ形で脚光を浴びた。

2-11と大量リードされて迎えた、7回1死走者なし。鈴木勇は代打で登場し、左打席に入った。すると、ブラスバンドが奏でていた応援曲が「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」に替わった。この日が16歳の誕生日。続けて、甲子園のスタンド全体から拍手が沸き起こった。

思いがけず甲子園全体から祝福された鈴木勇だが、大阪桐蔭先発の川原の前にカウント0-2から外角低めの132キロ速球に手が出ず3球三振。だが、これで終わりではなく、そのまま一塁守備に就いた。

2-13で迎えた9回。国学院久我山は相手の2番手・別所を攻め、1死一、三塁のチャンスをつくり、鈴木勇に2度目の打席が回る。カウント0-1から内角のスライダーを振りぬき、右翼への犠飛で一矢報いた。

イチロー氏に「お腹が出ている選手は野球選手ではないですか?」

日頃から実にユニークなキャラクターだ。昨年11月末、イチロー氏(マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクター)が国学院久我山を直接指導に訪れた時だった。フリー打撃を披露した際、使用した黒い木製バットを残していった。「このバットでボールを打つのはやめてね。素振りはしていいから」との言葉とともに。

とはいえ、あまりにも恐れ多く、ナインのほとんどが“イチロー・バット”に触ることもできない中、尾崎直輝監督が許可したその日からただひとり、早速握ってブンブン振り始めた男こそ、この鈴木勇である。

しかも、練習中にイチロー氏へ個人的な質問を投げかけ、アドバイスをもらっていた。チーム最重量の95キロ(身長は173センチ)を気にしてか、“イチロー語録”から引用する形で「お腹が出ている選手は野球選手ではないですか?」と聞いた。すると、イチロー氏は「いや、僕自身はお腹が出たら引退する、と言ったんだよ」と説明。「いいんだよ、それぞれの特徴なんだから」と返答してくれたという。

鈴木勇は今大会、1回戦と準々決勝で一塁手としてスタメン出場したが、この日はベンチスタートだった。尾崎監督は「ここ数日肩に力が入った状態で、代打の打席もそうでしたが、最後の打席では彼らしい素直なスイングができていた」と説明。「彼は素晴らしいバッター。ひと回りもふた回りも成長して、この甲子園へ一緒に戻って来たい」と期待を込めた。夏にはどんな選手になっているのか、今から楽しみでならない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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