日本ハム変える「選手の目立ちたがり化」 新庄監督の初勝利に見えた“イズム浸透”

日本ハム・新庄剛志監督【写真:羽鳥慶太】

初勝利の感慨問われても淡々…本当にうれしかったことは別にある

■日本ハム 6ー2 西武(31日・札幌ドーム)

【実際の様子】ウイニングボールを手に万感の表情を浮かべる新庄ビッグボス

新庄剛志監督率いる日本ハムは31日、札幌ドームの西武戦に6-2で快勝し開幕からの連敗を5で止めた。指揮官として、初めて受け取るウイニングボール。ただその感慨を問われても「いや全然」とそっけない。本当の喜びは別のところにあった。選手が“自己主張”を始め、結果を残したことにほくそ笑んでいるのだ。

「ベンチ裏はリーグ優勝したみたいな騒ぎだったよ。『ワーッ』てね」。初勝利後の様子を語る口調は淡々と、そっけなく聞こえるほどだった。感慨を問われても「いや全然。もっとドラマが欲しかったくらい」。待ちに待った1勝の意味は、別のところにあった。

先発マウンドに送った立野は、昨季終盤に2勝を挙げ飛躍のきっかけをつかんだ右腕だ登板前日の取材で、開幕からチームがなかなか勝てないことに「監督が叩かれないように明日は投げます。(新聞の)1面に載せてください」と“ヒーロー奪取”を宣言していた。新庄監督が「遊びます」と言ってのけた開幕カードを3連敗し、評論家などからの風当たりが強くなっていることを知っての発言だった。

新庄監督は、これを選手が成長しているシグナルと捉えている。「ああいう気持ちを持ってくれる選手が、少しずつ増えてきている。俺が監督になって目立ってなかったら、この発言もないと思うしね。自分にプレッシャーをかけているわけですよ。中々口に出せるもんじゃない。嬉しかったですよ」。自分はこういうプレーをします。こういう選手になりますと口になることで、結果に対する責任が生ずる。現役時代の指揮官が、まさにそうだったからだ。

「俺もそうなんだけど、言葉にしてプレッシャーをかける。言ったことに対してはボロクソ言われますけど、成功した時に、そのさらに上を行こうという気持ちでいつもやっていたので」

やりたいことを口に出し結果に…新庄イズムが広がれば強くなる

指揮官が現役時代に仕掛けた“新庄劇場”と呼ばれるパフォーマンスも、その「プレッシャー」をかける道具だった。2004年9月20日、プロ野球史上初のストライキが明け、外野陣が揃ってゴレンジャーのマスクを被ってシートノックを受けた日もそうだ。新庄監督は9回2死満塁、幻の満塁サヨナラ弾(走者追い越しにより記録は決勝単打)を放ちチームを勝利に導いた。2006年6月6日、札幌ドームで地上50メートルから宙づりになった日も、チームは勝利した。人と違うことを言ったり、やるからには、本業でも結果を残そうよというのが新庄イズム。その気配が今の選手から出てきたことを、本当にうれしそうに語る。

この日の立野は序盤、ボールが先行する苦しい投球を続けながらも、何とか無失点でイニングを重ねていった。「(1面に載りたいと)言ったことで、必ずマウンドで力む」という指揮官の予言通り、球数がかさんだ。まさに必死の思いで結果を出していった。「上手くいかなかったら悔しいと思って、地味な練習をどんどん、またしだすだろうし」と新庄監督。成長過程にあるチームは、失敗もまた財産となる。

開幕カードでは3試合でのべ17人の投手が登板、その後もスタメンは毎日目まぐるしく変わり、選手の可能性を見極める起用が続く。ただ、この采配がいつまでも続くわけではない。指揮官の言葉によれば、2か月という明確な期限がある。

「どんどん使って、見極めて、固めていく。2か月くらいたって、ちょっとずつ固まってきてくれたら最高かな。6、7、8、9月は、来年へ向けてめちゃくちゃ大事な4か月になってくる。この場所で終わるチームじゃないし、選手が一番分かってますよ」

自己主張を始めたのは立野だけではない。選手は何気ない場面でも嬉しさ、悔しさを全面に出した。この日の試合でも、2本の適時打を放った松本が塁上で派手なガッツポーズを見せた。「松本君はあんなにガッツポーズするの?」と報道陣に問いかけた指揮官は、おとなしい選手だったと知るとこう続けた。「見ていて気持ちいい。感情を表に出すのはね」。淡々とした口調の裏に、確かな手ごたえがある。2か月後“ビッグボス化”を果たした選手が、定位置獲りへの挑戦権を得ているはずだ。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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