最終戦は格下のベトナムと引き分け 流れを変えるのが不得意な森保采配

サッカーW杯最終予選 日本―ベトナム 前半、ベトナムに先制ゴールを許し、ぼうぜんとする吉田(右)と膝をつくGK川島=埼玉スタジアム

 幼い頃、母親によく言われたものだ。「面倒なことから先にやっておきなさい」と。年長者の言うことは、おおむね正しい。

 3月24日のオーストラリア戦を前に「もし引き分けたら」とか「もし負けたら」とかいった話をしながら、その大前提にあったのは「最終戦でベトナムに勝つ」だった。もしオーストラリアと引き分けていたら3月29日のベトナム戦をどのような心境で迎えていたのか。もしオーストラリアに負けていたらサウジアラビア対オーストラリアの動向をどのような心境で追っていたのか。森保一監督が選手として味わった「ドーハの悲劇」。それを現地で目の当たりにした者としては、考えただけで不吉な予感がする。やはり、面倒なことは早めに片付けた方が残りの時間を楽しめる。

 W杯出場決定は、引き分け濃厚だったオーストラリア戦を土壇場で勝ち試合にしたことがすべてだった。後半39分に出てきて2点を奪った三笘薫の神がかり的な活躍は、今後アジア予選のたびにプレーバックされるだろう。2点ともに美しいゴールだった。その連係から見せた展開や技術。すべてがハイレベルだった。すごいなと思ったのは、シュートの場面でみせた三笘の「うそつき加減」だ。1点目、右サイドの折り返しからのシュートを打つ瞬間、体は右ポスト方向に向いていた。しかし、シュートは左ポスト方向に。右足を折りたたむようにして打ったシュートは、真横の左方向に放たれているのだ。普通に蹴ればボールは軸足のつま先が向く体の正面に飛ぶ。それを意識的に真横に蹴るわけだからGKライアンが欺かれたのも当然だろう。スポーツでは相手を欺くことは美徳だ。

 劇的な勝利で出場権を得て、安心するとともにチームの大きな成長があったのではないかと考えていた。だからこその反動だろう。今回のベトナム戦を見て、かなりがっかりした。森保ジャパンは3年以上の歳月をかけてもチームとしては大きな進歩はしていなかった。

 24日のオーストラリア戦から吉田麻也、山根視来以外の9人を入れ替えた。森保監督の考えとしても、これが本大会への新たな第一歩となるはずだった。ところが、現実は悲惨だった。確かにメンバー表に並ぶ選手の所属クラブは豪華だ。しかし、チームとしての連係の片りんも見せることはできなかった。

 アジア最終予選の序盤3試合で1勝2敗。その崖っぷちから日本は粘り強くよみがえり、6連勝で本大会の切符を手にした。だが、その内容をもう一度振り返ると、完成されたコンビネーションというのはほとんど見られなかった。得点のほとんどは右サイドの伊東純也の「独力」が頼り。もし、この「金髪の矢」がいなければ、日本のW杯連続出場は6大会で途切れていた可能性が高い。

 素晴らしいコンビネーションで奪ったとして記憶されるアウェーのオーストラリア戦の1点目。守田英正、山根、三笘で奪ったゴールの流れるような展開も、つくられたのは川崎フロンターレでのことだ。決して日本代表で築き上げられたものではないのだ。そう考えると、日本代表でつくられた攻撃面のコンビネーションというのは、残念ながら最終予選ではほとんど発揮されたことがない。選手のほとんどが海外組で時間的制限があるというハンディ。それを考慮しても、あまりにも物足りない。

 29日の試合。ファイトしたのはどちらか、となるとベトナムだった。グループBの最下位ではあるが、格上の日本から勝ち点を取ろうとするモチベーションが伝わってきた。日本はというと、無難なパスをつなぐだけ。ゴール前を固め、体を張るベトナム。そんな相手を小手先の技術だけで圧倒してしまうような力を、日本は残念だが持ち合わせていなかった。

 前半20分、6試合ぶりに日本は失点した。左CKをグエン・タン・ビンにヘディングでたたき込まれたのだ。これは普通にあるリスクだった。どんな弱いチームでも、キックやヘディングのスペシャリストは存在する。後半9分、攻め上がった吉田が原口元気のシュートをフォローして同点ゴール。キャプテンの気迫あふれるプレーは「おまえら何をしているんだ」のメッセージだったのではないか。ただ、それは攻撃陣には最後まで届かなかった。

 新型コロナウイルス感染拡大後、国内で日本代表戦が初めて収容人数の制限なく実施。4万人を超える観客が入った埼玉スタジアムで1―1の引き分け。5日前の盛り上がりに水を差す、情けない最終予選の終わり方だった。ベトナムと引き分け以下だったのは61年ぶりらしい。

 それにしても不安が残るのは森保采配だ。森保監督がA代表と五輪代表を率いた成績を見ると、悪い流れを変える采配が得意でないことが分かる。本大会ではベスト8以上を狙うという。森保監督の目標は世界の一流チームを相手に守り抜いてつかむものなのか。

 一つ気になることがある。森保監督の代表チームは、どうも最後が締まらない。決勝で敗れた2019年のアジアカップ。準決勝、3位決定戦と2度もメダル獲得のチャンスを逃した昨年の東京五輪。森保ジャパン、このままで大丈夫なのか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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