春の値上げ 企業努力も苦境 生活への打撃必至

 燃油をはじめとする原材料高やロシアのウクライナ侵攻による不安定な世界経済情勢を理由に、麺やパンの原料となる小麦や冷凍食品の他、ティッシュペーパーなどにも値上げが波及している。消費者の生活への打撃は必至だ。上越地域で企業や消費者の声を聞いた。

◇国際情勢で小麦高騰

 国内需要の約9割が外国産を占める小麦は、食に関する分野へ幅広い影響を及ぼしている。価格高騰は米国、カナダ産小麦の不作や、これらの日本向け産地における品質低下、ロシアの輸出規制とウクライナ情勢などの供給懸念といった複合要因で発生。市内の製パン、製麺業などでも影響が広がっている。

世界的に影響が広がる小麦の高騰。上越市内でも製パン、製麺業で対応に追われている(上越市内のパン店で撮影)

 上越市内のあるパン店では、2日からほとんどの商品を10%前後値上げする。バターなどの油脂、包材も値上がりするため、ぎりぎりの価格設定。「パンの大きさを変えると、味のバランスが崩れる。お客さまのことを考えると、パン自体をいじることはできない」と頭を悩ます。

 別のパン店では、大手製パンメーカーに合わせて2月に値上げ。やはり10%程度の価格上昇で、「新聞やテレビで以前から報じられていたので、納得したお客さまが多かった」と言う。ただ、運送業者も輸送コストが上昇し、「いつまでこの価格で出せるか」と不安を募らせていた。

 ラーメン、パスタ、うどんなどの麺類も影響が大きい。市内のある製麺所は昨年秋、6年ぶりに価格変更。小麦に関しては収穫期の春と秋に価格変動があるため、同店では秋に8%(卸売価格)値上げした。「取引先からは、『よく今まで値上げしなかったね』と驚かれた」と言う。ただ、小麦に加え燃料代の上昇から、次の値上げが近い恐れも。「すぐに値段が変わると、さすがにいい顔をされない」と話した。

 市内の中華料理店では、ラーメンなどの麺類が昼7割、夜5割の注文を占める。他にもギョーザ、シューマイなど「値上がりしてない食材を探すのが難しい」と話す。値上げについては「食品ロスを抑えるなど対策しているが、このまま高騰が続くなら考えないといけない」と語った。

◇冷食、売価に転嫁せず

 冷凍食品はすでに家庭用、業務用ともに値上げが相次いでいる。値上げ幅は最大15%ほど。弁当などに毎日利用する消費者にとって、負担増は避けられない。

 上越地域に店舗を展開するスーパーマーケットは、約10社の冷凍食品メーカーと取引がある。担当者は「4月入荷分からメーカーは値上げをしてくるが、値上げ分を売価に転嫁せず、なるべく消費者の負担にならないように考えている」と、企業で値上げ分を吸収する方針を示した。

冷凍食品が並ぶショーケース。割引中のポップを掲げ、お得感を打ち出す(上越市内のスーパー)

 値上げの一方、コロナ禍により家庭での食事が増えたことで冷食の利便性やおいしさが見直され、需要は高まっている。店舗では4月から商品を入れ替え、内容を充実させる。直江津地区店舗の売り場担当者は「特売日を設けず、毎日、割引価格で販売している。今後もお得に提供できるよう努力していく」と話した。

 買い物中の50代男性は「単身赴任中で、弁当や日々の食事に冷食は欠かせない。また買い出しの時間は限られるので、日持ちする冷食は便利でよく購入する。さまざまなコストが上昇している現状を踏まえれば、値上がりは仕方がない」と話していた。

◇「伝統の味」にも影響

 上越、妙高の伝統料理にも値上げの影響―。うど汁やたけのこ汁に使われるサバの水煮缶なども今春、価格が引き上げられた。業界大手のマルハニチロや日本水産(ニッスイ)は、原材料費や物流費の上昇を理由に、3月から3~20%程度値上げした。

店頭に並ぶサバの水煮缶詰。山菜シーズンには強い需要がある

 汁物の具材の他、手軽な副菜として人気があるサバの水煮缶は、JAえちご上越の農産物直売所「あるるん畑」にも並んでいる。担当者によると、取引先からは6月からの値上げが既に通知されているという。

 買い物客は「サバが入っていないうど汁やたけのこ汁は想像もつかない。でも値上がりは(財布に)つらい」と話していた。

 あるるん畑によると、燃料価格の高騰でイチゴなどの価格上昇を想定していたが、今のところ農家側がコストを吸収しているという。

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