加速するインフレ、ピークアウトの兆しが見えるタイミングとは

今のマーケットで最大のテーマは「インフレ」でしょう。

相場は落ち着きを取り戻しつつあるように見えますが、年初からの急落のもとをただせばインフレ懸念が根底にあります。


「異常事態」が招いたインフレ

ロシアのウクライナ侵攻による資源・農産物価格の高騰も加わって、物価上昇率がさらに上振れする見通しが強まっています。インフレを抑え込もうとFRBのスタンスもタカ派に傾斜し、金融引き締めのピッチが加速しそうです。

それでも、ウクライナ危機のような供給制約によるインフレは金融政策だけでは制御することが難しいため、FRBが景気を犠牲にしてまで強い金融引き締めを行ってもインフレは十分に収まらず、景気悪化とインフレが共存するスタグフレーションを招く、といった悲観論も多く聞かれます。

このシナリオが現実のものになる蓋然性はかなりありますが、この見通しはやや短絡的です。なぜなら左から右への一方向への進展しかとらえていないからです。すなわち、右から左へのフィードバックを考慮していないからです。一時的には景気悪化とインフレの同時進行があり得ますが、長続きせず、インフレのほうが落ち着いてくるでしょう。

例えば、FRBの金融引き締めではロシアの軍事侵攻が引き金になった原油価格の高騰を抑えることはできない、ということは事実ですが、それでも需要の一部を減退させる効果はあるので、インフレ抑制策になります。金融引き締めによって景気が弱くなれば、それによる需要の減少でインフレは和らぎます。そしてインフレ自体が実質可処分所得を減らし、消費減少を通じてモノへの需要を抑制します。

従って、FRBの金融引き締めがある程度進み、景気が冷やされてくれば、それに伴ってインフレもある程度落ち着いてくると考えるのが普通でしょう。ではどうして、そのような「普通」の考え方が今回は一般的にならないのかと言えば、「普通ではない事態」が起きているからです。「普通ではない事態」とは言うまでもなくロシアのウクライナ侵攻であり、その前から続くコロナ禍です。足元のインフレ率が歴史的な高さになった理由は、この2つの「異常事態」が重なったからです。これらはいずれも供給制約を招いてインフレを助長しています。しかし、両者とも「異常事態」であるからいずれ「常態」に戻るでしょう。

インフレ、3つの根本

まず原油価格ですが、いまの原油価格は上昇要因をほぼすべて織り込んで高値にあります。ロシアのSWIFT除外のタイミングでロシア産の原油が出回らなくなるという状況を市場は織り込んだはずです。これより強い需給要因はもう出ないでしょう。反対に需給を緩ませる材料はこの後、まだまだ出てきます。ウクライナ危機の帰趨は見えませんが、遠くない時点で停戦に及ぶと期待されます。そうなれば戦時プレミアムの剥落で原油価格などはピークアウトがはっきりするでしょう。

次にコロナ感染ですが、こちらも落ち着き始めています。それをうけて米国では労働市場の正常化が進んでいます。直近の失業率は3.8%と、2020年2月以来の水準に改善しました。非農業部門雇用者の総数は1億5,000万人の大台を回復しました。時間当たり平均賃金は31.58ドルと前年同月比では5.1%の上昇ですが、前月の前年同月比5.7%上昇から見れば伸びが鈍化しています。前月比では横ばいでした。人手不足が解消されつつある兆候でしょう。これで賃金インフレにもピークが見えたといえます。

残るインフレの根本は何かといえば住宅費です。これは米国の消費者物価指数(CPI)の最も大きなウエイトを占める部分です。実は住宅価格や家賃の上昇が問題になったのは新型コロナのパンデミックのかなり前からです。その背景は世界的なカネ余りです。早い話が金融緩和の弊害として不動産バブルが発生し、家賃上昇という経路でインフレ率を押し上げてきたのです。戦争やパンデミックがインフレを加速させていることは確かですが、それはあくまで特殊要因であって、インフレの根幹は教科書的なものなのです。そうであるなら伝統的な金融政策が機能する余地は十分にあります。


問題はいつ、どのタイミングでインフレ・ピークアウトの兆しが見えるか、です。早ければ夏ごろに見えるのではないかと思います。その場合、中間選挙を秋に控えてFRBの金融引き締めのペースが年後半は緩やかになる可能性があります。当然、株式市場の追い風になるでしょう。

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