会心のヒロイン「あやしい彼女」 多部未華子

 見た目は20歳、中身は73歳というヒロインが魅力的な「あやしい彼女」は、上出来の娯楽作品だ。主演の多部未華子が会心のコメディエンヌぶりで、歌も披露。今年の主演女優賞候補に挙がりそう。

 下町に育ち、戦時下に女手一つで娘の幸恵(小林聡美)を育てた瀬山カツ(倍賞美津子)が、ひょんなことから20歳に若返ってしまう。あこがれのオードリー・ヘプバーンをもじって大鳥節子(多部)と名を変え、髪形と服装も一新し、失われた青春を取り戻そうとする。

 容姿は若いが心はカツだから、節子は何かというと毒舌を吐き、説教する。ある日、音楽プロデューサー(要潤)が節子の天性の歌声を耳にした。彼女は、夢だった歌手の道に踏み出すが−。

 カツの孫に北村匠海、幼なじみに志賀広太郎、ライバルに久しぶりの金井克子。監督・水田伸生、脚本・吉沢智子。2014年に公開され、本欄で絶賛した韓国映画「怪しい彼女」の日本版である。

 実年齢とのギャップが生む混乱と笑い。節子の正体が、いつばれるかのスリル。リスの目のようにクルクル変わる節子の表情が愛くるしい。「見上げてごらん夜の星を」「悲しくてやりきれない」など往年のヒットナンバーを切なく歌い上げ、そこにカツが歩んだ苦難の昭和への追憶を重ねてホロリとさせる。

 が、若さは永遠には続かない。終盤、幸恵との関係を修復し、次の世代に命をつなぐために節子は重大な決断をする。笑わせ、泣かせ、後味もいい。脇では、カツに思いを寄せる純情な男を演じた志賀が光る。

 すでに中国版とベトナム版の「怪しい彼女」が公開され、タイ、インドネシア、インド、ドイツでも現地版を製作予定とか。優れた脚本は国境を超える。

 2時間5分。4月1日全国公開。

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