<南風>誰目線のSDGsか

 SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が急速に浸透し、あらゆる活動でこれを掲げねばならないかのようだ。だが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、SDGsの個々の目標が、相互にトレードオフの(両立しない)関係になり得ることもその報告書で指摘している。例えば暑さ対策でエアコンを使うとエネルギー消費が増えるといったことだ。

 人間が良かれと思って取り入れたことに思わぬ害悪があり、後に重大な結果を招くことは珍しくない。沖縄でハブ退治を目的に放したマングースが、強いハブを野外では相手にせず、貴重な野生生物を捕食していたことは象徴的だ。人間の想像力が浅く、マングースの視点を無視した結果だ。

 海岸線に立ち並ぶ巨大な風車。林や農地をつぶして設置される太陽光パネル。人間にとってその場所の価値が低くても、そこを利用してきた生物は必ずいる。一見何もいないように見える海にも海鳥がいる。砂漠であってもその乾いた環境を好む動植物がいる。これも一種の「トレードオフ」と言えそうだが、そこを追われる生物にとっては命懸けだ。けれどそんな生物の存在はほぼ無視される。

 あるSDGsのシンポジウムに参加した際、「2030への宣言」を個々に示すことになり、私は「モノに愛着を持って大切に使う!」と掲げた。実際、気象庁に就職してから30年以上使い続けている家電があり、車は沖縄への転勤間際の23年目、エンジン部品が経年劣化で故障するまで乗り続けた。しかし大多数の人が同様の実践をすると消費は進まず、経済発展とはトレードオフになる。何をどちら側から見るかが鍵なのだ。

 筆者は4月から北海道に転勤します。「南風」は引き続き執筆します。沖縄を、琉球を、北の大地から見ることで気付くことがあるかもしれません。

(河原恭一、沖縄気象台地球温暖化情報官)

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