北海道ノザワ工場から「ほぼ毎年」アスベスト飛散か 最大で住宅地の150倍超 環境省・検討会で指摘

北海道富良野市にある建材メーカーノザワ(神戸市)のフラノ事業所(同市山部東町)から毎年のようにアスベスト(石綿)が外部に飛散していると環境省の有識者会議で指摘されている。(井部正之)

ノザワのフラノ事業所からアスベストが飛散していると指摘する2020年3月の環境省検討会資料

◆「いつも工場風下」で検出

同省では全国約40地点で毎年2回(各3日ずつ)大気中のアスベスト濃度を調べている(うち32地点は2005年から継続調査)。3月23日に開催された同省アスベスト大気濃度調査検討会(座長:山崎淳司・早稲田大学理工学術院教授)で2021年度の測定結果が報告された際、継続調査している同社事業所が議論に上った。

日本繊維状物質研究協会専務理事の小西淑人委員は「また冬場の調査で工場(同社フラノ事業所)の排気に近いところなどからクリソタイル(白石綿)が出ている。いつも工場の風下。以前からずっとこの地点で出ている」「毎回調査をして出ました出ましたという報告ばかり」などと指摘した。

同省の測定データを確認すると、同事業所の敷地境界付近で2015年度以降、2020年度を除いて毎年アスベストが検出されている。

直近の2021年12月14日から16日の測定でも総繊維数濃度(アスベスト以外の繊維含む)で空気1リットルあたり最大2.6本。走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)の詳細分析により、アスベストの1つ、クリソタイルが最大で同1.4本含まれていたことが明らかになっている。

もっとも高濃度だったのは2019年度の測定で、2020年3月11日に総繊維数濃度で同37本を検出。アスベスト繊維数濃度は同28本(クリソタイル)に達した。延べ6地点で同1本超のアスベストが検出されているが、うち4回が同じ測定箇所である。

国内における大気中のアスベスト濃度は下がり続けており、定量できる下限値である同0.056本未満である場合がほとんどだ。

同省資料も「近年では、全ての地点で総繊維数濃度は1本/Lを下回っており、低いレベルで推移している」と報告している(本/Lは空気1リットルあたりの本数)。同省が2017年7月に公表した「アスベストモニタリングマニュアル(第4.1版)」では「一般環境のアスベスト濃度は、近年、濃度レベルが低下してきており、総繊維でも概ね0.5f/L以下のレベルで推移している」とし、1本超を「やや高い値」と説明する(f/L=本/L)。

◆「事業場が発生源」と環境省ら

実際に2021年度の住宅地域の総繊維数濃度は平均で空気1リットルあたりわずか0.18本(同省資料から算定)。つまり、2019年度の同37本は住宅地域と比べるとじつに206倍という高濃度飛散である。アスベスト繊維数濃度同28本でも156倍。いずれも異常な濃度といえよう。

すでに2019年度に指導権限を持つ行政機関や同社に連絡し、「対策の早期検討を求めた」と報告されている。

3月の検討会で改めて問題化したのは、2021年12月の測定でも同1本超のアスベストが検出されたからだ。

前出・小西委員は「おそらく工場の排気系統に不具合があるんじゃないか」と指摘している。

経産省北海道産業保安監督部鉱害防止課は「アスベストは吸わないに越したことはないので、対策を検討させている」と明かす。

同社リスク対策室は、「(2019年の)環境省測定後、操業状況や建屋、設備の点検はすべて行ったが異常は発見できませんでした」と説明する。また当時の同省測定前後に同社でも外部機関に委託して測定したが、総繊維数濃度が空気1リットルあたり1本を超えていないという。

「原因がわからない。現場自体がすべて蛇紋岩ということもございますけど、当社が原因なのかもともと(蛇紋岩からの飛散が)あるのかわからない」(同社リスク対策室)

現場はもともとアスベスト鉱山近くのため、周辺の土壌などにもアスベストが含まれているかもしれないとの認識だ。

しかし、2019年度の同省・検討会資料は「今回、石綿繊維数濃度が高濃度に確認されている地点は、工場南側の敷地境界に近い地点であった。特に第2期調査(12月)において、工場直近の地点で特に高濃度のアスベスト繊維が確認され、その周辺の調査では高濃度が見られなかったこと、風向から考慮し、より発生源と考えられる地点がないことから、事業場が発生源であると推察される」と報告しているのだ。

高濃度の検出があった場所はすでに述べたように、同事業所の排気口付近。何年も測定し続けて、近隣の旧鉱山周辺や住宅地域でも高濃度のデータは出ておらず、風向きからも「事業場が発生源」と考えるほかないというのが国や専門家の見解である。

◆徹底調査と飛散防止を

こうした経緯をふまえて改めて確認すると、同社は「(同事業所が発生源の)可能性が高い」と認めた。

フラノ事業所では旧鉱山の鉱滓「ズリ」であるクリソタイルを含む蛇紋岩を無害化して肥料を製造している。無害化に使う焼成炉の排ガス処理設備を更新したり、設備などの点検もしているが、いまのところ原因が特定できていない。

同社は「当社が原因と想定して外部に流出しないように原因を追求しながら進めております」というが、敷地境界の測定は半年1回程度で、作業環境測定もしていないなど、徹底した調査が行われているとは言い難い。

同省の検討会は焼成炉からの排気とみられる熱処理により非結晶化した繊維とアスベストの両方が検出されていることからも、同社事業所からの排出と指摘している。

厚生労働省資料によれば、同事業所では9人の従業員がアスベストが原因とみられる中皮腫や肺がんを発症し、労災認定を受けている。アスベスト飛散を見逃し、労働者や周辺住民らに被害が出るようなことがあってはならない。徹底した調査による原因究明と対策が望まれる。

※山崎淳司教授の崎は「山へんに右側は立に可」が正式表記

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