【高校野球】序盤で敗退は「大阪桐蔭として許されない」 “谷間の世代”の圧倒V導いた存在

4年ぶり4度目の選抜優勝を果たした大阪桐蔭ナイン【写真:共同通信社】

1学年上は昨夏2回戦敗退「あの先輩たちでも勝てないのか

第94回選抜高校野球大会は3月31日、阪神甲子園球場で決勝が行われ、大阪桐蔭が18-1で近江(滋賀)に大勝。選抜は4年ぶり4度目、春夏合わせると9度目の優勝を果たした。準々決勝以降は3試合連続2桁得点で力の差を見せつけたが、西谷浩一監督は「もともと練習を一生懸命やる“いいチーム”ではあったけれど、昨年に比べると技術が伴わず、決して“強いチーム”ではなかった」と評する。そんな年代はなぜ、他校を圧倒する力をつけることができたのだろうか――。

決勝でも松尾汐恩、田井志門、海老根優大、谷口勇人(いずれも3年)が次々とスタンドへ放り込み、今大会のチーム本塁打は11本。1984年にPL学園(大阪)が樹立した最多記録「8」を、38年ぶりに大幅に塗り替えた。それでも西谷監督は「本来はそんなにホームランを打てるチームではない」と言い続けている。

出発点は昨夏だった。主将を務めた現オリックスの池田陵真を中心に、当時の3年生で主力を固め、春夏連続で甲子園出場を果たしたものの、春は同校史上初の初戦敗退。夏も2回戦で、近江に逆転負けを喫した。池田から主将の座を受け継いだ星子天真(3年)は「あの先輩たちでも負けてしまうのか。それじゃあ、自分たちはもっともっと練習しなければ勝てない、と痛感しました」と振り返る。実際、現在の3年生は当初スター選手が不在。一方で、1、2回戦で敗退することは「大阪桐蔭として許されない」(西谷監督)という矜持もあった。

まず追いかけたのは、1学年上の先輩たちの背中だった。星子は「打つことも投げることも、先輩たちと差があった。それを埋めていかなくてはいけなかった。打撃に関しては振る力をつけるため、例年以上に、連続でティーを打つメニューやロングティーに取り組みました」と明かす。

そんな選手たちの姿を、西谷監督は「今の3年生は1学年上の子たちを尊敬していて、非常にいい関係。兄弟のようだった。お兄ちゃんでさえ勝てなかったのだから、弟はもっとやらなければならない、そしてお兄ちゃんの悔しさを晴らしたい、と自然に考えたのだと思います」と見つめていた。

昨秋に明治神宮大会を初制覇「過信ではなく、いい意味の自信に」

劣っていたはずの年代は昨秋に大阪府大会、近畿大会、そして各地区の王者が集う明治神宮大会を立て続けに制した。特に神宮大会優勝は、栄光に彩られた同校史上でも初の快挙だった。「歴代OBが勝てなかった明治神宮大会で勝てたことが、過信ではなく、いい意味の自信になりました。自分たちはやれるんだ、春(選抜)も優勝したいんだという気持ちが強くなり、うまくなる速度が上がりました」と西谷監督は見る。

星子は「技術的にはまだ先輩たちに及びません。でもこれでひとつ、いい報告ができます」と控えめに笑った。次に目指すのは当然、3度目の甲子園春夏連覇。しかし、大阪府は全国随一の激戦区だ。大勝続きで選抜を制した大阪桐蔭と言えども、夏に甲子園へ戻って来られる保証さえない。

「大阪というのは、そう簡単に勝てる所ではない。高校野球には、秋から春にかけての山、夏の山の2つがあります。われわれは明日にはこの山を下り、違う山を登り始めなければいけない。他のチームはもう登り始めているのですから」

西谷監督は勝って兜の緒を締め直す。それでも「我々には他のチームにはない、選抜で勉強できた事がある。自分たちに足りない物は何か、まずは子どもたちと話し合ってみたいと思います」と“アドバンテージ”も感じている。地道に実力をつけてきたこの年代なら、夏までにもっと“強いチーム”へ変貌を遂げているに違いない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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