「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」で見えてきたこと(4)経済 賃金の男女格差が小さい地域に潜む「男性も稼げていない」という実態

 3月8日の国際女性デーに合わせ、上智大の三浦まり教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が試算し、公表した「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」。世界各国の男女間格差を測る“本家”のジェンダー・ギャップ指数と同様の手法で統計処理したもので、「政治」「行政」「教育」「経済」という四つの分野ごとに、各都道府県での格差の現状を可視化した。経済分野の分析から詳しく見えてきたものとは。(共同通信=城和佳子、東本由紀子)

(都道府県版ジェンダー・ギャップ指数のサイトはこちら)

 https://digital.kyodonews.jp/gender2022/

 ▽指数の大きさだけで単純に評価できない

 経済分野で測ったのは「女性が経済的に自立できる環境があるか」という点だ。女性が経済力をつけることは、人生の選択肢を増やし、家庭内暴力や貧困から抜け出す道につながる。

 

 一方、賃金格差を都道府県ごとに並べると、地域別最低賃金や所得が低い県ほど格差が小さいという傾向がみられた。男女が同等に稼げていても、地域によっては男性の賃金が抑えられていることが要因となっている可能性がある。このため、指数の値が大きいだけで「良かった」と単純には言えない。地域格差と男女格差の両方を解決する必要がありそうだ。

 ▽1位の沖縄「男女とも離職率が高い」

 経済分野の分析で、男女格差が最も小さかったのは沖縄県だ。非正規労働など「フルタイム以外の仕事に従事する男女間の賃金格差」と「社長数の男女比」の項目で差が最も小さかった。

 この結果には沖縄特有の産業構造が影響していると、沖縄国際大の名嘉座元一元教授(労働経済学)は分析する。沖縄の基幹産業は観光関連やサービス業、医療、福祉などの第3次産業で、非正規労働や女性が比較的多い。「男女とも離職率が高く、賃金が上がりにくい構造がある」

 離島県である沖縄は、製造業など第2次産業に必要な水や電力、用地などの確保が難しい。名嘉座元教授は「IT産業など、沖縄に合った産業の高度化を目指すべきだ」と提言する。そのための人材育成には政府の投資も不可欠。「沖縄は全国比で若い世代が多いのも特徴。課題はあるが伸びしろも多い」と期待を寄せた。

 ▽正社員比率が驚くほど高いホテルの「柔軟性」

 その中で好例と言えるのが、沖縄経済を支える宿泊業の「ホテルパームロイヤルNAHA」(那覇市)。正社員比率は86%と驚くほど高く、離職率も低水準だ。高倉直久総支配人(42)は正社員雇用にこだわる理由として「何でもできる社員が増えれば、組織は強くなる」と話す。非正規よりも雇用期間が長く、複数の部署を経験できる。

 「フロント業務を担当以外の人もできる態勢にしている。誰かが急に休んでも他部署の人材で補える」

 こうした柔軟性は、長く働きたい女性にもマッチする。當眞顕子さん(40)は会社の産休・育休取得第1号。2006年に入社後、3度の産休を経て、正社員として働く。「周りにいる同僚が支えてくれるおかげ」 

 最初の産休前はホテルのフロント係だった。シフト制で急な交代が難しく「復帰して育児と両立できるだろうか」と不安だったが、上司が「まずあなたが取って、道筋を作って」と声を掛け、一歩を踏み出した。

勤務中の當眞顕子さん

 第2子の出産を経て、第3子出産の約7年前までフロント係を続けたが、復帰に際して「もう少し育児を優先したい」と考え、会社と相談して客室の管理係に異動した。「産休を取ってもちゃんと復帰できる環境が心強く、正社員であることが安心につながった」と振り返る。

 この会社の特徴は、復帰する社員と丁寧に相談を重ね、職場異動も含めてその人に合った働き方をマッチングすること。正社員雇用はコストもかかるが、高倉総支配人は「利益追求でなくても、地元に長く根付く企業でありたい」と話した。

 ▽女性起業家が活躍する場をつくる大分県の工夫

 企業にジェンダー平等の意識を根付かせるには、女性が経営層に就くことが欠かせない。

 女性社長数を男性社長数で割った指数が0・191となり、男女格差の小ささが全国4位だったのは大分県。女性起業家による事業発表会が軌道に乗り、交流も定着と、格差縮小に一役買っている。

秦紀子さん(奥左)の店舗兼アトリエに集まって情報交換するiGC代表の宮脇恵理さん(同右)ら=3月、大分市

 「シングルマザー向けにスキルやキャリアを磨けるシェアハウスをつくります」「処分に困ったガーデニングの土を回収し再利用します」―。2月の発表会で登壇した女性らは、次々とアイデアを披露した。過去の出場者が「メンター」となり、後続の相談に乗る好循環が生まれる。

 発表会を運営するiGC代表の宮脇恵理さん(49)は「女性経営者は男性に比べてつながりが弱く、行政の支援策や融資の情報を知らないことが多い」と話す。女性起業家の輪が広がることに意義を見いだし、交流会を定期的に開催。ここに発表会の経験者が参加している。

 

ドレスのレンタル業を営む小野桃子さん=3月、大分市

 小野桃子さん(36)はドレスのレンタル業を営む。夫の失業をきっかけに起業した。就職活動をしたが、1歳の子どもがいると分かると「仕事ができるのか」と嫌がられ「起業するしか選択肢がなかった」。

 布ナプキン専門店経営の秦紀子さん(49)は「生理に関連する市場がいかに大きいかを男性に説明しても理解してもらえなかった」と話す。女性同士のつながりが励みになっている。

 ▽指数に表れない女性たち

 経済分野の指数については留意点がある。指数算出では、働いている女性に着目したことだ。つまり、専業主婦など働いていない人の動向は指数に反映されていない。

 貧困やひとり親家庭の苦しさも、見逃してはならない経済問題だ。もし、働きたいのに働けず、経済的自立の第一歩さえも踏み出せていない人がいるのなら、その環境にジェンダーの壁がないか、思いを巡らせる必要があるだろう。今回の指数に表れない女性たちのことも忘れてはならない。

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