加藤拓也新作 黒木華、安達祐実、平原テツetc.出演 舞台『もはやしずか』 康二役 橋本淳 インタビュー

演劇から映像までボーダーレスに活躍し、今や若手クリエイターのトップランナーとなった、「劇団た組」主宰・加藤拓也と、数々の映像・出演舞台でその存在感を確かなものにしている俳優・橋本淳がタッグを組む舞台「もはやしずか」。
共演に黒木華、安達祐実、平原テツら実力派が揃った。解決することのできない問題の解像度を問いかけていく硬派な内容だが、この作品でメインキャラクターを演じる橋本淳さんのインタビューが実現した。

――今回の『もはやしずか』、出演にあたっての感想は?

橋本:2年前、加藤くんとはお芝居を一緒にやろうと話していて。題材も軽く聞いてはいたんですけれども、彼が扱う作品というのはもともと、誰しも目をそむけたくなったりとか、隠したいものをメインテーマに置いたりするので、そういった部分では難しいだろうなと思っていました。今回全面的に不妊治療の話だったり、子供に障がいのあるなしだとかが、大きなテーマに見えますよね。でも実はそこではなくて、誰しもが抱えているパワーバランスであったりとか、対人関係とか、意見の食い違いとかの最たるものが子供を堕胎するかしないかというのがわかりやすく提示されているので。それぞれがもつ価値観から、人生観のすれ違いが生んだ人の衝突という部分がどう映るかというのがあるので、やるのはたいへんだろうなと思っていましたし、稽古もやってみれば疲れることもありますけれど楽しいことも多い。とはいえ、彼の作品をやるとなると一筋縄ではいかないものですから、そこは覚悟をもって受けましたね。さらに、こういう作品ですから言葉って本当に難しいなと。受け取り方次第では危ないところなので、そこは丁寧に、繊細に作っていきたいです。

――もしも自分が当事者だったら、と思うと悩む内容ですよね。稽古のお話が出ましたけれど、そちらはいかがでしょうか。

橋本:そうですね、あらすじには書いていない部分も多いんです。僕が演じる康二という役のバックボーンを知ると「あ、だから康二は堕ろしたいと思っているのか」と詳らかにされていくんですけれども。彼がもつ6歳のころからのトラウマからきたものから不妊治療から堕胎への討論へとつながっていく。だいたい120分くらいの尺ですがその中で36年くらいの人生を凝縮するということへの難しさ、そこを一つひとつ丁寧に作っていまして。本当に、康二に限らず、それぞれが持っている意見って正論なんですよ。本当に答えが出ないテーマでもあるし、子供を持つ、すなわち親になるということへの怖さ、難しさがわかるんです。不妊治療を続けて疲弊していく奥さんを見ていて「本当はやめたほうがいいのでは」という、ある意味優しさから出ている言葉でもあるのに、当の本人からは「そんなことを言われるのはおかしい」と。そんな意見、すなわち相手を気遣うつもりが、そうではなく、むしろ傷つけているという言葉の応酬が多いんですよね。僕の両親を平原テツさんと安達祐実さんが演じるんですけれども、その夫婦のやり取りもどこかしら、ずれていて、ある種コントのようなんです。そうしたそれぞれの価値観を作っていっているところで。その中で演出家が「今のずれだとちょっと大きすぎるので、もうちょっと相手にわからない感じで話す」など、繊細な部分、わかりやすく白か黒か、とはちょっと違った部分、グラデーションみたいな色を探っている感じでしょうか。誰しもが白にも黒にもなるという脆さや怖さのようなものをうまく表現できればいいかなと。役者としては、自分が描く言葉の重さをどうリアリティをもたせられるかという積み上げをしていますね。

――共演の方々の印象は?

橋本:理想的なキャスティングが叶ったんですよ。黒木華さんとは僕はもう4~5回共演していますが、加藤くんと黒木さんははじめてですね。本当に黒木さんにはこんな現代演劇をやってほしかったと思っていましたし、演技の面で信頼できる人が僕の奥さん役になっていただきたかったので。今回お願いできて幸せです。しかも加藤くんの世界観にマッチしている。加藤くんのサジェスチョンを聞きながら、よりよいものをすぐに返せる対応力、柔軟性を持っている方なので。明日からラストに入っていくんですが、新しいスパイスを提示してくれるんじゃないかと期待しています。平原テツさんと安達祐実さんですが、平原さんは、劇団た組で何回もやっていますし「いて安心」というんでしょうか、本当に達者な人なので安心して身を任せています。安達さんも加藤くんとは2回め。この2人は加藤くんのいうものがすでに出来上がっているといったような、しっかり体現できている方々。お二人がいていただけるだけで安心ですし、稽古場も盛り上げてくださっていますね。藤谷理子さん、天野はなさん、上田遥さんは加藤くんの作品ははじめて。でも加藤くんはもちろん彼女たちのことを知っていて。本当に信頼できるキャストを当てがきに近いような、そんな役者が揃っています。責任をもって表現できる演者ばかりなので、毎日稽古が楽しいんです。

――ある程度「わかっている」人たちの座組という印象を受けます。

橋本:加藤くんが求める演出はとても細かったりするので。わかりやすく右を向く、とかそういう指定ではない。心の中で心理的な「右を向く」というのはあるんですけれど。「そこはもうちょっと攻撃的なセリフなんですけれども、相手にわからないように後ろから刺すみたいな感じて飛ばしてもらえますか」みたいな。そこには動機が伴っていないといけないし、役者が自立していないと彼のディレクションにはついていけない。たいへんな感じをみなさん見せずにやっているなと思うと感心します。あと、今回4月2日のマチネが一発目なんですけれども。シアタートラムの芸術監督が白井晃さんに変わって最初の作品がこれになるんです。そこで、ずっとお世話になっていた白井さんから「お前らが一発目だからよろしくね、絶対観に行く」って言ってもらえたのが個人的に幸せかな。

――それでは、最後にメッセージを。

橋本:本当にコロナっていうのものね、厳しいですよね。全員に来てくださいとは言いづらいです。そのリスクを背負えというのはおかしな話だし、チケット代も決して安いものではないですけれども。それすべて含めたとて、僕らは返せる自信があるし、その強度を持っている作品なので。このサイトをご覧になっている方はお芝居が好きな人も多いと思いますが、演劇未体験という方もいるかもしれません。そういう人が最初に観る作品としてはとても衝撃的な内容になると思うので。演劇をよく観る方、観ていない方に限らず楽しめる、どこか自分の生活の中にもひびというか、きっかけになる先品ですから(来るのは)たいへんかと思いますが、この機会を逃さずに、後悔しないように来てほしいなと思います。

――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。

あらすじ
康二と麻衣は長い期間の不妊に悩んでいる。やがて治療を経て子供を授かるが、出生前診断によって、生まれてくる子供が障がいを持っている可能性を示される。
康二は過去のとある経験から出産に反対するが、その事を知らない麻衣はその反対を押し切り出産を決意し…。

概要
タイトル:「もはやしずか」
日程・会場:2022年4月2日(土)~17日(日) シアタートラム
作・演出:加藤拓也
出演:
橋本淳 黒木華 / 藤谷理子 天野はな 上田遥 / 平原テツ 安達祐実
声の出演:松井周
主催・企画・製作:株式会社アミューズ
オフィシャルサイト:https://mohayashizuka.jp/
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし

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